第7話 リセチ

「この幌馬車には色々な魔法が使われてるんだぜ!スゲーだろ!?まず貨車には空間魔法、そんで貨車を引く馬には耐久力を上げる魔法。だからめちゃくちゃ高級品なわけよ――」


(この人、ずっと喋ってるな。聞いてるの疲れちゃったよ)


 アルが相乗りしてから休みなく喋っているこの軽薄そう男は、アルにまだ何も喋らせていない。


 初めまして、とアルが言い切る前に話しかけられたので、お互いの自己紹介も済んでいない。


(他の人にも挨拶したいんだけどな)


 男の話を聞いているフリをしながら、周囲にいる冒険者達に目をやる。


 冒険者の一団は皆、屈強な体で剣や斧などを持ち、物理攻撃を得意としていそうな戦士たちだ。


 屈強な戦士は男だけでなく、ちらほらと女の姿も見られた。


 しかし、そんな汗臭いパーティの中で目を引く存在が居た。


「ねぇ……テテチテ。いい加減、静かにしてくれないかな?」


 しゃべり続ける男をテテチテと呼んだ女。


 女の声は高く透き通っていたが、気だるげであまり覇気を感じられなかった。


(この女の人、僕と同じくらいの歳かな?)


 女の金髪は後ろで束ねられ、やや釣り上がり気味で大きな二重の目や小さな鼻と口は、猫を連想させる。


 しかし、その顔立ちはどこか幼さも残り、アルは親近感を感じた。


 装着しているローブは薄手で、女らしい細身かつしなやかなラインを浮彫にしており、更に目立った武器も持ち合わせていないことから、前線で戦う戦士でないことは明らかだった。


「リセチちゃんさぁ、俺っちからおしゃべりを取りあげないで欲しいなぁ。俺っちと彼はとっても楽しんでるんだ!あっ……えぇっと、ところで君は何て名前だっけ?」


「アレクサンダーです」


 調子よく話し続けるテテチテとの会話をさっさと終わらせたかったアルは、質問に少し冷めた声色で答えた。


「そうか!アルってのか!よろしくな!俺っちはテテチテ!3番目に『チ』が入ってるところがキュートだろ?これはな、先祖代々続く由緒ある――」


 話は終わらなかった。


 テテチテの独壇場は、野営のために馬車が停車する夕方まで続いた。


――

―――


(たき火にくべる薪はこれくらいで足りるかな)


 夕方まで馬車を走らせ、ザイン村の近くまで来たところで、今日は野営となった。


 村や町を結ぶ道中には、いくつか野営するポイントがあり、主に任務などで遠出する冒険者たちが利用している。


 今日はしっかりと休息を取り、明日は朝から調査すると、ギガから全員に通達があった。


(もうすぐザイン村か。故郷がどうなってしまったのか気になっていたはずなのに、今は明日が来て欲しくないと思う僕もいる…)


 ぼんやりと故郷のことを考えながら野営地に戻ると、汗だくで半裸の男たちが火を囲んで酒を煽っていた。


(なんだ?みんな良い汗かいてる。訓練でもしてたのかな?)


 独特の熱気を感じながら半裸の男たちの間を縫い、中央のたき火に薪をくべていると、馬車の方から音が聞こえ始めた。


 アルが振り向くと、馬車が小さく上下に揺れており、それに合わせて馬車が軋む音だった。


「おい、ガキ。そんなに中が気になるのか?」


 アルが不思議そうに馬車を見ていると、ニヤニヤと悪人のような笑みを浮かべる小太りの男が話しかけてきた。


「いえ、馬車から音がしたのでちょっと気になっただけです」


 そう答えると、このやり取りを聞いていた周囲の男たちもニヤニヤと笑い始めた。


(何だよみんなして。この感じ……何を隠してるんだ?)


 こうなってくると、何とかして自分で答えを見つけようと意地になる。


 そんなアルに、馬車から先ほどとは違った音が聞こえてきた。


 それに素早く反応したアルが振り返り、馬車の様子を伺う。


 音は艶めかしく喘ぐ女の声と、肌と肌が強くぶつかり合う音、更には馬車が軋む音も混ざり合い、男を誘惑するリズムが奏でられていく。


 音は徐々に過激さをを増していき、激しさが頂点を迎えた瞬間、ついに全ての音が聞こえなくなった。


 予想外の答えにアルは顔を真っ赤にして立ち尽くすことしかできなかった。


「あ?おいガキ!その感じ、初めてはまだだな!ガハハ!こりゃ刺激が強すぎたか!?ガッハッハ!」


「おいおいっ!顔赤くしすぎだぜ!わっはっは!ちょっとその辺見回りでもして、熱冷まして来いよ!」


 男たちにおちょくられ、逃げるようにその場を離れたアルは心臓の高鳴りを感じながら、自身が出せる最高速で野営地周辺を歩き回った。




◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


読んでいて

『15歳なら知らなくても仕方ないね!』


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