第51話 時を越えた戦い

アスドーラは首を傾げた。

闇に佇む彼女が、何を言っているのか理解できなかった。


そんなことよりも、この瘴気がノピーたちに届いてはいないか、そんな心配が勝つ。


「止めてくれない?友だちが近くにいるんだ」


「知ってるわよ?」


「だから止めてくれない?」


「なぁぜ?構わないでしょ。だって今から――」


ニヤリと笑った。


「殺しに行くんだから」


西域の支配者、風雨ふうう神ハリケーンドラゴンは憎んでいた。

二千年前の災厄で、最愛の人を屍肉にしたドラゴンを。

何もかもを奪った、ドラゴンを。


「止め――」


彼女が亜空間へ消えた瞬間、アスドーラは余裕をかなぐり捨てた。


焦りと共に溢れ出る魔力が、ラハール全土へと広がる。

友だちはどこにいるのか。

誰よりも知っている姿形に触れた刹那、アスドーラは転移した。


そこで相対する二柱の神。


アスドーラは生唾を飲み込み、彼女の卑屈な笑みを睨みつける。


「こぉんなに弱いなんて。まだお手々は出してないのねぇ」


倒れ伏す友を見て、アスドーラの怒りは沸騰した。

この瘴気に耐えうる人はいない。

三人がまだ生きているだけで奇跡とも言える。


瘴気について、南域の誰かが詠った詩がある。


一度ひとたび触れると、恐怖を感じる。

二度ふたたび触れると、魔力を失う。

三度みたび触れると、力を失う。

四度よたび触れると、感情が消える。

五度いつたび触れると、理性が消える。

六度むたび触れると、本能が消える。

七度ななたび触れると、心臓が止まる。

八度やたび触れると、死臭漂う。

九度ここのたび触れると、魂が還る。

十度とおど触れると、もういない。


アスドーラの友はどれだけ触れたろうか。


一つ言えるのは、一分の猶予も残されていないということだった。


ズァァァァァアッ!


