男子学生Aの手紙(7/7)

1枚目

 母さん、父さん、ちーちゃん、ごめんなさい。

 ぼくは死ぬことにします。

 本当にごめんなさい。


 母さん、いつもお弁当を作ってくれてありがとう。母さんは冷凍物を褒められると嫌だということを知っています。伝わらなかったかも知れないけど、僕は母さんが作ってくれたお弁当と、晩御飯があったから、今まで生きてこられたのです。本当は直接言いたかったけれど、ごめんなさい。ありがとう。


 父さん、父さんはいつも仕事で家に帰ってくるのが遅くて、本当はもっと話ができればよかったなと思います。でも、大丈夫かって心配してくれたり、何かあったらいつでも言ってくれていいんだぞって元気づけてくれてありがとう。ぼくが寝てしまった後でお酒を飲みながら、ぼくを大学に行かせてやれないって言って泣いていたのを知っています。ぼくはそれだけで頑張ろうっていう気になれました。もし神様やなんかがいて、生まれ変わってもいいとか言ったら、ぼくは父さんみたいな親になりたいって言います。もっといろいろ、ぼくから話せればよかったんだけれど、ぼくにはその勇気はありませんでした。


 ちーちゃんは、まだわからないと思うので、父さんと母さんにお願いです。ちーちゃんには、ぼくがいたことは教えないでください。ちーちゃんは、ちーちゃんで生きていけるように、ぼくのことなんか忘れてしまって、思い出さないように、ぼくのものは全部捨ててしまって、見えないようにしてください。


 本当は、一昨日学校へ行くときの駅で、昔みんなで新宿から乗った特急電車に飛び込んで死のうとしました。それが今、こうして手紙を書いています。これが最初で最後の手紙になってしまってごめんなさい。ぼくは、遺書というものを読んだことがないので、これが遺書になるのかどうかはわかりません。ただぼくは、今のぼくの気持ちを、母さんと父さんには知っていて欲しいとは思っています。それに、父さんや母さんは、僕が死のうとしているきっかけは知っておきたいんじゃないかな、と言われたので、それも書いておこうと思います。


 ぼくは、今の学校の一年生の二学期ごろから、三年の今まで|◾️◾️(塗り潰し)と◾️◾️(塗り潰し)から、提出物をもらう帰りに机を蹴られたり、すれ違うときに肩をぶつけられたり、ぼくが発表するときに先生に聞こえないような声でため息とか笑われたり、陰口を言われたりしてきました。他にも色々あって、書いているときりがないけど、もしかしたら他の人は、たったそれだけのことでとかいうかも知れないけれど、二年間毎日教室に入るたびに、ぼくは嫌な気持ちになったし、悲しかったし、イライラした。

 

 もし、ぼくが過去に戻ることができたなら、こいつらの頭を金属バットとかフライパンで何回もぶん殴って、灯油をかけて火をつけたりして燃やしてやろうと思います。多分、これが一番いい方法だと思っています。クラスの他の奴も、こいつらにヘコヘコしてばかりだから、これだけやってやれば、自分がどういうことをしでかしたのか、それがわかるようになるんじゃないかな。実は、こいつらが下校しいくのをつけていって、一人になったときに後ろから包丁で刺し殺したりとか、夜に家まで行って、家ごと燃やせたらなんて気持ちがいいかなんて考えたこともあります。結局ぼくに勇気がなかったから、妄想にしかならないけれど。


 ただ、ぼくにも悪いところはあったのかも知れないなと思います。だから、あいつらには、あいつらなりのクソみたいな理由があるんだろうと思うし、それに、殴られたり、カツアゲされたり、物を盗られたりはしていないから、今思い返せば、あいつらがやったことも、なんかつまらないというか、笑い飛ばせてしまうような、そんな気持ちがしています。それは単に、ぼくが一昨日に死なずに、今死のうとしているから、そういうことに対して、どうでもよいと思えるぐらいになれたからかもしれません。


 ぼくは今、悲しいとか、憎いとか、怖いとか、そういう気持ちで書いているのではないのです。だから、父さん母さんは悲しまないでください。

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