第44話 呼び名

「ふむ、まぁ人には様々な事情があるものだ。大丈夫。さほど気にしてはいない。そしたら、アル。君のステータスカードも見せてもらっていいか?」


(僕の番に……なっちゃった。もし悪い奴にステータスやお金のことを知られたら、僕は実験台にされちゃうかもしれないってリセチは言ってたけど……どうしよう)


 アルが先ほどのようにチラリとリセチを見ると、リセチはこちらを見て小さく、しかし強く頷いた。


(ベアトリーチェさんなら信用できる……ってことかな?)


「えぇっと……はい。どうぞ」


 アルはズボンのポッケからステータスカードを取り出し、ベアトリーチェに恐る恐る手渡した。


「ありがとう。ふむふむ……なっ!?ご!ごひゃ!?」


(やっぱそうなるよね……)


「これは……冗談、いや。ステータスカードに細工ができるわけが……いや、私が聞いたことが無いだけで、新手の手法が――」


「――ベアトリーチェさん。アルのステータスは本物だよ」


 ベアトリーチェの独り言を遮るようにしてリセチが割って入った。


「し、しかし!」


「アタシも最初に見た時、そうなった。アルはね、特殊なの」


 リセチは困ったような表情で笑った。


「と、特殊……君は一体、何者なんだ?」


 ベアトリーチェが戸惑いの表情でアルを見つめる。


「リセチ……」


「うん。ベアトリーチェさんになら、いいんじゃないかな。アタシの勘はそう言ってる」


「そっか……。分かった。ベアトリーチェさん、これから僕のことお話しますね。ただし、絶対に秘密にしてください。何か悪いことをしてるわけじゃないんですけど、知られたくない秘密があるんです」


「分かった。約束は必ず守る」


「助かります。ここじゃ人目が多いから、僕達の宿に行きましょう」


 アルの提案に2人が納得すると、少し冷めてしまった料理をサッと平らげ、傭兵酒場を後にした。


――

―――


「さっ!ベアトリーチェさん!入って入って!」


 まるで友人を招き入れるかのように、宿屋の自室前に先回りしたリセチが笑顔でベアトリーチェに手招きをする。


「あぁ。ありがとう。失礼させていただこう……おぉ、これはまた、年季の入……趣のある部屋だな。まさに駆け出しの冒険者感といった感じで……良いな」


「もぅ。ベアトリーチェさん気を使いすぎだよー?」


 リセチが人差し指でベアトリーチェの脇腹をつつく。


「そうですね。一時的とはいえ背中を預け合うんですから、ぜひリラックスしてもらいたいです」


「いや、はは……すまない。あまり慣れていなくてな」


 頬を染めながらベアトリーチェが照れる。


「んー……じゃあお近づきの印に呼び方を変えてもいい?」


「う、うむ。よいぞ」


 ベアトリーチェが緊張した面持ちで頷く。


「ベアちゃん!って呼ぶ!」


 リセチは太陽のように明るい笑顔で伝えた。


「ベ、ベア……ちゃん?」


 あまりに可愛らしい呼び名に、ベアトリーチェがたじろぐ。


「じゃあ僕はベアさんにしよっと。いいですか?」


「あ、あぁ……うむ。問題ない、問題ないぞ。……か、可愛い呼ばれ方というのも悪くはないはずだ。私たちはパーティなんだからな。うんうん。人と人との距離感を測る手段はあまり無いが、呼び名を変えることは距離間を縮める良い手段だとあの本にも書いてあったし――」


 ベアトリーチェは顔を真っ赤にしながら、ブツブツとつぶやき始めてしまった。


「あ、ベアちゃんが自分の世界に入った」


「ちゃん付けはハードルが高かったみたいだね」


「まっ、そのうち慣れるでしょ!」





◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

読んでいて


『ベアトリーチェの読んだ本のタイトルが知りたいぜ!』


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