第42話 過去

「あなたが良いです!ベアトリーチェさん」


「!?」「おぉ?積極的なアル」


「い、いいのか?私で……」


「はい。ベアトリーチェさんがいいです。僕たち元々防御を得意とする前衛の人を探していたんでピッタリです!能力値は高いし、補助魔法まで使えるなんて最高ですよ!リセチはどう?」


「うん!アタシも賛成!」


「夢じゃ、無いだろうか……悪い冗談なら早めに言ってくれよ?」


 アルとリセチの言葉を聞いて目が点になったベアトリーチェが放心状態で呟いたところで、注文の品が届いた。


「はぁい、お待たせしましたー!ビールとパンとソーセージです!」


 受付の女とはまた別の女が明るい声で配膳した。


「おっ、ソーセージ、これで3人分……ん?なんだこのお肉。頼んでないお肉が乗ってる……違うテーブルと間違ってませんか?」


 アルの目の前に運ばれたお皿には、山盛りのソーセージと分厚い肉が盛り付けられていた。


「サービスよ!サービス!ベアちゃん!交渉成立、おめでとう!!君たちもベアちゃんをちゃんと見てくれてありがとう!」


「ミア……すまないな。いや、ありがとうか」


 ミアと呼ばれた若い店員もベアトリーチェも薄っすらと涙を浮かべていた。


「あ、ごめんねー!2人とも!実はさ、ベアちゃんは1年くらい前にフラッとこの酒場に来て傭兵登録をしてくれたんだけど、右手が、ね?こうだから、なかなか交渉がまとまらなくてね。その内、さっきのデブ男みたいな奴がベアちゃんをバカにしだすもんだから余計に避けられちゃって……能力値も高いし、真面目なのに……もう私、悔しくって悔しくって……うぅっ」


 ミアは話しながら、辛い過去を思い出したのか泣き始めた。


「ミア……泣きすぎだ。まったく。仕方のないやつだな。すまないな2人とも。この子は交渉が上手くいかない私を献身的にフォローしてくれていたんだ。オススメの傭兵を質問された時には、私を推薦してくれたり、仕事が休みの日でも酒場に来て、私の愚痴を聞いてくれたりもした。良き友なのだ」


 ベアトリーチェは、両手で顔を覆いながら泣くミアの頭を優しく撫でながら、アルたちに苦笑いを浮かべていた。


 その後、少し落ち着きを取り戻したミアは、簡単な挨拶をして業務に戻っていった。


「良いお友達ね。ねぇ、もしベアトリーチェさんが嫌なら答えなくても良いんだけど、右手がやられても尚、傭兵にこだわるのは何で?他にも仕事ならあると思うの」


 リセチが丁寧かつ大胆にベアトリーチェの内面に切り込んでいく。


「いや大丈夫だ。気にしないでくれ。そうだな……一言で言うなら『復讐』かな」


(復讐……)


「私の家は、いわゆる冒険者一家としてこの辺では多少名の知れた家の生まれなんだ。今から7年前、私が15才の時に家族で参加した冒険の際、私の不注意が原因で利き腕である右腕を喰われた。一流の冒険者になるようにと父から徹底的に教育されていた私は、右腕を失くした後も左手で必死に剣の稽古をしたんだが、とてもじゃないが元の実力に戻ることはできなかった。そんな私は家での居場所が無くてなってな……逃げるようにして家を出たんだ」


「……それは、辛いね」


 リセチが寄り添うような声を掛ける。


「あぁ……正直、辛かった。家を出た当時は、家のため、父のために必死で剣の稽古をしてきた私の人生は何だったのかと、ずっと考えていたよ。そんなこと考えてる内、心が徐々に蝕まれてきて、右腕を喰った食人巨蟲にも、家にも怒りを覚えるようになった。そんな荒れ狂う心を鎮めるため……食人巨蟲を殺したくて、傭兵になったんだ。攻撃ができないのに、と思うかもしれない。確かにそうだ……私だってこの手で八つ裂きにしたいと思ってる。だが、私の代わりに仲間が殺してくれるだけでも、多少なりとも気が紛れるのだ。君たち2人には1匹でも多くの食人巨蟲を殺してほしい。そのためなら報酬も最低限でいい!」


 話していくにつれ、ベアトリーチェの声に憎しみが籠っていった。


(この人、僕に似てる……かも)


「ははっ……少し、語りすぎてしまったな」


 ベアトリーチェは、ハッと我に返り照れ笑いを浮かべた。


「そんなことないよ。教えてくれてありがとう。ベアトリーチェさんことがよく分かったよ」


 リセチの言葉を聞いてベアトリーチェは優しい笑顔を浮かべた。




◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

読んでいて


『復讐に燃える戦士って狂気的でカッコいいな!』


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