本編

第1話 既読無視の真相

 突然ですが病みそうです。

 もう、かれこれ三時間も悶々と過ごしています。





「どうして……」





 画面を見ていると自然と涙が溢れそうになって、ぐっと堪えます。

 今朝の反省を生かし、決して画面を滲ませることはしません。

 

 ですが、しっかりと見つめれば見つめるほど、メッセージの左下にある【既読】の表示が鮮明に脳裏に刻み込まれてしまいます。



 彼氏が既読無視をしました。


 

 普段から短文ばかりな一条くんですが、いつもなら『うん』とか『分かった』とか、何かしらの言葉が返ってくるんです。





結愛ゆあ





 顔を上げると、そこには一条くんがいました。

 いつも通りの凛々しい三白眼の瞳に、少し茶色くてツンツンした髪の毛、私より大きくてがっしりしている身体——相変わらず、どこを切り取ってもかっこいいです。



 私たちが付き合って、今日で一週間が経ちます。

 一緒に昼食を食べるのが日課になっているのですが……まさか、既読無視をした今日も誘ってくれるなんて。



 

 いいのでしょうか、お昼を共にするのが私なんかで。





「今日も私とご飯を食べてくれるんですか?」

「?」





 不思議そうな顔をしながらも頷いてくれる一条くん。

 ぼっちな私に、気を遣ってくれているのかもしれません……。



 一条くんに固定のようなお友だちはいませんが、一緒に話せる仲の人はたくさんいます。

 私なんかと食べるより、他の方々と食べる方がよっぽど有意義な時間を過ごせるんじゃ——ましてや、既読無視するほど不快な相手と一緒にだなんて——


 ガラガラガラッ。


 急に隣の机が私の机とくっつきました。

 一条くんが移動させたみたいで、そのまま私の隣に座ります。

 いつも、昼食をとる時はそうしているのです。



 距離が近いと彼の爽やかな柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐって、鼓動が早くなります。


 ああどうしましょう。

 きっと、私だけが恋を楽しんでしまっています。





「結愛、元気ない」

「えっ、そ、そんなことは……」





 言っている間におでことおでこをピタリとくっつけられてしまいました。

 顔がぶあっと熱くなるのを感じて、慌てて彼の両肩に手を添えて制止を訴えます。





「い、いちじょう、くん……!? そ、その、周りの目が……」





 私の制止も虚しく、彼はじっくりと額を当ててきます。

 し、至近距離に一条くんの瞳が……! 私のドギマギした顔が反射しているのを見つけて、反射的にぎゅっと目をつむってしまいます。


 数秒して、一条くんはようやく額を離してくれました。


 熱があるのかどうかを確かめたんでしょうか……?

 疑問に思っていると、一条くんは何事もなかったようにパンを食べ始めます。


 大きなあんパンの入った袋が五つ。

 一条くんはパンに負けないくらい大きなお口でかじりついています。



 けれど、私の様子を気にしているのか、いつもより食べる速度が遅いように感じられます。



 私が事情を説明しないせいで、彼を困惑させてしまっている。

 伝えなくては……たとえ面倒だと嫌われてしまったとしても、一刻も早く彼の疑問を解消し、快適な食事時間にできるよう貢献しなくては。





「あの、一条くん」

「?」

「今朝のことなんですけど、えっと……返信が、なくて。

 私、変なこと言っちゃいましたよね。

 気まずくさせてしまってすみませんでした」





 誠意を込めて、深々と頭を下げます。

 すると、一条くんは食べるのを中断してスマートホンを開きました。

 内容を振り返っただけなのか、また閉じて、今度は私の両肩に手を置いて顔を上げさせます。





「結愛は花より可愛い。花も草も雲も鳥も、全部、結愛の方が可愛い。パンダとかより可愛い」





 「直接伝えたかった」終始真っ直ぐこちらを見つめ、言い終わってしまうと、彼はまたパンにかじりつき始めました。

 まるで何事もなかったかのように。

 私の心臓はまだ、こんなに動揺して跳ねているのに。



 気がついたときには、一条くんは全てのパンを食べきっていました。





「ミーティング行く」

「あ……はい」





 呆然としながら、部室へと向かう一条くんの背を見送ります。

 そこで小さな違和感に気づいてしまって、思わず口を覆いました。





「一条くんの耳……赤かった……」

「それな。俺も初めて見た」

「ですよね——って、え!?」





 振り返ると、そこには男子生徒がいました。 

 耳と口についたピアス、プリンを彷彿とさせる金髪が、彼の存在を陽キャだと主張しています。


 彼が陽キャだと知った瞬間、身体がいつもにも増して固くなります。

 い、いったいどうして私なんかに絡んでくるのでしょう……カツアゲされてしまうやもしれません。ここは一旦、逃げて——





兎田うさぎだちゃん、あらたと結構うまくやれてる感じじゃーん」





 わ、私の名前を知っている……!?

 それに一条くんのファーストネームまで呼ぶなんて……!



 正体不明の陽キャの出現に、目が回る思いです。

 あの! 誰でもいいので教えてください!





 この人はいったい、どちらさまですか!?





✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼





次回

第2話 『陰キャの宿敵』



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