第2話 陰キャの宿敵

 突然ですが病みそうです。


 今回はどのくらいの時間、格闘しているでしょうか。

 実際は数秒も経っていないのですが、いやもう、なんというか、一秒が一年のように長く感じられます。





「どうして……」

「? 何が?」





 平然と笑っているプリン頭の男子生徒。

 一条くんを見送った直後に現れた、【仮称:陽キャ1号】です。



 陽キャという存在は往々にして陰キャの宿敵です。

 ですから一瞬カツアゲを疑いましたが、一条くんのファーストネームを呼んだあたり、彼と関わりがあるのかもしれません。



 とにもかくにも、気を引き締めなくては。



 スカートの裾をきゅっと握って、震えそうな口を開きます。





「あのっ……ど、どちらさまでしょうか……」

「え。俺のこと知らない?」

「ごっ、ごめんなさい! どこかで会いましたか?」

「んー、まぁ毎日会ってるには会ってるけど」

「?? 一条くんのストーカーですか?」

「そっち!?(笑)」





 わざとらしく肩を竦めると、陽キャ1号さんはさきほど一条くんが使っていた机をトントンと人差し指でつつきました。





「ここ、俺の席なんだよね」

「!?」





 まさに寝耳に水。青天の霹靂です。

 だって、そこが彼の席であるならば、彼はクラスメイトなのです。

 つまり私は、クラスメイト相手に初対面の振る舞いをしてしまったということで――





兎田うさぎだちゃんってクラスメイトの顔とか覚えないタイプ?」

「そう……ですね、下ばかり見てるので」





 あと陰キャである私は、相手の顔を見ているようで何も見ていないという特技を持っていて――とはさすがに言えず、少し罪悪感を抱いてうつむきます。





「下ばっか見てんの? なんか面白いことある?」

「いや、そういうわけではなくて……ですね」

「てか敬語なんか使わなくていいよ?」

「ああ、えっと、これはその、癖というかなんというか」





 あの、あの、ちょっと待ってください! なんだか精神的な距離感がとっても近いです!

 誰でもいいので助けてください! 私とまったくの正反対の彼とではお話もままなりません!



 あたふたしすぎてしまったのか、陽キャ1号さんは「あー、ごめんごめん。いきなり迷惑だったかな」と一呼吸置いてくれました。





「改めて自己紹介させて。俺は瀬良 千秋せら ちあき。よろしくね」

「わ、ご、ご丁寧にありがとうございます。

 兎田 結愛ゆあです。

 えっと、よろしくお願いします。瀬良さん」

「瀬良さんなんてかしこまらなくていいよ(笑)

 気軽にチーくんって呼んで」

「ち、チーくん、ですか?」

 それはあまりにも馴れ馴れしすぎるのでは。

「みんなそうやって呼んでるからさ。ダメかな?」

「わ、分かり……ました」





 陽キャの方は恐ろしいので、あんまりよろしくしたくないんですけど――と内心で思ったことを申し訳なく感じてしまうほど、陽キャ1号さん――チーくんは朗らかに笑いかけてくれました。


 犬のように人懐っこい雰囲気……。

 人を惹きつけるような笑顔というのは、きっとこういうものを言うのでしょう。



 そこまで考えたところでふと、聞きそびれていたことを思い出します。





「さっき、一条くんの名前を呼んでましたけど」

「ん? ああ、友達なんだよね。そこそこ付き合い長い感じの。幼馴染って言ったらいいかな」

「幼馴染……!」

「そーそー、だからあらたの昔の話とかめっちゃ知ってるよ。

 今日の放課後でもよければ、そこのファミレスでいっぱい話してあげようか」





 あまりにも魅力的なお誘いです。

 一条くんの幼少期について知れる機会なんて、そうそうありません。





「はい! ぜひお願いします!!」





 私が返事をすると、不意にチーくんが小さく肩を揺らしました。

 そこでようやく、いつの間にか身を乗り出してしまっていたことに気づきます。





「結愛ちゃんって面白いね」

「お、おもしろ……!?」





 唐突な結愛ちゃん呼びと面白い認定に戸惑っていると、手を差し出されます。





「実はちょっと緊張してたんだけど、話しかけてよかったよ。

 これからもよろしくね、結愛ちゃん」





 緊張。

 陽キャの方でも、初めて話しかける人を相手にするときは緊張するのですね。





「はい、こちらこそよろしくお願いします……!」





 少しの親近感と、お話して生まれた安堵感が助け、なんなく握手に応じることができました。




 私のような陰キャの宿敵は、陽キャの方々ではないのかもしれません。


 「この人はこういう人間だ」と一方的にレッテルを貼って、過度に距離を取り過ぎてしまうことこそが、私たちの人付き合いを難しくしている原因のようです。





 そんなことを考えていると、突然ギュッと手を握る力を込められて驚きます。





「結愛ちゃんってクラスメイトの顔覚えてないんだよね? この機会に全員に挨拶して回ろっか」

「へ?」

「あと10分もないよ! 急げ急げー!」





 断る隙もなく、「みんなー! 結愛ちゃんと友達になってあげてー!」とチーくんが所属しているであろうグループに投入されてしまいます。





「結愛ちゃん?」

「お前また女子にちょっかいかけてんのかよー(笑)」

「えーかわいいー!」





 よ、容赦なく向けられるたくさんの視線に目眩が――



 ぐるり、



 天井が回ります。





「ちょ、大丈夫!?」





 遠ざかる意識の中、チーくんの悪意なき声が頭に響きます。

 なんと、彼は善意のみで私を窮地に追いやったのです。





 前言撤回!

 やっぱり陰キャの宿敵は陽キャです!!





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次回

第3話 『放課後、ファミレスにて情報収集』



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一条くんの愛がデカすぎる Aoioto @Aoioto

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