第14話 極東3号

 リセチの目に入ってきたのは天に向かって伸びる巨大な塔。


 歪な形でそびえ立つそれは、食人巨蟲の巣であった。 


「なんで、巣がこんな近くに!?」


  リセチの思わず出た大声に反応したのは、馬車の外を歩いていたテテチテだった。


「あ、リセチちゃん。お、アルも元気そうだな!」


  幌馬車から顔を出す2人にテテチテは陽気に手を振る。


「ちょっとギガ!どういうこと!?あれって『極東3号』よね!?」


  リセチはテテチテを無視して先頭を歩くギガに叫ぶ。


「ギャアギャアうるせえな。巣の中までは行かねぇよ。周りでチョロっと狩りするだけだ。最近派手に暴れてなかっただろ?体がなまっちまうからな」


「あんた『極東3号』が未攻略なの知ってるよね!?巣の周辺でもめちゃくちゃ危険だってこと忘れたの!?」


  リセチの取り乱し方を隣で見ていたアルは、今いる場所がどれほど危険なのか、徐々に理解していく。


(リセチさん、スゴイ怒ってる……。え、そんなに危険なの?ここ……)


「ギガ!すぐに引き返して!!今はアル君だって居るんだから!守りながらの戦いなんて無理ッ!!」


「あぁん!?おいリセチ、テメェ……黙って聞いてりゃ……古参だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!リーダーはこの俺様だ!」


「はっ!何がリーダーよ!笑わせないで!こんな自殺行為をメンバーに強制するアホがリーダー?命がいくつあっても足りないよ!あの人がリーダーだった時は、絶対こんな事しなかった!」


  2人の言い争いはヒートアップしていき、徐々に声のボリュームが大きくなっていく。


「ビビり過ぎなんだよテメェは!いつまでも死んだヤロウのこと引きずってんじゃねぇ!俺はアイツよりも強ぇから大丈夫なんだよ!」


「アンタ1人強くてもダメなの!チームで戦うんだから!だからアタシ達のパーティ、ランク下がったんじゃん!」


  その時、周囲の警戒にあたっていたメンバーから緊急を伝える声が挙がる。


「おい、2人ともそこまでだ!敵が来たぞ!」


  目を血走らせながら喧嘩していた2人だが、一瞬にしてモードが切り替わる。


「全員!戦闘態勢を取れ!陣形は半円陣形ハーフサークル!恐らく敵は突撃種!乱戦になるぞ!同士討ちに注意しろよ!」


  ギガが全体に向け号令をかける。


  一方、リセチも戦闘準備をしながら、アルをフォローする。


「アル君!馬車から降りるよ!」


  そう言うと、リセチは馬車から飛び降りる。


「う、うん」


  アルは言われるがまま、リセチの後に続いて馬車から降りる。


  リセチは左手に円形の盾、バックラーを装備しただけの軽装。左半身を前に出す半身の姿勢。


  馬車の前方に半円状に展開した『狂火乱武』のメンバー達。


  リセチは、それに囲まれるような中心的位置取りで構え、目だけを左右に振って敵の位置を察知しようとしている。


  何も出来ないアルは、自然とリセチの後ろへと位置取ることになったが、自分よりも15cmほども小さいリセチの後ろにいると、何とも言えない気分となった。


(今回も何もできないのか!……悔しい……)


「アル君、これ握って」


  アルが悔しさに下唇を噛んでいると、不意にリセチが後ろを振り返り、手に収まるほどの水晶をアルに投げてよこした。


「リセチさん、これは――」


「手短に話すから1回で聞いてね。それは『魔転送』っていう魔道具。それを握って魔力を込めるとINTを相方に一時的に渡せるの。相方っていうのはアタシが持ってるこれね。アタシが合図したら魔力を込めて」


  リセチは肩越しにアルが持ってる水晶と同じ物を見せてきた。


(僕の魔力をリセチさんに一時的に渡して有効活用ってとこかな?)


「OK。魔力ってどう込めるの?」


  アルの質問に一瞬の間があった後、リセチは小声で『しまったー』と呟く。


「えっ……とぉ、体の内側から溢れ出る何かをね……そ、その水晶に込めて!」


  非常に曖昧なアドバイスを受けたアルは、目をつぶって暗闇の中、溢れ出る何かを探ってみたが、今のところ不安しか湧き上がってこなかった。


「は、はい。何か、わかった気がします!」


  アルは誤魔化した。



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


読んでいて

『アルの初戦闘!華々しい活躍を期待!』


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