7枚目

 それから先輩と駅に戻って、ベンチで一晩明かしました。翌日、暑苦しさでぼくが目を覚ました時には、先輩の姿はどこにもなくて、時刻表を見ても、まだ始発も通っていない時間でしたから、先に電車に乗ったとも思えませんでした。ただ、ぼくはそれ以上先輩を探そうとはしませんでした。


 ぼくは、来た時と同じように電車に乗って、街の方まで戻ると、途中の駅で便箋と、封筒とを買って、この手紙を書き始めました。結局、最初の書き出しだけで何度も書き直したし、全部書き終わるまでもう一日かかってしまったけど、ようやくここまで書き進めることができて、良かったと思っています。


 父さん、母さん、ぼくは今、とても楽しい気持ちでいます。この気持ちを表現するのに、ありきたりな言葉なのかもしれないけれど、これが、きっと、幸福というのかもしれません。


 先輩は、ぼくの幸福は一時のものだと言いました。そして、ぼくはその一時を、一時のまま終わらせることができる方法を知っています。


P.S.

 先輩のことは探さないでください。また、他の人にも教えないでください。

 きっとそれを聞いた人たちは、ぼくの気が狂ってしまっていたのだと、結論づけてしまうでしょうから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸福のための一番簡単な方法 森野枝 直瑞(もりのえだ すぐるみ) @xxyyyzz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