第7話 裏切り

 イルシュ地方では飛行型の魔物が多かったため、魔力銃が活躍した。

 私の部隊の騎士たちも新しい武器を実戦で使ったことでテンションが上がっている。魔物の討伐がこれまでにないほど楽だったのもあるだろう。


 魔力銃を見た、支援を求めて来た領主は目の色を変えて「うちも欲しい」と言っていたのでギルモア商会に連絡するように言っておいた。


 私たちが領主に挨拶してイルシュ地方を去る前に、副隊長であるアルベルトは次の目的地に向けて先に出発している。情報収集のためだ。この役は持ち回りで、今回はアルベルトだった。



 ギルモア商会の支部に移動して、冬用の装備を受け取る。


「おや、お前は」


 見覚えのある男がおずおずと私の前に進み出て来たので、私は装備の確認作業の手を止めた。カイゼルの墓参りの帰りに馬車の御者台に座っていた男ではなかったか。


「王女殿下にご挨拶申し上げます」

「お前は確か……」

「若頭の侍従のエジルと申します。若頭から殿下が国境に行く準備を抜かりなく進められるようにとこちらの支部にいました。足りないものがあれば大至急取り寄せ、殿下たちに追いつくようにしてお届けします」


 若頭とは後継者であるジスランのことだろうか。


「いや、十分足りている。アルベルトはここに寄ったか?」

「はい。三日前にいらっしゃってご自身の装備は揃えて向かわれました」

「そうか。予定通りだな」

「あの……」

「どうした」


 エジルと名乗った侍従は言いづらそうに口を開く。


「王女殿下がこれから向かわれるのは、ミトラ地方だと伺っています。どうも我々商会の情報によると、そこでは魔物の被害などないようです……」

「おかしいな。確かに辺境伯から嘆願が来ているのだが。まさか魔物が移動したのだろうか」


 私は懐から書状を出して確認する。間違いなくミトラ地方の魔物討伐の件は書かれていた。


「今までの経験上はないが、魔物が大移動した可能性も考えられる。ミトラ地方は雪の季節も近付いて寒くなるから移動しているのかもしれない。アルベルトに斥候をさせているから大丈夫だろう。どのみち、王命だから魔物がいなくとも向かわねばならない」

「差し出がましいことを……ご武運をお祈り申し上げます」

「あぁ、参考にはさせてもらおう。そうだ、イルシュ地方の領主が魔力銃に興味を示していた」


 エジルにそう伝えてから、ギルモア商会の支部を後にしてミトラ地方に向かった。

領主に挨拶をし、アルベルトと落ち合うはずの場所に向かう。領主と辺境伯の話では、大型の魔物の被害が深刻だという話だった。他の地方でも被害があり、辺境伯の軍だけでは手が回らないのだ。


「商人のウワサはあてになりませんね」

「他の地方の間違いかもしれないからそう言うのはよくない。むしろ魔物が移動して来た可能性だってあるのだから」


 部下とそんな会話をしながら、約束した場所に向かうがまだアルベルトが来ていない。


「アルベルトがいないな」

「小便じゃないですか」

「こっちはかなり寒いっすもんね。近くなります」


 イルシュ地方よりも全員で厚着をしてアルベルトを待ったが、彼は現れなかった。


「何かがおかしい。今までこんなことはなかった。引き返そう」

「森の中に入ってみないのですか?」

「あぁ、辺境伯と領主にはアルベルトは会っているはずだから何か問題が」


 私は言葉を最後まで紡げなかった。

 大きな音と光が周囲で起きる。


「殿下!」

「撤退だ! 撤退しろ!」


 身を屈めながら慌てて小銃を抜いて応戦する。周囲では爆発が起きていた。

 十発ほど連続で撃つと、向こうで呻く声が聞こえる。


 煙がうっすら途切れた向こうに見えたのは、隣接するホロックス王国の鎧だった。広大なしかも魔物がうようよいる森を抜けた先にあるホロックス王国の騎士たちがなぜここに?


 驚きながらも私は銃に魔力を込めて撃ち続ける。アルベルトはまさか、こいつらにすでにやられたのか? いや、それならアルベルトを捕えて人質にしておいて何か要求をしてくるはず。辺境伯や領主は他国の侵攻に気付かなかったのか?


 爆弾に含まれてた釘や石を剣で薙ぎ払いながら、部下と共に撤退するが明らかに部下の数は減っていた。爆薬とともに血の匂いもする。


 一際大きな音が近くでした。視界が光に包まれる。

 背中に重さを感じたが、爆風で吹き飛ばされて振り返ることはできなかった。

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