第16話 崩壊

 突撃種3体を同時に相手取っていたギガはその内の1体、側面からの攻撃を避けきれなかった。


 突撃種のお尻の針で脇腹を刺され、動きが止まった一瞬を突かれ、前方の突撃種に噛みつかれ絶命した。


 後方の馬車に乗っているアルからでも、ギガの体が真っ二つになったのが明確に見える。


 更に、ギガの絶命にショックを受ける間もなく、上空から飛行種の攻撃が降り注ぐ。


 飛行種は上空でホバリングすると、牙だらけの口を醜く開き、地面に向かって緑色の液体を勢いよく吐き出した。


――ぎゃあぁぁぁ!!

――熱い熱い熱い熱いあっづぅぅいいいい!!!

――リセヂぃぃ!俺の足がぁぁ!溶げでるぅぅ!


 前線は一瞬で地獄と化した。


 被弾したメンバーの体からは緑色の煙が上がり、地面をのたうち回りながら苦みの声を挙げている。


 4匹の飛行種から広範囲に巻き散らされた液体は、半壊していたパーティに止めをさすのには十分だった。


 アルが現状を確認している内に立っているメンバーは居なくなり、ほとんどが突撃種に捕食されていく。


(壊滅……したのか?ほんの一瞬で……)


 現実を直視した瞬間、アルは恐怖で腰が抜けてしまった。


 メンバーの体がバラバラになり、どの塊が誰のモノだったか分からなくなるまで、そう時間は掛からなかった。


 ハイエナが1つの餌を取り合うかのように、突撃種同士で肉塊の取り合いをしているまさにその脇で、死体の山が動いた。


(今、動いた?)


 正確には、折り重なった死体の下に隠れていたリセチが、ゆっくりと這い出るその瞬間だった。


(リセチさん!生きてた!!良かった!)


 アルが周囲を観察すると、上空の飛行種はいつの間にか何処かへ飛び去り、地上の突撃種も残っているのは3体。その3体もリセチに背を向け、肉塊の取り合いをしていた。


 音を立てずに死体の山から抜け出たリセチは、素早く茂みの陰に隠れていた。その時、馬車からこちらを見るアルに気付く。


(何かジェスチャーをしてる?)


 アルがこっそりとリセチの方を覗くと、必死の形相で左手に持った水晶をこちらに突き出してくる。


(あ!水晶!使えってことか!?)


 アルはリセチの行動の真意を読み取り、右手に持っていた水晶を今一度強く握りなおす。


(考えるな。感じろ。そして信じろ。僕の奥底から溢れ出てくるはずだ……)


――

―――


 アルは自然を想像した。


 よく薬草摘みで訪れたザイン村近くの森だ。


 森の中に立つ自分。森には細くて高い木々が立ち並び、鳥たちのさえずりが響くほど静かだ。


 木々の間から差し込む光は、森全体を柔らかく包み込む。


 明るい緑色に囲まれて歩くアルの目の前にあったのは、古い井戸だ。


 苔がびっしりと生えていて、長い間使われていないことが分かる。


 アルが井戸の中を覗き込むと、底には水は無く枯れていた。


(枯れてない……枯れてないぞ)


 空っぽの井戸を見ていると自然とそう念じていた。


 じっと見続けていると、その声に反応するようにじわりじわりと水がにじみ出てくる。


(もっと出るぞ)


 強く念じると壁からもにじみ出てくる。井戸と呼ぶには頼りない量だが、枯れていた井戸の底には水たまりができ始めた。


(もっともっと)


 底に溜まった水たまりが渦を巻き始め、瞬く間に水量が増えていく。


(もっともっともっと!)


 激しい渦が覗き込むアルの顔に迫ってきたため、反射的にアルは顔を引っ込めた。


 すると水は、さらに勢いを増し、まるで爆発したかのように井戸から吹き出てきた。


 大量の水は遥か上空まで吹きあがり、大雨となり森へ降り注ぐ。


 スコールのように降り注いだ雨は、太陽光に照らされて、通常森の中では考えられないような大きな虹を作った。


――

―――


「【紫電しでん】!!」


 大きな爆発音と共にアルは現実に引き戻され、視界が真っ白に染まる。


 1秒も経たない内に元の景色に戻ると、ようやく状況を把握することができた。

 

 目の前に広がっていた地獄は、大きく抉り取られた地面ごと無くなっていた。




◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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『ついに魔法がっ!?』


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