第45話 重ね掛け
数分後、ベアトリーチェが自分の世界から戻ってきてからアルは本題に入った。ザイン村と自身に起きた悲劇、そしてその代償として手に入れた強大な力と呪われた左腕について。
話すうちに熱が入ったアルは、この世界から食人巨蟲を駆逐する計画までも話した。
「――と、いうわけなんです」
「なんと言えばいいか……。本当に辛い経験だったな。しかし、それに挫けることなく、食人巨蟲を駆逐しようという夢を持ち、君の心の強さには敬意を表する。しかし、食人巨蟲が人を苗床にするなど聞いたことが無いな……」
(夢……夢か。良い言葉なのに……嫌な言葉だなぁ。夢は寝ている時に見るものだ。僕は今、寝言でも言ってるのかな。って……だめだめ。卑屈になるな僕!それだけ実現するのが大変なことなんだ!)
「……ありがとう。ベアさん」
「?……どうしたの?アル」
リセチは、一瞬の間を見逃さなかった。
「いや、なんでもないよ。じゃあ、これからの予定について話さない?僕はすぐにでも食人巨蟲をぶっ飛ばしに行きたいんだ」
アルはリセチの探るような目をやんわりスルーして、話題を変えた。
「私も同感だ。あの蟲どもを殺したくてウズウズしている。しかし、あまりにもパーティの人数が少ない。この状況で巣に向かったとしても殺されるだけだろう」
ベアトリーチェ諭すような言葉に続いてリセチも口を開く。
「そうね。アルの気持ちは分かるよ?アタシも早く『狂火乱舞』の皆の仇を討ちたいし、何より新しいパーティの一歩目を踏み出したい気持ちでいっぱい。でも、さすがに3人って厳しいよ。アルも戦闘経験は無いわけだし……。それにアル?君のAGIは低すぎるってこと忘れたの?」
「うっ……そう、でした。はい」
アルがばつの悪そうな顔をしていると、ベアトリーチェが口を開いた。
「AGIの強化についてだが、私の補助魔法でなんとかなるだろう」
「あっ、そういえばベアちゃんってVITとAGI向上の補助魔法使えるんだったね。でも、アルのステータスカード見たでしょ?まだAGIが11しかないから、いくら中級の補助魔法だとしても実戦レベルに持っていくのは難しいんじゃないの?」
「普通ならそうなるな。ただ、補助魔法を重ね掛けすれば大幅に上昇させることも可能だ」
「重ね掛けはダメだよ!アルの負担が大きすぎる!1回2回の戦闘なら行けるだろうけど、冒険するとなると何度も戦闘を繰り返すんだよ?」
リセチは驚いた表情でベアトリーチェに反論する。
「うむ。だから、効果時間を限定的にするんだ。30分、いや10分。戦闘に入る少し前に魔法を掛けて終わったら解除する。細かくて大変な作業だが、アルの負担はかなり軽減できる。不意打ちでもよっぽどの数でなければ、前衛で戦いながらかけることも可能だ」
「前衛をこなしながら!?そんな高度なこと……ベアちゃん、本当にできるの?」
疑いと不安に満ちたリセチの目をしっかりと見ながら、ベアトリーチェが答える。
「あぁ。今までも何度か実戦したことはある。問題ない」
「えぇっ、凄っ!もう実戦したことあるんだ!ベアちゃんって万能なのね!じゃああとはアルが補助魔法の重ね掛けに慣れておけば、即席だけど戦えそうね!」
ベアトリーチェの自身に満ちた答えを聞くと、リセチの顔が途端に明るくなり、輝く笑顔が咲いた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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『ベアトリーチェの有能さは素晴らしいな!』
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