第2話 苗床
村長の言葉が途切れるのと同時に、アルの視界はぐるりと回って背中に衝撃が走る。
(イテテ……何だ?何が起きたんだ?今僕は地面に倒れているのか?)
上体をゆっくりと起こすと、村長の叫ぶ声が聞こえた。
「アル!大丈夫か!?立つんじゃ!」
声のする方へ顔を向けると、だらりと下がった右腕を左手で庇った村長が、顔に脂汗を浮かべながらこちらを見ていた。
「村長!」
「最悪じゃ。3体もおるわい」
村長は方向を示すように顎をクイッと動かし、アルに敵の位置を知らせる。
「村長!腰の剣を僕に貸して!」
「ん?おぉっほっほ……そうかそうか。もうお前も成人だったな!強くて優しい子に育ったのぉ。ワシは嬉しいぞ」
「なっ!?」
その場に似つかわしくない優しい声に、アルは拍子抜けした。
「アルよ。お前は逃げなさい。こいつらはワシが引き受ける」
「だ、だって村長、腕が!」
3体の
「お前は生まれつきの虚弱体質。剣もまともに振れなければ、魔法すら撃てまい。そんなお前が……」
「分かってるよ!!そんなの!だからっ…だから僕が囮になるって言ってるんだ!」
「アル……生きていれば希望はある。例えハンデを抱えていたとしてもじゃ。若い者が簡単に死ぬことを考えてはいかん」
「だって……」
「ワシら老いぼれはな、お前のような希望を守りたい。それが老い先短い人生に残された唯一の仕事なんじゃ。頼む…後生じゃ。逃げてくれ」
「それになぁ、アル。ワシは今となってはこんな老いぼれになってしまったが、昔はそれなりに名前の知れた冒険者だったんじゃぞ?まだまだこんな雑魚に負けはせんわい!」
村長が全身に力を入れると、筋肉が岩のように丸く膨らみ、体全体がひと回り大きくなった。
「おい、虫けら」
村長は
「よくもワシの村をめちゃくちゃにしてくれたな。おぉん?人類……舐めてんじゃねぇぞ!」
勢いよく村長が飛び出したあとは、速すぎてアルの目では追い切れなかった。
(村長も
心で言葉を吐き捨てながら、村長に背を向けて全力で走った。
「くそ!くそ!くそぉ!」
(
アルは走りながら自分の無力さを呪った。
自然と涙がこぼれ視界がぼやけ始めると、足が木の根に引っ掛かってしまった。
「うわっ!」
アルの体は前方に投げ出され、うつ伏せで倒れた。
どれくらい走っただろうか。恐怖と怒りと疲労で体が思うように動かない。
――ギィ…ギィ
(あぁ……終わった)
ここまで全力疾走だった。体の弱いアルにとってこれほど風を切って走ったことは、初めてだったかもしれない。間違いなく百点満点の走りだ。
「ギギギィ」
声がすぐそこ、アルの真後ろまで来ているのが分かった。
(これから僕は死ぬのか?喰われるのか?怖いよ。怖い……あぁ…!怖い!)
死の恐怖で頭が狂いそうだった。
(くぅぅっ!でも……でも!怖いけど、最後くらい!敵の顔を拝んで死んでやる!)
上半身を捻ってうつ伏せから仰向けにひっくり返ると、バッタのように縦に長い巨大な顔がそこにはあった。
「うっ!」
突然腹部に強烈な痛みが走ったかと思うと、体内に何やら熱い液体が入り込んでくる感覚があった。
――食人、巨蟲
―――食人――巨――蟲
――――絶対―――許さ―――な――
感情の無い
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
読んでいて
『村長は筋肉ダルマだったの!?』
『アルのお腹に注入シーンを読んでお腹痛くなってきたわ……』
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