第31話 アルの価値
「ただいまー」
「あ、おかえりー。ちょうどアタシも出かけようと思ってたんだー」
アルが宿屋の部屋に戻るとリセチが身支度を整えていた。
「そうなんだ。何処へ行くの?」
「んー。まず一旦馬車に戻って、いらないアイテムや装備品を集めて売っぱらうでしょ。それをギルドに預けてるお金と合わせて、装備を整える!時間に余裕があれば『傭兵酒場』に行こうかなー」
アルは聞きなれない言葉に反応する。
「『傭兵酒場』って何?」
「傭兵酒場っていうのは、パーティメンバーの一時的な補充をするところだよ。お金で雇って、一定期間仲間になってもらう人を傭兵って言うの。で、その傭兵と出会って交渉する場所が傭兵酒場!」
「へぇ、色んな冒険者が見れるのは興味あるなぁ。でもさ、一時的な仲間を探すんじゃなくて、ちゃんとした仲間を探す方がいいんじゃないの?」
「んー、確かにそうね。でも、アタシたちって冒険者ランクもE……講習会に参加したからDか。Dランクになったばかりで、メンバーも2人。冒険者同士の繋がりもない。自分の命を預けるっていうのに、こんな信用の無いパーティ、誰も入りたがらないよ。何なら傭兵と交渉をまとめるのも難しいと思う。もう少し元々のメンバーが居てくれたり、居なくてもパーティに強烈な魅力があると良いんだけど……」
「確かに。パーティの人数が少ないってことは寄せ集めになるんだもんね、そりゃ不安か……うーん、魅力か。例えば、お金を他のパーティより多めに払うとか、自分で言うの恥ずかしいけど、僕の能力を見てもらうとか?」
アルは顔を赤らめながら提案する。
「それは危険ね。分不相応の力とお金には変な奴が近寄ってくることが多いの。どこから匂いが出てるの?ってくらい敏感に嗅ぎつけてくるから」
「分不相応か……」
アルの沈んだ声を聞いたリセチが何かを感じ取り、フォローの言葉を入れる
「アルのことを悪く言いたいわけじゃないの。でも、いくら魔力系の能力値が世界で指折りの能力値だとしても、急に授かった力だからね。能力値を見せても、アルはまともに食人巨蟲と戦ったことも無いから、ベテラン冒険者が見れば一瞬で素人だと見抜かれちゃう」
「……そうだね。努力して身に付いたものじゃないもんね。そりゃ分不相応か」
「それにね、使える魔法も見たことない魔法、左腕は呪われた姿。こんな特殊な人、悪いやつから見れば、それこそ涎が出るほど美味しそうに見えるんじゃないかな?」
「僕って……そ、そんな美味しそうなの?」
「ふふっ、美味しそうだよ!その体のことを知ったら『アルを捕まえて実験してみたい!分解してみたい!』って人は多いと思う。そしたら、悪いやつはあの手この手でアルを捕まえに来ると思うし、そこから逃れる力はアタシたちのパーティには……無い。アタシも守り切れないと思う」
「攫われて実験台かぁ。じゃあ、お金を多く払うのも同じ結果になる?」
「うん。弱いパーティがお金を持ってたら、目を付けられて盗られるでしょうね。脅される程度ならまだいいけど、拉致られて問答無用で殺される可能性もあるから……」
「そっか」
「まぁ、まず行ってみよ!意外とアタシ達でも大丈夫って言ってくれる人がいるかもだし!……じゃ、そろそろ町に出よ!日が暮れちゃう」
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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『アルを売ったら高くなりそうだな』
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