第4話 疑わしきは罰せよ
ゾーイはゆっくりとアルの質問に答えた。
「村に生きてるやつは居なかった。ただ、全滅という可能性は低い」
「どういうことですか?」
「村の中にある死体の数が少なかったんだ。村の外に運良く逃れることができて、まだどこかで生きている可能性があると俺は思う」
絶望や憎しみで荒んでいたアルの心にほんの一筋の光が差し込んだ。
「そうか……そうですよね!逃げれてる人もいるかもしれないですよね!良かったぁ」
「村の様子、気になるよな?」
「当たり前ですよ!」
「様子を見に行ってみたらどうだ?」
ゾーイがそう言うと、アルの顔がサッと暗くなる。
「そんな顔するなよ。実はな、お前は1週間も眠ったままだったんだ。村を襲った食人巨蟲もさすがに居座ってはいないはず。長年、食人巨蟲を狩り続けてきたこの俺が保証する」
ゾーイは鍛え上げられた自身の胸を拳でドンと叩いて、アルに安心感を持たせた。
「うーん。怖いけど、気になるし……行ってみようかな」
「そうか。そうと決まりゃ話は早い。ダナン、こいつが着ていたチュニックを持ってこい。ボガダイ、こいつの体格に合いそうなローブを見繕って持ってこい」
ゾーイの後ろに控えていたダナンとボガダイは、召使いのように素早く動き、あっという間に言われた物を揃えた。
急な態度の対応の変化に驚きを隠せないアルが尋ねる。
「ローブ、もらっていいんですか?」
「お前が来ていたチュニックは半袖だったからな、その呪われた左腕は隠せねえ。そんなもん町中で見られた日にゃ大騒ぎだ」
「確かに……」
ちらりと女の方へと目をやると、女はビクっと体を震わせた。
―
――
―――
着替えを済ませたアルは、ゾーイに連れられ町の玄関口である大きな門の下に来ていた。
「では行ってきます。助けてくれてありがとうございました。」
「あぁ。それと、こいつをやる」
ゾーイは懐から重量感のある包みを取り出し、アルの両手に渡した。
「これは?」
「
(
「はい。食べたことありません。どうしてこんな良い物を?」
「二度とこの町に戻って来ないでもらいたい」
ゾーイの低くハッキリとした声が、アルの心に突き刺さり、声が出なかった。
「その肉は俺の気持ちだ。お前みたいなガキを放り出すのには、さすがの俺も躊躇する。ただ、あの女の反応や俺たちの最初の反応、見ただろ?」
アルは女の悲鳴や青ざめた顔を思い出していた。
(僕は、怖がられている)
「お前は人間のような知性もある。その腕の事がバレなきゃ、違う町で上手くやれるかもしれん。まぁ、頑張れ」
「……はい」
小さく返事をしたアルは、ゾーイとジケニアの町に背を向け、ザイン村へ向けてトボトボと歩き始めた。
「ゾーイさん」
アルの背中がだいぶ小さくなる頃、ボガダイがガラガラの声でゾーイに話しかけた。
「あのガキ、行かせて良かったんですかい?」
ゾーイはアルから目線を逸らすことなくボガダイの質問に答える。
「人間様のような見た目をしていたが、アイツの能力や狙いは未知数だ。あの外見や低姿勢な態度だって、俺たちを油断させるためかもしれん。さっきも言ったが、町のど真ん中で暴れられたら困るからな。余計なリスクを背負いたくはない。町の安全を俺なりに考えた結果がこれだ」
それと、と言いながらゾーイはボガダイに視線を向ける。
「あの肉には致死性の高い猛毒を仕込んだ。ひと口食べただけで、数分で死に至るはずだ」
ゾーイの顔には感情がなく、思わず息を飲むボガダイを尻目にゾーイは町に戻っていく。
「疑わしきは罰せよ、だ」
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
読んでいて
『死ぬのはイヤだけど
『たぶんダナンもガラガラな声なんだろ?』
と思ったら、♡での応援、★評価、フォローをお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます