第33話 呪紋を刻め
「久しぶりのお客さんだから年甲斐もなく張り切っちゃうわね!さぁどっちが呪紋を刻みたいのかしら?」
「僕です」
「おや、坊やのほうかい。それで?どの魔法にするんだい?」
(そういえば、攻撃魔法は火・氷・雷の3種類あるんだっけ。どれにするか決めてなかったな)
そんなことを考えながら、リセチの方を見ると、リセチがバーバの質問に答えた。
「実は、どの魔法がいいか決めかねているの。アタシ達はDランクの冒険者で、彼はまっさらな新人。INTがすっごく高くて優秀だから攻撃魔法を覚えさせたいの。でもAGIやVITは全然ダメだから中衛ポジションにするつもり……って感じなんだけど……どうかな?」
リセチの悩みを聞き取ったバーバは、顎に指を当てて考え込んでから答えを出した。
「そしたら……氷属性かねえ。一番防御性能が高いからね」
「やっぱり防御がオススメなんだ……自分の身を守りやすいもんね」
(やっぱり?)
「氷属性は僕に合ってますか?」
意気投合している2人を見て、なんとなく置いてけぼりになりたくなかったアルは質問した。
「坊やは攻撃魔法にあまり詳しくは無いようだね。よしよし、このバーバが教えて進ぜよう」
「ありがたいです!お願いします!」
「うむ。ここでは一旦生活魔法の話は省くぞ?攻撃魔法についてだけじゃ。では、まず火属性から。広範囲高火力で人気の属性だね。しかしその分、同士討ち……フレンドリーファイアが起こしやすいから、私は初心者にはオススメはしてないよ」
(さっきの講習会で習った話では、まず前衛が突撃していくって話だったからなぁ。敵だけを狙うのは確かに難しそうだ)
「次は雷属性。雷属性は非常に攻撃力が高いけど、射程が極端に短くて、攻撃範囲もあまり期待できないよ。サポーターなら護身用として持っておくのは良いんだけどね……中衛からの攻撃目的ってことなら使い勝手は悪いだろうね」
(なるほど、雷属性は射程が短いのか。前衛のラッシュスイーパー(突撃掃討)やインターセプタ―(迎撃中衛)向けって感じかな?)
「最後は氷属性。氷属性は攻撃力は低いけど、柔軟性が高く有能な魔法だよ。氷を足元から生やして単体を突き刺すこともできるし、空から大量の氷柱を降らせて広範囲を攻撃することもできる。なんなら自分の周囲に氷の壁を作って、防御することだってできる」
(色んなことができて面白そうだ!)
「バーバさん、ありがと!そしたら……アル。氷属性でいい?」
「うん!柔軟性が高い方がいいよね!バーバさん、氷属性でお願いします!」
「よしよし。そしたら手の甲を出しな」
アルは手を出せと言われ、体をビクリと震わせた。
(手を!?いやいや落ち着け!右手を出せばいいんだ!)
左手のことを悟られないよう、何食わぬ顔で右手をローブから出す。
「お、お願いします」
「はいはい――」
バーバが木の枝のような細い杖を摘まんで、いざ呪紋を刻もうかと言う時に、リセチが割り込む。
「あ!バーバさん!お金っていくら?」
「あらあら!ヤだわ、私ったら!もう歳なのね……」
大きなため息をつきながら、額を手で押さえるバーバ。
気を取り直しリセチとアルを交互に見やる。
「料金は50万ゼニよ。あなたたち新人さんって聞いてるけど、こんな大金持ってるの?」
「うん、大丈夫だよ!ギルド払いでお願いね」
ギルド払いでお願いすると、バーバは机の引き出しから羊皮紙を1枚取り出し、リセチに渡す。
受け取ったリセチは机の羽ペンを拝借して、羊皮紙の下部に『黎明の旅団 リセチ』と、慣れた手つきでサインをした。
「はいはい。恐らく今日か明日には引き落とされると思うからよろしくね。そうしたら、坊や。改めて呪紋を刻むわよ。もう一度手を出して」
アルは言われるままに手を出すと、バーバは先ほど同様、木の枝のような杖を取り出し、手の甲に杖の先を向ける。
杖の先をアルの肌に触れる寸前まで持ってくると、バーバがブツブツと何かを唱え始めた。
その表情は、先ほどまでの優しい老婆のそれではなかった。目を見開き鬼のような形相となっていた。
(な、なんだこの緊張感は!バーバさん、怖い。怖すぎるよ!)
アルがバーバの表情に恐怖していると、杖の先が青く光り、間もなくしてアルの手の甲に複雑な幾何学模様が浮かび上がる。
(模様が出てきた!)
幾何学模様は徐々に色を濃くし、光を放ち始める。
「な、なんだいこれは!?」
突如、バーバの驚きの声が響いた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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『お婆ちゃんだからバーバなのか!?』
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