第12話 食人巨蟲
「あはははは!おいおい!アル!そいつは不可能ってやつだぜ?」
テテチテは、アルの目標を聞くやいなや、汚い歯を見せながら一笑に付した。
「そ、そんなハッキリと……。やってみないと分からないじゃないですか!それに、僕にはこの能力値があります!」
「いやぁ、すまんすまん!笑っちゃぁいけないよな!あまりに大きな夢物語だったもんでよ!」
テテチテはヒィヒィ笑いながら、感情のこもっていない謝罪をした。
「アル!お前にどれだけの力があろうとも無理だ!なぜ無理なのか、このテテチテ先生が教えてやろう!……っとその前に、この村から出ようぜ?多少慣れたとは言え、臭くって堪んねぇや!」
顔をしかめながらテテチテが提案すると、アルが先ほどとは違う道を指さして言った。
「そしたら、来た道とは違う、こっちの道からでもいいですか?」
「あぁん?そっちでも帰れるのかい?まぁ、この匂いから解放されるならなんでも構わねえぜ!」
「そっちに何かあるの?」
リセチも首を傾げながらアルに聞く
「こっちは……僕と村長が襲われた道なんだ。村長ならもしかしたら上手く逃げれてるかもしれないけど……一応確認しておきたいんだ」
こうしてアルたちは、来た道とは別の道から村を抜けることとなった。
道中、テテチテが村での話の続きを喋り始める。
「でよ、さっきのアルの夢がなんで叶わないかって話だけどな、まず、食人巨蟲は強すぎる!」
「そ、そんなに強いの?」
先ほどまで復讐心に燃えていたアルの瞳は、恐怖で少し陰りを見せた。
「あぁ!食人巨蟲の個々の能力は、剣や魔法を使えるそれなりの冒険者と同程度!そんでもって個体数は人類の10倍とも100倍とも言われてる!」
「……」
(あんな化け物が人類の100倍だって?ふざけてる……)
「ま!そういう反応になるよな!それに加えてだ!アル1人では到底無理なわけだから、人類が皆で協力して戦うべきなんだが……人類は食人巨蟲の攻略に本腰は入れてねぇ!」
「な、何でですか!?あんな化け物、いない方が良いに決まってるのに!」
アルもまさか1人で全ての食人巨蟲と戦えるとは思っていなかった。
誰かが武器を持って立ち上がることで、それに続いて皆が立ち上がってくれるだろうと予想していた。
そのため、テテチテの口から『人類は本気で食人巨蟲の攻略に動いていない』と聞いて混乱した。
「俺っちも難しいことは分からねぇけどよ、国同士の覇権争い?ってのか?全力で食人巨蟲の巣を攻略していると、その隙に自国が攻められるとかなんとか。あー、ほら!食人巨蟲の巣で、もしその国一番の強ぇやつがやられちまったらどうする?国を守れねぇだろ!?そゆこった!」
「人類を捕食する天敵がいるっていうのに、仲間内で争うなんて……」
「人類の一番の敵は人類!なーんてな!あひゃひゃひゃ!」
テテチテは笑いながら続ける。
「それによぉ、基本食人巨蟲からは襲ってこねぇし、なんなら貴重な資源を巣に貯めこんでくれるから、アルのように嫌悪感を抱いてるやつは、思ったほど多くはないんだぜ?」
「それは嘘ですよ!冒険者の中にだって食人巨蟲と戦って死んでいった人はたくさんいますよね!?その人の家族とか、友達とか、絶対悲しみますよ!」
「それはそうだがよぉ、みーんな、覚悟の上なんだよ。危険と分かっていながら、一攫千金を夢見てこの世界に足を踏み入れた奴らだ。それに、さっきも言ったが、食人巨蟲は自分の活動範囲に入ってきたやつらだけしか襲わないしな。自業自得なのさ。人類がその気になりゃ、同じ大陸に住む隣人になったかもしれねぇ……ま!これはちょっと言い過ぎかもしれねえがな!」
「ん?テテチテさん、食人巨蟲は自分の活動範囲に入ってきたもの『だけ』を襲うんですか?」
アルはふと気になったことをテテチテに聞いた。
そもそも、村や町が新しく発足する際には、細心の注意が払われている。事前に立地予定の場所から近い巣の活動範囲を徹底的に割り出し、その範囲に絶対に入らない位置取りを計算した上で作られていた。
もちろんザイン村にもそれは当てはまる。
もし、テテチテの言う通りであれば、なぜ食人巨蟲が活動範囲を侵略していないザイン村を襲いに来たのか。アルはそれが引っ掛かっていた。
「そうだぜ!だから今まで『村や町が襲われたー!』なーんてことは無かった!前代未聞ってやつだな!そんなわけで、俺っちたちはその原因を探りに来たわけよ!俺っちは、もしかしたら村のおバカな奴らが巣にちょっかい出しちまったんじゃないかと推理してるぜ?」
「テテチテ、あんたはもう少し人の心を推理してから発言しなよ」
リセチからの指摘に、テテチテはわりぃわりぃと頭を掻きながら答えた。
(巣にちょっかいを出す?ザイン村の人たちはそんなバカなことはしない!ザイン村は未攻略の巣に近いんだ!皆ちゃんとその危険性は分かってた!……ということは、今回の事件はイレギュラーってこと?たまたまザイン村が犠牲になったって!?そんなこと……そんな偶然がっ!)
「アル君……」
リセチが俯いたアルの顔を見つめながら言葉を漏らす。
「リセチさん……」
気付くとアルは目を潤ませながら、右手の指が真っ白になるほど強く拳を握っていた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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