一条くんの愛がデカすぎる
Aoioto
プロローグ
メンヘラは朝の四時から
突然ですが病みそうです。
もう、かれこれスマートホンと二時間も睨めっこしています。
「どうして……」
涙で視界が滲んでしまって画面が上手く見えません。
これではいけないと慌てて涙を拭っても、画面に変化はありません。
彼氏から返信が来ないんです。
朝四時に『おはよう』と送ったのに、それから返信がなくて。
ランニングをしている彼は五時起き。
今は六時。
目をこすったりテレビで時間を確認したりしてみても六時。
つまり、二時間も音信不通なんです。
なんで? 飽きられた? もしかして私のこと嫌いになった?
早朝の人間の脳みそは回転が速いです。なので、私のメンヘラ思考もはかどります。
ぐるぐるぐるぐる……
「病んできた、死のうかな」
ピコン。
メッセージ通知の音が一瞬、思考を停止させます。
少しして、その音が意味する事柄に気づき「一条くんからだ!」と思わず声をあげました。
涙を拭ってきちんと画面を見ようとします。
不思議なことに、その間もピコンピコンと通知が鳴り続けていて、「ま、待ってください」とあわてて内容を確認しました。
『この花、
そんなメッセージのあとに、続けて写真が送られていました。
一枚や二枚どころの話ではありません。花びらの裏から茎だけのものまで、ありとあらゆるアングルからこれでもかというほどの枚数の写真が送られてきています。
その数なんと、四十三枚。
被写体はどれも、彼のランニングコースの脇道に生えている野花。
淡い水色の花弁が小さくて可愛らしい印象を受けます。
思わず息を漏らす。
これは……なんというか。さすがの私でも、ちょっと。
愛されていると実感せざるを得ません。
『私はこんなに可愛くないですよ、一条くん』
つれない返信をしてしまう自分が嫌いです。
それでも、幸福感は胸いっぱいに広がっています。
ランニングの時間に私のことを考えてくれただなんて、彼女としてこれほど光栄なことはありません。
トーク画面を眺めていると、頬がだらしなく緩んでいることに気づきます。
こんな顔、一条くんには見せられません。乙女としてあるまじき醜態です。内緒で噛みしめなければ。
少しして、ふと時計を見やりました。
時刻は……七時三十分。
あれ? さっき見たときは六時だったのに。
え、待ってください。もう七時三十分?!
「大変、遅刻してしまいます!!」
勢いよく身体を起こす。
万が一にも遅刻してしまえばきっと、クラスの笑い者になってしまいます。
一条くんにも愛想を尽かされてしまいます。
それだけはなんとしても防がなければなりません!
ドタバタと音を立てて身支度を済ませます。
制服のしわを手で伸ばして、髪をとかして、
時間がないので朝食は省略。
テレビを消して、戸締りをして。
唯一のお友だち、インコのピーちゃんに行ってきますの挨拶は忘れません。
肩口で風になびく黒髪を押さえながら、「さて今日も一日頑張って乗り切ろう」ともう一度トーク画面を開いたところで——あれ?
「既読……無視……!?」
雷に打たれたような衝撃に、思わず膝から崩れ落ちる。
これはメンヘラで有名な私、
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次回
第1話 『既読無視の真相』
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