再会した親友が美少女になっていたので、『おまえ女だったのか⁉』と言ったら、首を横に振られた件。 ~初恋の相手に男だと思われていた乙女の可愛らしい復讐劇。

荒井竜馬

第1話 おまえ女だったのか⁉ 主人公:紀信視点


「それじゃあ、三条紀信(さんじょうきしん)くん。いこっか」


「はい。お願いします」


 俺は真新しい制服のネクタイをきゅっと締めて、大塚先生の言葉に頷く。


 先生はこの教室の担任らしい。


栗色の髪をしたふわふわっとした雰囲気は、同級生と言われても疑わないくらい幼く感じる。


 俺はそんなことを考えながら、教室に掛けられているプレートを見る。


すると、そこには1-2と書かれた教室のプレートがあった。


「そんなに緊張しないで大丈夫だよ。みんないい子たちばかりだからさ」


 先生はそう言うと、にへらっとした笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。そう言ってもらえると、少し安心しますね」


 俺はそう言って、先生に釣られるように笑う。


 大塚先生はそんな俺を見て頷いてから、教室の扉を開けて中に入る。


「みんなー、席についてー」


 大塚先生がそう言うと、わらわらと生徒たちが席に着く。


 そして、その生徒たちの視線は大塚先生の隣にいる俺に注がれた。


「それじゃあ、今日は転校生を紹介します。昨日も言ったと思うけど、みんな仲良くしてね」


 大塚先生はそう言ってから、俺に視線を向ける。

 俺は頷いてから、小さく咳ばらいをしてから口を開く。


「初めまして、転校生の三条紀信です。なんか変な時期に転校してきましたけど、仲良くしてもらえたら嬉しいです」


 俺はそう言ってから、頬を掻いて苦笑する。


 もっと気の利いた言葉を言えればいいのかもしれないが、仕方がないか。


 しかし、そんな俺の考えに反するように、俺は新しいクラスメイトたちに暖かい拍手で歓迎された。


 ……おお、本当にこのクラスは良い人が多いのかもしれない。


 俺はそう考えながら、教室に掛けられているカレンダーに目を向ける。


 カレンダーの今日の日付には、赤い花丸が書かれていて、そこには『転校生襲来!』と書かれた文字があった。


 俺は某ロボットアニメの敵キャラかな?


 俺はそんなことを考えながら、カレンダーに書かれた『六月』という文字を見て小さく笑う。


 あと二ヶ月早ければ、普通に新入生としてこの高校に入ってこれたんだけどなぁ。


 この時期って、ある程度グループが形成された後だろうし、ボッチにならないか不安だ。


「はい、自己紹介ありがとうね。少し不安そうな顔をしているけど、大丈夫だよ!」


 大塚先生は自信ありげに笑みを浮かべてから、ぴしっと窓際の一番後ろの席を指さす。


「それじゃあ、三条くんの席はあの空いてる籍ね」


「分かりました」


 俺は大塚先生のふふんっと得意げな笑みに違和感を抱きながら、空いている席に向かう。


 一体何だったのだろうか?


 俺がそんなことを考えながら歩いていくと、俺の隣の席の女の子がこちらをじっと見ていたことに気がついた。


 白磁のような肌にすっとした鼻梁。くるりとした瞳は澄んでいて、ぱっちりとした目元は吸い寄せられるような魅力があった。


 浮世絵離れしているような綺麗な雰囲気というよりも、生まれてくる次元を一つ間違えてしまったような可愛らしい容姿をしている。


 そのスポーティーなショートカットが特徴的な女の子は、俺を見て柔和な笑みを浮かべる。


「久しぶり。『きーくん』」


「『きーくん』? え、まさか……」


 昔、俺のことをそんなふうに呼ぶ友達がいた。


 中学生になったばかりの頃、ちょっとしたきっかけで仲良くなった友達。


 中学に上がってからしばらくの間、休日になるとよく一緒に遊んでいた親友とも呼べるほど仲が良かった男友達。


 俺のことをそんなふうに呼ぶ奴は、そいつしかいない。


 いや、でも、え? いったい、どういうことだ?


 俺は予想外の事態に驚いて、手をプルプルと震わせて彼女を指さす。


「お、おまえ女だったのか⁉」


「……へ?」


「『詞(つかさ)』だよな? え、まじか。女の子の制服を着ているってことは、そういうことだよな?」


 俺は思ってもいなかった再会に驚きを隠せずにいた。


 突然引っ越すことになって数年会うことができなかった親友。


 それなのに、こんな形で会うことになるなんて誰が想像できただろうか?


「まさか、リアルで『おまえ女だったのか⁉』をやることになるなんて……」


 俺がそんなことを呟いていると、詞は眼をパチパチとさせてから、小さくプルプルと震え出す。


「……え? 男? 私のこと男だと思ってたの?」


 詞は何かをブツブツと呟きながら、顔を俯かせる。


 よく聞こえないけど、何か怒っているのか?


 もしかしたら、俺がすぐに詞のことに気づかなかったことを気にしているのかもしれない。


 確かに、詞から声をかけてもらわなかったら、詞が昔の親友だったと気づかなかっただろう。


 いくら可愛くなったからって、気づくのが遅すぎたよな。


 それなら、せめて今からでもフォローをしておかないとな!


 俺はそう考えて、ニコッと笑う。


「うん。よく見ると詞は昔から変わってないな」


「……か、変わってない? 男の子と間違われていた時から、変わってない?」


 詞はまた聞こえない声でブツブツと言ってから、胸を両手で押さえるようにして何かを確かめていた。


 詞は昔から顔が整っていて、女の子と間違われることもあった。


 昔は男の子みたいな恰好をしていたから気づかなかったが、普通に考えればおかしいよな。


「……可愛いからとかじゃなくて、女の子らしいからじゃなくて、制服でしか私を女の子って認識してないの?」


「つ、詞?」


 俺はいつまで経っても顔を上げようとしない詞を心配して、顔を覗き込もうとする。


 すると、詞は顔をガバッと上げる。


 え、あれ? なんか目が潤んでいるような気がするんだけど……。


「ぐぬぬっ」


「え、ぐぬぬ?」


 俺が不満げな詞の様子に困惑していると、詞は涙で潤んだ瞳で俺をキッと睨んでから、また顔を俯かせた。


「……男の子」


「え?」


「男の子って言ったの。女子の制服着てるけど、男の子だよ、私」


 詞はそう言うと、片頬を膨らませて俺を見る。


 いや……そんなことあるわけがないだろ。


 だって、どう見ても美少女だし、胸だって微かだが膨らみがある。それに、スカートから覗く健康的な太さの脚はつるつるだし、男のそれではない。


 俺はそう言おうとしたところで、頬を膨らませている詞を見て、言葉を呑み込む。


 これだけ怒っているということは、一旦詞の言葉を呑み込んでおいた方がいいのか?


 俺は少し考えてから、こくんと頷く。


「そ、そうだよな! 詞は詞だもんな! 男とか女とかどうでもいいよな!」


「……ぐぬぬっ」


 あれ? なんか不満げに唸っている?


 な、なんで?


 こうして、久しぶりの親友、小鳥遊詞(たかなしつかさ)との再会は、親友を怒らせるだけで終わってしまったのだった。


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