第47話 迎え
笑顔で胸を張るスタアとは対照的に、リセチの顔は渋かった。
「強いって言ってもCランクでしょ?そのレベルでどこまでフォローできるのよ?」
「おい!女!スタア様に向かってなんと無礼なことをっ!」
スタアの取り巻きの1人が声を荒らげる。
「あははっ。こらこら。この程度のことで声を荒らげてはいけないよ?彼女はまだ僕たちの戦いを見たことがないからね、仕方のないことさ」
スタアはリセチの嫌味を受け流し、余裕のある表情で続けた。
「リセチくん、だったね。僕たち『神聖なる騎士団』は、最近立ち上げたパーティだからまだランクが低いだけで、実力は折り紙付きなんだ。何てったって僕のパパが、僕のために大枚をはたいて極東領域中から精鋭をかき集めたんだからね!恐らく実力はAランクだよ!」
「ふんっ、Aランクねぇ……どうする?2人ともー」
リセチの口がへの字に曲がる。
「まぁ……そうだな。仲間集めが足踏み状態であることを考えると、前向きに検討してもいいだろう。アルはどう思う?」
「僕は……正直、早く実践に出てみたい気持ちが強い。村のみんなの仇を討ちたいよ。それにスタアさんのパーティがそんなに強いっていうなら、勉強にもなりそうだし」
「少年!君は良いことを言うじゃないか!そう!君たちのような若いパーティは勉強が必要なのだ!よし!そうと決まれば早速明日の朝に出発しよう!」
「明日!?スタアさん、ちょっと早すぎ――」
「――勉強熱心な少年!良いことというのは早いに越したことはない!それに危険なことは無いから安心したまえ!ということで、朝の鐘がなる頃に君たちの宿屋に迎えの馬車を向かわせるよ!ではまた!」
アルの静止も聞かず一方的に約束を取り付けたスタアは、取り巻きを引き連れて去って行った。
「何なの……アイツ」
「恐らくはリセチ、君の引き抜きが目的なのであろう。私とアルのことはほとんど眼中に無いだろうな」
やれやれと苦笑いを浮かべたベアトリーチェはリセチの問いに応える。
「あれ?宿屋に迎えを、って言ってたけど、スタアさんって僕たちの宿屋知ってるのかな?」
アルが疑問を口にする。
「確かに。あいつバカそうだったもんねー。知らないんじゃなーい?ってか、あんなのどうでも良いよ。そんなことより今後の仲間集めのこと考えようよ」
3人はスタアのことなどすぐに忘れて、仲間集めについての相談をしながら宿屋へと帰っていった。
―
――
―――
「な、何だ……これ」
翌朝、アルが朝食を仕入れに市場へ向かおうと宿屋から出ると、宿屋の入口には細かな装飾や煌びやかな宝石がちりばめられた豪華な幌馬車が3台停まっていた。
アル達はお金を節約して粗末な宿を取っていたため、目の前にある豪華な馬車の存在が余計に浮いて見えた。
「やぁ!熱心な少年!」
3台ある豪華な馬車の中でもひと際輝きを放つ馬車から、爽やかな声が聞こえてきた。
「あ、スタアさん。おはようございます。ど、どうしたんですか?こんな朝早くから……」
「どうって……君。迎えに行くと行っただろう?」
「あぁ……本気だったんですね。というかどうして僕らの宿を知ってるんですか?」
「もちろん本気さ!宿屋は部下に調べさせたんだ!ウチには優秀な斥候が居てね」
(そんなことしてたのか……怖い人だな)
「アンタ、本当に来たのね」
突然アルの後方から声がしたため振り返ると、そこには渋い顔のリセチが立っていた。
「朝から騒々しいと思ったら、そういうことだったのね」
「おぉ!リセチくんではないか!迎えに来たぞ。ささっ、準備ができたら乗りたまえ!僕は先に乗車しているからな!」
スタアはリセチの登場に目を輝かせると、跳ねるような軽やかなステップで馬車へ戻っていった。
「まだ準備なんてできてない。先行っててもいいよー、後からついてくからさー」
スタアの背中にリセチが投げやりな返事をする。
(あはは……この言い方、絶対行く気ないだろうな)
アルがリセチの話し方からそんな分析をしていると、昨日もスタアの傍に控えていた巨漢の男が、低い声で話し始めた。
「おい、お前ら。既にギルドで申請は受理されているからな。もし同行を断れば、契約違反として報告することもできるんだぞ?」
「ん?……何よ?申請?何のこと!?」
「昨日のうちにギルドへ『同行パーティ申請』を済ませておいたのだ」
「済ませておいたって……ふんっ、アタシ達の許可も無くそんなことできるわけないじゃない!」
一瞬焦りを見せたリセチだったが、道理の通っていない答えを聞き、偽りだと安堵する。
すると、巨漢の男は懐からパンパンに膨らんだ布の袋を取り出し、ジャラジャラと音をさせながらこれ見よがしに見せつけてきた。
「世の中はだいたい
巨漢の男は下卑た笑いを見せつけると、顎で宿屋を指し、準備するように指示した。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
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