第17話 決着

「アル君!できたね!」


 アルが呆然としていると、リセチが手を振りながら、フラフラっと馬車へ駆け寄ってくる。


「これは……リセチさんが?」


「そうだよ!アル君のおかげ!水晶にスッゴイ量の魔力が送られてきてね!アタシでも簡単に駆逐できちゃった!」


(魔転送、成功してたんだ!)


 改めて戦闘が繰り広げられていた場所を見ると、その威力が分かる。大きく削り取られた地面や森。消えた死体や食人巨蟲。


 そこで本当に戦いがあったのかと疑いたくなるほど、何の痕跡も残ってはいなかった。


「この攻撃魔法ってね、普段だと下級程度の威力なんだよ!アタシ、メインはヒーラーだけど護身用に一応習得してたの!今のすっごい威力だったぁ!でもね、アタシが普通に使っても突撃型の硬い外皮は貫けないんだよ!せいぜい防御力の弱い飛行種をギリギリ倒せるくらいなんだけどさ!アル君の魔力ってトンデモナイね!」


 興奮して話すリセチは呼吸も荒く、瞳孔も開いていて狂気性を感じた。


「そ、それは良かった。ところでリセチさん、ここから一旦離れませんか?」


 アルが引き気味に提案すると、ハッと我に返ったリセチは、キョロキョロと辺りを見渡し、そうねと言って馬車の御者席へ素早く乗り込んだ。


 今にも出発しそうになっていたリセチにアルが焦った声色で質問する。 


「リセチさん!他にも生きてる人が――」


「いないよ。数えてたから」


 先ほどの興奮していたリセチとは別人のような冷たい声が返ってきた。


(数えてた?死体を?仲間が死んでいくのを見ながら……自分の仕事をしてたってこと?どうやったら……そんな……)


 リセチは急いで準備を整えると、全速力で馬車を走らせた。


――

―――


(追ってはこないみたいだな。ふぅぅ……ヤバかったぁ)


 馬車が走り出した後も、後方から食人巨蟲が来ないか注視していたが、結局一度も姿を見ることはなかった。


 興奮と不安が落ち着き始めてから、アルは今までのことを思い返していたが、身に降りかかった災難が大きすぎて、頭の中はぐちゃくちゃなままだった。


(村がやられて、僕の体もおかしくなって……仇を討とうにも、魔法なんて覚えてないから敵討ちできないし。というか、やっぱり僕には食人巨蟲と戦うなんて無理だ!AGIの能力値が低すぎて『狂火乱武』の人たちの動きも、食人巨蟲の動きも全く追えなかった!それに……すごく、怖い……はぁ……僕は村のみんなの仇を討つんじゃなかったのか!?まだウジウジと……くそぅ……)


「ねぁ、アル君」


 悶々と考え込んでいると、御者席のリセチからいつものトーンで話しかけられた。


「アル君ってジケニアの町で嫌なことあったって言ってたよね?」


「え?なんで知って……あ、ザイン村で話したんだっけ」


「うん。だから今ゴーシップの町に向かってるけど、いいよね?」


「ゴーシップの町って確かジケニアの町よりも北部にある町?」


「うん、そうそう!極東領域の都だね」


「僕は大丈夫だけど、リセチさんは大丈夫なの?今回の任務ってジケニアの町で依頼されたんでしょ?」


「そのことなら大丈夫だよ。冒険者ギルドって冒険者に関する情報を共有し合っているから、どこで結果を報告してもいいの。例えばパーティがボロボロにやられたから、やむを得ず付近の町に避難するってこともあるし」


「ふーん。そうなんだ」


「よーし!じゃあゴーシップの町に向けてレッツゴー!」


(あんなことがあったってのに、よくいつも通りいられるな。ちょっとビックリ……)


 リセチの態度に違和感を感じたアルは、問いかけようと口を開いたが、リセチが涙をぬぐうような仕草をした瞬間を見てしまい、アルの口から出てくる前に言葉は消えてしまった。


(やっぱり悲しいんだ。そうだよね。パーティだったんだから)


 その後は会話も事務的なものばかりで、淡々とした馬車の旅が続いた。



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

読んでいて


『リセチ……辛いよね』


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