第9話
翌日、村は快晴に恵まれ、空には澄んだ青が広がっていた。恵はいつも通り早朝に目を覚まし、塩むすびの準備を始めようとした。しかし、今日はいつもと少し違う気持ちが胸にあった。何か新しいことを始めるべきだという思いが、次第に大きくなっていたのだ。
「春子さんが残してくれた塩むすびを、もっと多くの人に知ってもらいたい」と、恵はふと思った。
その思いを胸に、恵は村の広場へ向かった。広場には数人の村人たちが集まっており、恵の姿を見て微笑んだ。彼女はそのまま村長の元へ足を運び、意を決して口を開いた。
「村長さん、少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
村長は驚いたような表情を見せながらも、「もちろん、恵さん。何の話かな?」と優しく応じた。
恵は少し緊張しながらも、自分の考えを伝え始めた。「春子さんが作り続けてきた塩むすびは、この村の宝です。でも、私はそれをこの村だけでなく、もっと多くの人々に知ってもらいたいんです。春子さんの思いを受け継いで、村の外でも塩むすびを広めるためのイベントや催しを開きたいと思っているんです。」
村長は恵の言葉をじっと聞きながら、しばらく考え込んでいた。しかし、やがてその表情に微笑みが戻り、彼女に向かって頷いた。「恵さん、あなたが春子さんの遺志を継いで、この村の未来を考えていることをとても嬉しく思います。村全体で協力して、そのイベントを成功させましょう。」
恵は村長の言葉に感激し、心からの感謝を述べた。そして、村の広場で塩むすびをテーマにしたイベントを開催することが決まった。イベントでは、村の伝統を紹介し、塩むすびを実際に体験してもらうワークショップを開くことにした。
準備は大変だったが、村の人々は一丸となって協力してくれた。恵は春子から受け継いだ塩むすびの作り方を村人たちに教えながら、イベントの準備を進めた。村全体が活気に満ち、皆が一つの目標に向かって働いている姿は、まるで春子がまだ生きていた頃のように思えた。
そして、イベント当日。村には多くの人々が訪れ、広場は賑やかな声で満たされていた。恵は少し緊張しながらも、村の人々と共に笑顔で迎え入れた。
イベントは大成功だった。訪れた人々は塩むすびの美味しさに感動し、その背後にある春子の思いと村の歴史に深い感銘を受けた。恵は、村外の人々と触れ合うことで、新たな絆が生まれたことを実感した。
イベントが終わった後、恵は村の広場で一人静かに夕焼けを見つめていた。その時、村長がそっと彼女に近づき、肩に手を置いた。
「恵さん、あなたの努力が村に新しい風を吹き込んでくれたね。春子さんもきっと天国で喜んでいると思うよ。」
恵は微笑みながら頷いた。「これからも、この村と塩むすびを守り続けていきます。もっと多くの人々に春子さんの思いを伝えるために。」
夕焼けに染まる村の景色は、恵にとってこれからの新たな挑戦へのエールのように感じられた。彼女は春子の遺志を胸に抱きながら、未来に向かってさらに前進する決意を新たにした。
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