魔力が弾け、すべてを覆う。

邪悪なる瘴気を食い尽くすが如く、北域全土へ広がった。


ハリケーンドラゴンはコテンと首をかしげると、華奢な腕で赤い髪を無造作に掴み、人形のように持ち上げた。

細く綺麗な指先で、まだ幼い喉をトントンと叩く。


「そんなに余裕ならぁ、ヤッちゃおっか?」


美しい顔がぐにゃりと歪んだその刹那、まるで渦のように空間も歪む。

それはアスドーラの魔力が亜空間を開いた証だった。

亜空間から、彼女の背後へ。

そして強靭な爪が、女の頭を引き裂いた。


ドサリ――。

赤髪の少年は手から逃れ、地面に横たわる。

彼を一瞥したアスドーラは、眼前の背中に抱きつく。

そして滑り込むようにして、背後の亜空間へと引きずり込んだ。


そこに広がるのは無であった。

ラハールの空からすべてが消えたように、アスドーラたちを包み込むのは無。

だが確かに感じる、濃厚な魔力は2人には馴染のあるものだった。


「……私しつこいからねぇ?こんなとこに連れてきても、必ず殺すわよ?」


グチャグチャと音を立て、再生したハリケーンはボソリと言った。

これからが本番だとでも言いたげに、首を回し大きく伸びをする。


「どうして?友だちは関係ないでしょ」


アスドーラの言は、まさに正論であった。

そこには何の間違いもない。

だが、正論だからこそ彼女の逆上を駆り立てる。


「お前だけは許せないんだよ!お前だけは、ぐちゃぐちゃに咽び泣いて、ぐちゃぐちゃに掻き毟って、ぐちゃぐちゃにならなきゃ……イケないの。可愛いからねぇ」


組み付いた腕がミシミシと音を立てる。

ぐっと力を込めるが、人の体では限界であった。

膨れ上がる彼女が本当の姿を現したから。


黒竜――。


闇のような漆黒と、光を寄せ付けないくろが、彼女の心を表していた。


「ヤりましょ?その後にゆっくり、お友だちは殺すわ


彼女はどこまでも、堕ちていた。


アスドーラでも、悲しくなるほどに。


胸の奥から魔力が溢れ躰を引き裂く。

竜に敵うのは竜しかいない。


その戦いに手加減も容赦も不要。

互いに死なないと分かっているから、本気でぶつからねばならない。

心を圧し折るまで、とことん殺らねばならない。


銀色の竜は、眼前の黒竜を睨みつけ、そしてぶつかった。

翼をもぎ取り、首に食らいつき。

爪を立てて、光の奔流を放射する。


互いに傷を負い、互いに再生し。

何度も何度もぶつかり合った。


食い込む爪が、互いの体を引き付け離さず、ぐるぐるとどこまでも落ちていく。

咆哮を浴びて顔が吹き飛んでも、また再生し咆哮する。


魔力と魔力の激突。

竜と竜の衝突。

真髄と真髄がぶつかる。


世界の支配者たる二柱が、亜空間を掻き乱し、そして殺し合った。


それは途方もない時間であった。


亜空間という無にはない、竜の感覚的時間によれば。


途方もなかった。


尽きることのない恨み憎しみを晴らすため、ただひたすらに銀竜を貪る。

友だちを守るため、ただひたすらに黒竜を屠る。


すると、亜空間に声が響いた。

それはこの場に似つかわしくない、おちゃらけた声だった。


「へいへいへーいバカ姉弟!いつまでヤッてんだって話だ!亜空間が小さくなってんだって!もう止めろや!」


「クソババアめ。淫乱の大食らいのトンチキめ。とお兄ちゃんが言ってました」


「お、お兄ちゃんてアースのことだからなー。おい!煽るんじゃねえよ。とばっちりはゴメンだ!」


「私も嫌です。なので帰ります。さよならー」


「あ、おい!」


どこからともなく現れた、ボルケーノとブリザードの二人だったが、ブリザードの方はそそくさと亜空間から消えてしまった。


取り残されたボルケーノは、未だに殺り合う二柱を見てため息をついた。


「おーい、あのよお。そろそろマジで止めてくんねえか。亜空間が消えっちまうと、またいちからやり直しになんだぞー」


ギュアォォォォォッ!

ギャオォォォォォッ!


まったく聞く耳を持たない。

というか、そもそも存在に気づいてもらえてない気がしたボルケーノも、だんだんイライラしてくる。

彼はもともと気が短い。

これでも、かなり頑張った方ではあるが、もう限界であった。


『そろそろ殺るぞてめえら。笑ってるうちに終わんな』


メキメキと音を立てて、ボルケーノの真の姿が露わになる。

真っ赤な体はそのままに、怒りの焰がその瞳には宿っていた。


熱く燃える魔力をようやっと感じ、そして頭に響く声に、二柱は意識を引き戻された。


『……どうしたの?』


『どうしたもこうしたもあるかい!終われっつってんだ』


『……なぁんで?引っ込んでてくれるかなぁ。2人の問題なんだし』


頬を引き攣らせるボルケーノの魔力が、だんだんと熱を帯びていく。

短気な彼に、同じ説明をしろというのだ。

それはもう、料理人へ食材を渡すが如く、鍛冶師に鉄を渡すが如く、音楽家に楽器を渡すが如く、怒れと言っているようなものだ。


『てめえら――』


ぶっ殺す!

