第8話 夜
アルが野営地を無我夢中で歩き回っていると、急に鈴の音のような声に呼び止められた。
「ねぇ」
「うわおっ!」
「君、もう3週目だけど、大丈夫?」
「あぁ、リセチさんでしたか。えっと、大丈夫です」
リセチは大きな木の根元で膝を抱えて座っていた。足元に置いてある小さなランタンがリセチの可愛らしい顔を下から照らしている。
左手で自分の隣を指さし、ここに来いと合図していた。
「あれ、アタシの名前知ってるんだ。君は……確かアル君って言ったっけ?」
「はい。アレクサンダーです。よろしくお願いします」
「かしこまらないでいいよ。アタシ達って同じくらいの歳だよね?ちなみにアタシは17だよ」
「ありがとう。僕は15歳。結構近いね!」
「やっぱり近かった!冒険者って年上の人がほとんどだから寂しかったんだよねー!」
アルとリセチ、お互いが同年代だと知ると、2人の表情や声色がパッと明るくなった。
「ところでアル君、なんかあった?野営地周辺の巡視にしては速すぎるし……」
一瞬忘れていたアルの脳内に、艶めかしい音が蘇ってくる。
「え、い……や、特に。何も?ないけど?」
リセチがアルの顔を不思議そうにジッと見つめる。
見つめられたアルの目線は高速で泳ぎ続け、顔はランタンに照らされていても真っ赤に染まっていると分かるほどだった。
「分かった。アル君『宴』見たでしょ?」
「宴……?あっ!いや!見てない!全然!聞いたっていうか、聞こえた?そう、聞こえちゃっただけ!」
必死に弁明するアルの声量に一瞬驚いた表情を浮かべたリセチだったが、すぐに安堵した表情に変わった。
「ふふっ、アル君がそういう人で良かった」
「そ、そう?」
アルは自分がどういう人と評価されているかよく分からないまま返事した。
「うん。別にアレが悪いこととも思わないけど、周りの男がみーんなあんな感じだと、ウンザリしちゃう」
「皆があぁだと、そりゃ、まぁ、疲れるね」
際どい話を堂々と話すリセチは、アルの目からは歳の差以上に離れた存在に感じた。
同年代のリセチが自分のまだ知らない世界で生きていることを知り、一種の敗北感にも似た感情が心に生まれると、アルの下半身に無駄に蓄積された熱量が徐々に失われていった。
「ねぇ、アル君。もしかしてアタシもそういう女だって思ってない?だとしたらそれ誤解だからね。アタシ、あーいうの、全ッ然趣味じゃないから」
「あ、そう……なんだ。リセチさんは違う人なんだね、うん。なんか安心したよ。何でだか分からないけど。あはは……」
「はぁ……でもあんなの見たら皆ヤッてるって思っちゃうよねー。うーん……まっ、アル君の誤解は解けたからヨシとしよっと!」
半裸で粗暴な男たちが、次々にアルの肩に手を回す情景を思い浮かべたが、気持ち悪くなってすぐに消した。
「少し前まではこんな感じじゃなかったんだよ?前はもっと戦闘集団って感じで、皆隙が無いっていうのかな。カッコイイ冒険者たちがいっぱい居たんだ」
アルが変な妄想をしていると、リセチが熱を込めて語りだした。
「少し前まで?何かあったの?」
「うん。任務に失敗してパーティが半壊したの。そこからギガが隊長になったんだけど、堕落しちゃった」
明るかった声は徐々に落ち込んでいった。
「前のリーダーは、アタシのようなヒーラーや魔法型もバカにしなかったけど、ギガは違う。スゴく見下してくるから……嫌。だからこの任務が終わったら、このパーティを抜けようと思ってるんだ」
(じゃあこれが最後の任務なのか。やる気無さそうに見えたのはそういう理由か)
「おーい。お前らこんなとこにいたのか。ガキどもはもう寝ていいぞ。俺が代わる」
リセチが話し終えてすぐ、上半身にしっかりとレザーアーマーを装着した男がやってきて、見張りを代わった。
2人して野営地に戻ると、何人かの男たちにおちょくられたが一言、二言の返事であしらい、そのまま朝まで眠りについた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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