総選挙直前 インタビュー No.3 アサヒ

 告白します。

 太陽の巫女たるこの身を、ひかりに捧げる前に。

 私にとっての光は誠実さです。潔白こそが光量を増加させ、一秒でも長く世界を照らすことができると信じています。そのためならば進んでこの身を捧げる所存です。皆様は献身だと、あるいは犠牲だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そのように思う必要は少しもありません。私達のために心を痛める必要はありません。ただ、真実を。この白日のもとにさらし、知ってもらわねばならない。そう思うのです。

 私たち太陽の巫女――一般的には偶像アイドルと呼ばれていますが、いずれも役割を正確に表した呼び名ではないでしょう。正しく理解していただくために、この場では適合者と呼びたいと思います。

 何の適合者か? 人工太陽の適合者です。

 ひかりが空に昇って星となったのは、強く記憶に残っていると思います。しかし、その場面があまりに印象的すぎたために、ひとつの誤解が広く浸透してしまいました。それはひかり=人工太陽という図式です。彼女そのものが太陽に成り代わってしまったと誤解を生みました。では、なにが誤っているのか。

 私たち適合者は、あくまで光を生み出すための触媒にすぎない、ということです。

 みなさまも、多くの適合者も、自らが光を発している光源だと誤解しています。発光現象の出発点を考えればよくわかると思います。現在、多くのアイドルたちが、ひかりのライブに感化されて、自身も光を放ち始めたと証言しています。みな、これまで体験したことのない大きな感情のうねりを、ライブに立ち会うことで経験しています。それこそが発光現象の鍵なのです。

 適合者は感情が高ぶると放電に似た感情の波を発します。この波――あるいは粒子が、周囲に浮遊している微細な粒子と衝突することで光と熱が発生します。一般の人間が発光現象を起こし得ないのは、波を発生させる性質を持たないからです。適合者は多かれ少なかれ、周囲に波を放ちます。これを干渉波といいます。わかりやすい言い方をすると、アイドルビーム。ひかりがステージから打っていた、あの光線です。彼女は実際に、その指先から波を放っていたのです。

 暗黒期、適合者たちが積極的に遠征ライブを行っていたのには、ひとつは世界を照らす目的もありましたが、もうひとつは新たな適合者探しの目的がありました。適合者は非常に不安定で、いつどんなきっかけで波を起こせなくなるかわかりませんでした。常に、代わりが求められていたのです。

 適合者は特別な感情の周波数を持っていますが、この周波数は感情の高ぶりで影響を大きくする一方、容易に変動しうるために、発光現象は失われやすい傾向にありました。

 そんな適合者のなかでも、ひかりは特異な干渉波の持ち主でした。強い影響力を持ち、減衰することがない。

 加えて、現在の人工太陽としての彼女の発光は、干渉波による間接的な発光ではないと言われています。なんらかの飛躍があったと推測されます。

 ここからは仮説になりますが、彼女の中で相反するいくつかの感情があり、それらが分離や融合を繰り返し、激しいエネルギーを放っているのではないかと、考えています。

 私はひかり自身のことについては詳しくありません。ただ、彼女は、なにか大きな動機を抱えていたのではないでしょうか。太陽に成り代わってしまうほど、とてつもなく大きな感情のうねり。そして、それを長く持続できているという事実。

 私たち、ひかり以後の適合者は、まだ誰一人として、その境地に達することができていません。太陽が陰り、そしてこの期に頂点を決めるための総選挙ライブが執り行われる。私はこれを、飛躍のための最終段階と捉えています。

 このそれぞれの感情がぶつかり合うステージの上で。

 潔白、献身、使命。

 私を輝かせるすべて。

 真価を発揮してみせます。

 それが私がこの才能を持って生まれた理由。定めだと命に刻んで。

 どうか、わずかでも声援を届けてくだされば幸いです。

 私は皆様のために、光ってみせます。

 応援、よろしくお願いします。


【中間総合順位4位 アサヒ 総選挙直前インタビューより抜粋】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る