と言いかけたボルケーノの尻尾がピキピキと凍った。


『あ痛゛!んだ?』


ボルケーノの背後で不敵に笑う一人の少女。

ブリザードは帰っていなかった。

虎視眈々と、今か今かと待っていたのだ。


知能の低いバカな竜たちに、いたずらするチャンスを。


『ザマアないですね。感情任せになるから視野狭窄に陥るんですよー。人の真似しすぎて、知能がゴブリン以下になってますね。うーん、キモすぎ』


『……クソが。お前ら全員クソだ。まとめてかかってこいや!ぶち殺してやらあ!』


『嫌です。帰ります。バカがうつると嫌なので』


止めに来たはずの二柱は、何故かぎゃあぎゃあ騒ぎまくり、何故か追いかけっこを始める始末。


戦いを中断された二柱は、互いに食い込む爪を抜き、互いに人の姿へと変貌した。


「もう止めてよ。友だちには何もしないでお願い」


アスドーラは、深々を頭を下げた。

長き時を戦いアスドーラは覚悟していた。

友だちとは、もう会えない。

そんな寂しさとも、戦っていた。

それでも戦い続けたのは、絶対に殺させないため、守るため。

自分が止めなければ、誰も止められないから、やるしかなかった。


まだ生きているのだろうか。

生きているならば、もう関わらないでほしい。

心底のお願いだった。


ハリケーンはニコリと笑う。


「やーよ。言ったでしょ?私はしつこいって」


当たり前でしょ?と言いたげな表情を浮かべていた。


アスドーラには、身に覚えのない恨みである。

まったく理解できない彼女の思いに怒ったとしても、何も変わらない。また戦いを続けることこそ、不毛だ。


だから素直になった。


「どうして?なんで?僕なにかした?謝るからもう許してよ」


すると、ハリケーンの顔から表情が消えた。


「奪ったでしょ彼をッ!大事に大事にそのままの彼でいさせてあげたのよ!それをお前が壊した!」


「……ほ、本当に僕?覚えてないんだけど」


「二千年前。散々ヤッてくれたじゃないのよ。アスドーラちゃんが激しくしたせいで……彼は壊れたのよッ!」


「それは、君が原因じゃないか。君が5人目の竜を作ろうとしたから――」


「だからなぁに?私から彼を奪う理由にはなってないわねぇ。これで分かってくれたかしら。私の気持ち」


これが、忌避される理由である。


ボルケーノもブリザードも、確かに狂気的な面がある。

だがハリケーンのように、ここまで執着しここまで怨念を育て上げ、ここまで他責に傾くことはない。


こんな性格だから、ボルケーノもブリザードも、彼女のことを嫌っていたし、関わりたくはないと思っていた。


「それじゃあ、僕はどうしたらいいの?どうしたら許してくれるの?」


「引きこもってなさいよ。ずーっと引きこもって、何もせずにじっとしててぇ。その方がずーっと可愛いんだから」


彼女はとにかく、アスドーラが苦しめば、それでよかった。


しかしアスドーラが頷くことはない。

何故なら彼もまた、ドラゴンであり、狂気的な面を持っているからだ。


それは狂気的なまでの、理想である。


「ごめんよ。もう一人ぼっちは嫌なんだ。だから、別の案を出したいけど、僕じゃ良い案を思いつかない。だから友だちに相談させて?」


「……だから友だちは殺すって言ってるわよねぇ?」


「じゃあ友だちみんな、北に連れてってみんなで暮らす。もしも近づいたら全部消すからね。ボルケーノもブリザードもいい!?僕の友だち以外、みんな消す!」


その理想は、つい最近変わった。

自分でも気づかぬうちに変わっていた。


人が楽しく幸せに生きていればいいと思う。この世界は、そうやって使えばいい。

この言葉に嘘はない。

だがそれ以上の、理想があった。


友だちと一緒に自分も笑うこと。


他は全部消えてしまっても構わないが、友だちだけは一緒にそばにいてほしい。


そんな狂気的な理想が、アスドーラにはあった。


「俺らまで巻き込むたあ、変わったなあ。ブリザードみてえだ」


「私たちを巻き込んで、ハリケーンを抑え込もうという魂胆ですか。ボルケーノよりは、頭が良いですね」


彼らは、人と関わり世界に関わり長い時間を謳歌してきた。

人やこの世界が、なかなか手放し難い、おもちゃであると知っている。

だからこそ、人を消すというアスドーラの宣言は、有効に働いた。


二柱に見つめられ、ハリケーンは苦笑した。


「……500年前なら、全員から責められるのも悪くないって思えたんだけど。私もおもちゃがデキちゃったからなぁ。全部消されるのは、困っちゃうかも」


「じゃあ、何もしないでね?」


「今はね。おもちゃでイケなくなったら、またアスドーラちゃんと、イチャイチャしたくなるかもッ」


「……その時は、お話しよう」


こうして、長い長い二竜の戦いは幕を閉じた。


45億年も生きるドラゴンが、長いと感じるほどの長さである。

人が感じる長いとは、大きくかけ離れている時間、アスドーラたちは亜空間にいた。


数時間でも数日でもない。


それほど長い時を過ごしたのだから、アスドーラは覚悟していた。


もう、彼らと会えないことを。


「なーんで落ち込んでんだ?弟」


「クソババアから酷い性的虐待を受けたので、落ち込んでるんだ。と言いたそうですよね」


「……友だち、生きてるかな」


ボソリと呟くと、ボルケーノとブリザードは、キョトンとしていた。


「あんだ?瘴気のことか?ありゃよお、お前らが亜空間に消えっちまったから、引っ込んだぜ?」


「答えになってませんよ。アースが聞きたいのは、時間です。外の彼らは寿命が来ていないかどうか」


「うん。もうさすがに生きてないかなあ」


「生きてるに決まってんだろ。こっちは時間がねえんだからよお。お前の友だちはまだ……あ、お前らが、亜空間に入る前は生きてたか?そん時死んでたんじゃあ、死んでるわ。うん」


