第34話 魔法
順調に作業が進んでいたと思いきや、バーバが急に驚嘆の声を出すと、杖の先から発していた光も、手の甲の幾何学模様から発していた光も一瞬にして収まってしまった。
「バーバさん!?」
驚いたリセチがこれまた驚いた表情で固まるバーバに声を掛ける。
「す、すまないね。ビックリさせたね」
アルは自身の秘密に気付いてしまったのではないかとヒヤヒヤしながらバーバに質問する。
「ど、どうされたんですか?」
「それがねぇ、あんたの体が突然呪紋を拒否したんだよ」
「ということは……僕は魔法を覚えられないということですか?」
申し訳なさそうに首を縦に振るバーバを見たアルはしばらく言葉を失った。
唖然とするアルを気の毒に思ったバーバは、攻撃魔法3種と回復魔法、補助魔法まで試してみたが無駄だった。
「こんなことは初めてなんだ。すまないねぇ」
「いえ……僕に何か原因があるんだと思います。はぁ……」
アルには心当たりがあったが、口にすることはできなかった。
何度も謝るバーバに気にしないでと挨拶をして出てきた2人は大通りに戻りながら、臨時の作戦会議を開いた。
「困ったね」
ローブの下で鳴りを潜めている左腕を見下ろしながらアルは答えた。
「うん。まさか1つも覚えられないとは……僕はあの魔力玉だけで戦わなきゃいけないのかな」
「まだ諦めるのは早いよ。これから装備品や道具関連のお店を片っ端から見て回ろ!アイテムってホントに色んな物があるから、もしかしたらアルの魔力を活かせるアイテムがあるかもしれないし!」
「うん。そうだね。落ち込んでちゃダメだ!どちらにせよ装備品も揃えなきゃいけないし!よーし!いくぞー!」
「おー!」
成人の儀を終えて間もない若き2人の冒険者は、大空に向かって高々と拳を掲げてから、大通りの雑踏の中に消えていった。
――――――――――――――――――――――
「次で最後か……」
何軒も見て回ったことで、装備品はそれなりに充実したが、肝心の攻撃魔法に変わるアイテムは見つかっていなかった。
夕方に差し掛かり、大通りの賑わいも落ち着き始めた頃、リセチとアルのお店巡りも残るは最後の1軒となっていた。
「うん。最後は期待できるといいね。えっと確かこの辺…あ、ここだ」
「おぉ……だいぶ古い建物だね」
最後に訪れた店は、外観に年期が入っており、店内から明かりが漏れ出ていないければ、営業しているのか分からないほどであった。
2人は口には出さないものの、明らかに落胆した表情で入店した。
「こんばんはー」「すみませーん」
「おぅ!客か?」
声は奥の方から聞こえた。店主を探すように2人は奥へと入り込んでいく。
入口の正面にあるカウンターには人はおらず、その無効にある作業スペースに太った男がいた。
「客でーす」
リセチが気のない返事をすると、作業台に向かっていた男はこちらをギロリと睨む。
2人の顔を交互に見た後、作業の手を止めてカウンターまで寄ってきた。
「ガキが来るたぁ珍しい。どんなものを探してるんだ?」
カウンター越しに立っている店主は、身長がアルより20㎝以上高く、冒険者と見間違うほど筋肉が盛り上がっていたので、大きな岩のようだった。
「呪紋が刻めなくても魔法が使いたいんだけど、何かないかなーって」
大岩のような相手に臆することなく、フワフワとしたいつもの口調でリセチは話しかけた。
「あん?妙なこと言うな、嬢ちゃん。呪紋が刻めないってのは初めて聞いたぜ」
「うん。えっと……そう、特殊な病気らしいの。アタシの隣にいる子がそうなんだけど、INTは結構高くてね、パーティメンバーのアタシとしては、何とかその素質を活かしたいなって思ってるの」
リセチの紹介を聞いた店主は、顔をアルの方に向け、鋭い切れ目でジッと見つめた。
「初めまして……アレクサンダーです」
普段はどうせ略されるからと、初めからアルと名乗っていたが、店主の鋭い眼光の前では、つい本名で名乗ってしまった。
「アレクサンダー。アルか、よろしくな。俺はグスタフだ」
その後リセチも自己紹介を簡単に済ませ、店内を3人で回っていると、アルの目にとある商品が目に入った。
「グスタフさん、この腕輪は商品なんですか?」
アルが店の片隅に無造作に放置されていた腕輪を指して質問すると、グスタフはハッとした表情を浮かべて答えた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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『魔法が使えないアルは役に立つのか!?』
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