第3話 目覚め
「きゃぁぁああ!」
「な、なんだ!?」
アルは甲高い悲鳴で目を覚ました。見慣れない天井が眼前に広がっている。
上半身を勢いよく起こし、声のした方へ目を向けると、部屋の扉の前で顔を真っ青にした白衣の女性が腰を抜かしていた。
(ん?僕を見て怖がっているのか?)
「えっ、と……す、すみません、どうしましたか?」
アルはこれ以上女性を怖がらせないようできるだけ丁寧に問いかけた。
すると、女性がアルの質問に答えるより早く、悲鳴を聞きつけたであろう男が3人、部屋の扉を乱暴に開けて入ってきた。
「今の悲鳴は何だ!?」
「ちょ、ちょ、ちょ……ちょっと!み、見てよ!この人の左腕!きっと食人巨蟲の仲間だわ!」
(左腕?食人巨蟲の仲間?)
アルが視線を自分の左腕に落とすと、そこに『人の腕』は無かった。
いつの間にチュニックを脱がされたのか、上半身は裸になっており、そのおかげで自身に起きた異変を一瞬で確認できる。
「なんだこれ!」
本来、日に焼けた小麦色の綺麗な腕があるはずなのだが、そこにあったは、蟲の足や触覚、羽、外殻、複眼などが無造作に、そして大量に皮膚から生えた気色の悪い左腕だった。
更にそれら1つひとつは、まるで生きているかのように動いており、見れば見るほど嫌悪感が増す見た目をしていた。
「僕の、左腕……え?あれ?何で?どういうことッ!?」
この場にいる誰も答えを持っているわけない、と薄々気付いてはいたが、アルは叫ばずにはいられなかった。
「こいつ、昨日までは普通の人間の体だったじゃねえか!本性を出しやがったのか!?」
部屋に飛び込んできた男達の中で先頭に立つリーダー格の男がそう叫ぶと、左腰にさした剣の柄を右手で力強く握る。
左腕が異様な見た目になってしまった経緯は不明だったが、リーダー格の男から明らかな敵意を向けられていることを察したアルは、誤解を解こうと叫ぶ。
「待ってください!僕は、僕は普通の人間です!」
「じゃあその左腕は何だ!」
「分かりませんっ!僕が聞きたいくらいですよ!」
命の危機が迫ったアルは、包み隠さず正直に答えていく。
「僕は皆さんに危害を加えるつもりは一切ありません!」
両の手のひらを前に突き出し、自分は安全な生き物だと3人の男と怯えた女に伝える。
「その気色悪い手をこっちに向けるな!」
ついにリーダー格の男が抜刀したため、アルは急いで左手を引っ込めた。
「どうしたら信じてもらえますかっ!?」
「俺はな、疑わしきは罰せよの精神なんだ」
(罰せよだって!?何もしてないのに冗談じゃない!)
アルが二の句を継げないでいると、抜刀している男がコロっと態度を変え、冷静な口調で呟く。
「……いや。かと言って、ここは町の中心にある診療所。こんなところで暴れられても困るな。まともに会話する知性もあるようだし……」
「町の診療所?」
リーダー格の男に言われて初めてここが
故郷のザイン村でないことにアルは気付いた。
「あぁ。ここはザイン村から北に位置するジケニアの町だ」
アルの心が落ち着いてくると、徐々に周囲の音や景色に意識が向くようになってきた。
アルが寝ているベッドのすぐそばには窓があり、その窓から見える商業地区の景色は、何度か見たことがあった。
(思い出してきたぞ。この出店がいっぱい並んでいる通り。何度か村長に連れられて物資の調達に来たことがある。……あぁ、村長……)
アルが村長へ思いを馳せていると、リーダー格の男が今までの経緯を話し始めた。
「俺たちは、ここジケニアの町所属の冒険者だ。俺はゾーイ。後ろの2人は俺のパーティに所属しているダナンとボガダイだ。俺たちはザイン村から、食人巨蟲関連の救難信号を受けて馬で駆けつけた」
アルは窓の景色からゾーイへと視線を移し、話に聞き入った。
「もう少しで村にたどり着くって時に、道の端で倒れているお前を見つけた。お前は瀕死だったが、微かに息はしていたよ。そのあとは同行していたヒーラーに応急処置をしてもらいながら、ここまで運んだんだ」
「そうでしたか。助けてくれてありがとうございます。あの、それで村はどうなってましたか?僕のほかに生きてる人は?」
アルの矢継ぎ早の質問に、ゾーイは答え辛いのか、一度目を背けて考える表情をした。
その目線がアルに戻ってくると、ゾーイはゆっくりとアルの質問に答えた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
読んでいて
『左腕ぇ……アル不遇すぎて可哀想だぜ……』
『ゾーイの冒険者レベル高そう!』
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