顔を上げたアスドーラは、まだ半信半疑といった様子だった。

それを見たボルケーノは、ため息をつき何が起きているのかを説明してくれた。


「こっちは無。時間は流れてねえのよ。だからよお、どんだけ長くいても、向こうじゃあ1秒も進んじゃいねえ。分かっか?」


「まだいるんだね?」 


「おお。さっきからそう言ってるじゃねえか」


「じゃあ帰る!ありがとうボルケーノ!バイバイ!ブリザード!もう近寄らないでねハリケーン!」


アスドーラは、亜空間をこじ開け彼らのもとへと、降り立った。


長く離れた、友だちのもとへ。


※※※


この日のことを人は、二度目の災厄と呼んだ。


ラハール王国の行動は、地勢的難しさも相まっての

生存戦略であり、各国が過度な増長を自制すべき理由でもある。

二千年前の災厄も、人間が魔族を過度に刺激し、過度に追い込んだ。

国や思想、戦う理由や種族は違えど、それぞれの災厄に共通するのは、自己を守ろうとする本能から発生している点である。


人は容易に魔法を使えるし、人は容易に命を奪うことができる。

凶器と狂気を常に孕むからこそ、追い込んでしまった、大国たちにも責任があるだろう。

災厄を遠ざけるためには、災厄から学ばねばならない。

事実を恐れず、愚直に向き合うことが、この災厄で犠牲となった人々への贖罪である。


とある学者が語った言葉である。

これは大きな顰蹙を買った。


すべてラハール王国と、その王家が愚かなせいである。

国家を優先し、世界を蔑ろにした罪は重い。


己の正当性を主張するため、他国の王や政府はそうやって、災厄の本質から目を逸らした。

そして人々は、そうなのだろうと信じた。


遠い国の話で、たかだか小国が潰れただけ。

我が人生になんの影響も及ぼさないのだ。

考える得がない。


人は忘れがちだ。


大地に広がる文明文化、そして空と星とお日様まで、世界は誰のものであるのかを。


学びを忘れてしまった人は、何もかも忘れているのだろう。


生物みな等しく、巡る災厄からは逃れられない。

世界の支配者たるドラゴンが、それを許さないから。



闇夜の帳がラハール王国から光を奪う。

荒れ果てた大地からは、かつての生活が、文化が、文明が、すべてが消えていた。


人も死に絶え、終わりのような光景が広がっている。

けれど、まだ終わりではない。


ほとんどをドラゴンに奪われたラハール王国であったが、またドラゴンに守られたものもあった。



ふわりと漂う精霊たちは、強大な魔力から分化して、すーっとどこかへ消えていく。

帳を食らう、世界創生の魔力は、ラハール王国に光を齎す。

空も雲も、星もお日様も。鳥が人が空を飛べるように、空気まで生み出した。


「みんな。会いたかったよッ!」


重たそうに体を起こした三人は、ポカンとしていた。

いつの間にか暖かい日差しが戻り、恐ろしいあの瘴気も晴れていたから。


アスドーラは、三人をぎゅっと抱きしめた。


ジャックは嫌がるし、ノピーは苦しそうにするし、ネネはやたらと頬をスリスリするし。


みんながいてくれて良かったと思うと、自然と笑みが溢れた。


「……とんでもないことになったね」


ノピーは、周囲を見回して言う。

瓦礫が広がったその場所は、ラハールの町外れだった。

王都よりも被害が少なく、まだ形が残っているだけマシであるが、彼らは王都の惨状を知らない。


「学校は、まだ残ってんのか」


ジャックの視線の先には、学校があった。

背の高い学校と、商業ギルドはよく見える。


「帰るどころじゃ、なくなったね」


ネネは口惜しそうに繕うが、本心を完全には隠しきれていない。

笑顔を隠そうと口をモニョモニョさせていた。


「帰ろうか。明日も学校があるんだしさあ!」


王都が壊滅。

王家は消滅。

政府は潰えてもなお、アスドーラは学校があると思っているらしい。


ただ、そう思いたかっただけかもしれない。


