第9話 死体
アルは強烈な腐敗臭に目眩を起こしていた。
(うげぇ……吐きそう)
故郷のザイン村へたどり着く前から覚悟はしていた。
というのも本来、木々が青々と生い茂るこの季節は、村周辺に爽やかな風が吹いてくる。
しかし、アルが村へと至る道を歩いている際に吹き抜けた風は、淀んだものだった。
アルにはそれが何の匂いなのか明確には分かってはいなかったが、村での惨劇を思い出せば想像に容易い。
匂いは村に近付くほど強くなり、村に入った今では、空気が茶色く濁っていると勘違いするほど強烈であった。
村の内部は出身者のアルと護衛役としてのリセチ、テテチテの計3人が調査をし、残りのメンバーは周辺の偵察をしている。
「うへぇ!ホントこの村臭いな!あ、アルごめんな!そういう意味じゃねーんだ!でも、目に染みるほどの匂いってのはなかなか――」
「アル君、大丈夫?無理しなくてもいいんだよ?」
テテチテが鼻を指でつまみながら話しかけてきたが、布で鼻と口を覆ったリセチが割り込んできた。
「うん。リセチさん、ありがとう。今は、多少……うん。多少慣れたよ」
村に転がる死体は、どれも一見しただけでは誰だか分からないほど、欠損や腐敗が酷い。
特徴的な装飾品、死んでいた場所などから推測してようやく特定が出来るほどで、アルのような村の関係者でなければ判別不能だった。
アル達は死体に丁寧に手を合わせながら時間をかけて村を1周する。
「くっ、ふぅっ……うっ、うぇ」
死体を全てチェックし終える頃には、堪えきれずアルは泣き始めた。
今回の任務のメインは、あくまでザイン村を襲った巣の特定であり、死体の数や人物の特定などは任務の内容に含まれていなかった。
しかし、アルのたっての希望で、村中をくまなく調べていた。
それは、アルがジケニアの町でゾーイから『村の中にある死体の数が少なかったから、まだどこかで生きている人がいるかも』という言葉を聞き、希望を見出していたからに他ならない。
(クソ……全員揃ってるじゃないか。結局僕と村長以外は全員この場に居た。ゾーイの話は嘘だったのか?なら、なぜ嘘を……?)
「アル君……」
心配そうに見つめるリセチに気付いたアルは、右腕でゴシゴシと目元を拭い、鼻を赤らめながら笑顔で答えた。
「すみません、リセチさん。少し考えごとをしてました」
アルの言葉に反応したテテチテがひょっこり顔を覗かせる。
「考えごと?村の死体に何か気になることでもあったのかぃ?」
テテチテの不躾な質問にリセチは鋭い目線を飛ばして威嚇するが、アルは気にせず答える。
「いや、別のことで考え込んでました。ただ……実際村の死体で気になったことはあります」
「そうなの!?もし……話せそうなら、アタシたちにも教えて欲しいな」
アルはリセチ達にこっちへと手招きをしながら、付近に転がる死体の方へと誘導した。
近くまで来ると、ひと息つき、強ばった表情でアルが2人に説明を始める。
「ふぅ……。えっと、全ての死体には腹部に大きな穴がありましたよね」
アルが右手で指さす先には、みぞおちから下腹部まで広がる、大きな空洞があった。
「気になるのは、お腹の傷がこれだけ大きいのに背中を貫通してる死体が無いってとこです」
「確かにー。言われてみればそうだね。お腹に大穴開けちゃうくらいの威力なら、背中を突き抜けててもおかしくないよね」
ふむふむ、と華奢な手を顎に当てて考え込むポーズを取るリセチ。
数秒考えた後、アルの気付きに更に気付きを被せていく。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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