第41話 失った右腕

「大丈夫か?」


 アルがデヨングの退場を呆気に取られて見ていると、背後でベアトリーチェの声がした。


 ハッとして振り返ると、ベアトリーチェがリセチの引っ張り起こすところだった。


「うん。大丈夫。ありがと、ベアトリーチェさん」


 3人が席に着く頃には酒場は賑わいを取り戻しており、何事もなかったかのような空気が流れていた。


「2人とも、すまなかったな。私のせいで……」


 凛とした表情を曇らせながら、ベアトリーチェは丁寧に頭を下げた。


「いいの!ベアトリーチェさんは悪いことしてないし。ただ、色々とありそうだから、その辺は聞いときたいかな」


「うむ……そうだな。それが筋だな。はぁ……。まず私は恥ずかしながら攻撃に参加できない。と言うのも昔、食人巨蟲との戦いの際に右腕を喰われたからだ」


 そう言うと、ベアトリーチェは無いはずの右腕が、金属音と重量感のある音と共にテーブルの上に置かれた。


 その音は右腕の存在を主張していた。


(ん?金属?)


 長袖だったため気付かなかったが、手や指を見ると一目瞭然だった。


 よくよく見ると、袖からは金属の小手のようなものが見えていた。更にベアトリーチェが袖を捲ると、上腕の途中まで金属の腕が付いており、接合部分は金属と人の肌が融合した痛々しい姿だった。


「うわ……義手なんだ」


 リセチは片手で口を抑え、驚きを露わにしていた。


「あぁ。しかし、これはただの義手ではなく、魔法が付与された義手でな、腕の上げ下げや軽く指を動かす程度ならできる。しかし戦闘となれば、全く役には立たん」


「ふーん。もしかしてこれが原因で経歴が無いの?」


「あぁ。そうだ。何度も交渉の席に呼ばれたことはあったのだが、左手1本しか使えないとなると中々雇ってもらえないんだ」


「でも補助魔法が使えますよね?」


 アルは疑問をぶつける。


「あぁ。盾で防ぐだけではと思い必死に習得したんだがな、この国では補助されるというのは『能力値が足りていない証拠』とされ、嫌われるんだ」


「確かに、この国ではそういう風潮ってあるよね。でも嫌がられるって分かった上で習得したの?」


 リセチも遠慮なく質問をぶつける。


「無論だ。私も最初は毛嫌いしていたのだが、少し学んでみるとこれが結構素晴らしい魔法だと分かったんだ!この国の者たちは剣神スザクに憧れすぎていて、全く目もくれないがな。私はしがない傭兵だが、私を通して補助魔法の素晴らしさを知ってもらいたいという思いもある」


「へえ。いいですね、補助魔法。僕、興味が湧いてきました」


 アルの言葉を聞いたベアトリーチェは表情を崩して答える。


「ほ、ホントか!?き、君は……いや、君たちは私をバカにしないし、変わっているな。あ、いやいや失礼だったな。忘れてくれ」


「ははは、気にしないでください。僕たち実際変わったパーティだと思います」


「んー?アル?変わってるのは君だけで、私は普通のヒーラーなんだけど?」


 隣で聞いていたリセチが頬を膨らませて冗談ぽくアルに抗議する。


「変わり者の僕と組んでるリセチは十分変わり者だよ」


 あっさりとアルに返されたリセチはぐうの音も出ず、先ほどよりも頬を膨らませるだけだった。


「ふふっ君たちは仲が良いんだな。それでどうする?私を雇うか?気を使わなくてもいい。私以外にも優秀な――」


「あなたが良いです!ベアトリーチェさん」




◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

読んでいて


『欠損しても諦めなかったベアトリーチェ凄い!』


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