「……さすがに、休みだと思うよ。アスドーラ君」

「だなあ」

「まあいいじゃない。だって生きてるんだよ。私たち」


災厄の最中にあり、学校まで求めるのは過ぎたことだ。

ノピーもジャックも、頷いて地面に体を投げ出した。


「疲れたー」

「僕、もう歩けないよ」


ネネとアスドーラは、互いに見合いくすりと笑う。


ゴロリと地面に寝っ転がって、4人で空を見上げた。


「ところでさあ、ネネ?彼女ってなに?」


友だちと笑える事が何よりも大切であると、ドラゴンは心の底から思うのであった。


ザッザッザッ――。


重たそうな足音が遠くから聞こえ、4人は横になりながら顔を上げた。


遠くから全力で走ってくるのは、パノラを抱えたヒゲの騎士、ソーチャルであった。


「はあ、ひゅーはあ、ひゅー。ジャ、ジャックざま、はあ、はあ」


「……息を整えろ。何を言ってるのか分からん」


「はあ、ぞんな、暇は、ないのです。はあ、はあ。

ノースから、はゅー、使節が来ました」


「ノース?」


怪訝な表情を浮かべたジャックは、アスドーラに視線を向ける。


ノース王国がラハール王国に来る理由はない。

ジャックが考えた、全てが終わったあとの作戦では、ドライアダリス共和国と、ミッテン統一連合へ牽制の書簡を送るだけで、使節がわざわざ出張る必要がない。


国内情勢悪化を鑑みた平定の作業も、ラハール王国内の貴族や商人が主導して行うので、ノース王国が出張る必要はない。


つまりジャックの策とは別の理由でここへやって来たということだが、首を傾げているアスドーラにも、思い当たる節はないようだ。


「誰が来ているんだ?」


「はあ、はあ。大祭司サイス様と、ノース王国……ではなく、ノース竜皇国宰相ロホス様がお見えです。はあ、超、大物ですよ!ジャック様!」


「……で?なんで俺に言うんだよ」


「はあ、はあ?ジャック様以外誰が応対するってんですか!ノースの使節団はどうやら、王都に用があるんじゃなく、ラハールの町を管理するアバールス家かパウペリス家の者と会いたいと言ってるんです!でも無理でしょ!」


朝忙しすぎてブチギレる母親のような、誇大すぎるヒステリーを見せたソーチャルに、ジャックはかなり引いていた。


アバールス家やパウペリス家と会いたいなら会わせればいいではないか。

ジャックの思考を勘破したソーチャルは、息を整えながらため息を漏らした。


「はあ、はーあ。アバールス家の騎士曰く、当主は王都にいるそうです。んで、パウペリス家の当主は、いるにはいますよ?

でも格が違うでしょうが!

あんな貧乏の爪弾き貴族に、他国の宰相と四竜教大祭司の応対なんかできるわけないじゃないですかッ!」


言っている事は正しかった。

パウペリス家はまだ男爵で、つい最近叙爵したばかり。

それなのに嫌われてるので、まともな貴族らしい振る舞いや、社交的儀礼の経験はほぼないため、確かに応対は難しい。


失礼極まりないが、ソーチャルの言は、残念ながら正しかった。


「だから俺が?ふざけんなよ。体調悪いし疲れたし勘弁してくれ。つーか、なにを話したくてわざわざ今来るんだ?なんか言ってなかったのか?」


ラハールと国境を接するノース竜皇国ならば、間違いなく何が起きていたかを見たはず。

アスドーラが暴れ回っていたことを。

沈静化したから様子を見に来たわけでもあるまいに。


「学校を即時再開していただくため、ラハールの町はノース竜皇国が復興支援を手伝いたい、と言ってました。意味分かんねえですが、そういうことらしいです」


「……は?」


「学校かあ。そうか、学校のために来てくれたんだあ!行こうッ!みんな行くよッ!」


ソーチャルの言葉をぼーっと聞いていたアスドーラは、ガバっと起き上がり、さっさと転移した。






――――作者より――――

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