第28話 会いたいのなら会いに行け!

「夕飯は食べたのかな?」


「……いいえ」


「じゃあおいで」


ヒゲの騎士は、アスドーラを連れてとある食堂へ入った。

閉店間際で、店主は嫌そうにしていたが、アスドーラを見ると、すぐに表情を変えた。


「ネネのダチじゃねえか?どしたい?騎士様にパクられたんかい」


黙ったまま俯くアスドーラを見て、店主も何か思うところがあったのか「適当なとこに座んな」と言った。


席につくと騎士がどうしたのかと尋ねる。

アスドーラは、藁にも縋る思いで胸の内を吐露した。


「……寂しいです。友だちに会えないのは嫌です」


答えてくれたはいいものの、支離滅裂すぎて、さすがの騎士も困り顔。


「どうして会えなくなるんだい?」


「ネネは、国に戻るって言ってました」


「……そのネネって子が、どこへ?」


アスドーラのたどたどしい語りに、助け舟を出したのは店主であった。


「ああ、そりゃあよお――」


どうやらネネから店主にも事情を説明してあったらしく、現在のきな臭い情勢や獣人の国ベスティア王国へ帰ることをアスドーラに代わって語った。


騎士はすべてを聞くと「なるほどな」と言い、徐ろに立ち上ってアスドーラの隣に腰掛けた。


「生きているのなら、いずれ会える。

時間も金も掛かるだろうが、会おうと思えば会えるはずだ。

そうだろう?

そんな悲しい顔をしていたら、ネネは余計に寂しくなると思うがなあ」


「ネネも寂しいのかな?」


「当然だ。そんな友だちを一体誰が励ますんだ?君が励ますべきだと思うんだが」


「……そうだね」


「明日からは笑ってやれ。そして必ず会いに行くと約束するんだ。そうしたら、君もネネも踏ん切りがつくはずだ」


「……うん。寂しいけど、そうだね」


「じゃあ、飯にしよう!」


騎士が店主に合図をすると、待ってましたとばかりに料理が運ばれた。


まだ気分が晴れないアスドーラは、食べる気力も湧かなかった。


だが隣で美味しそうに食べるものだから、ついつい手が伸びる。

一口二口と食べ進めるごとに、味や香りに色が戻った。

万全とは言えないが、料理と励ましの言葉によって、重たくなっていたアスドーラの心も軽くなったようだ。


パクパクと料理を食べ進めていると、騎士がアスドーラを見ながら言った。


「学校に通ってるのか?昨日は制服だったろ」


「はい。今年からです」


「ふーむ。そうかあ」


含みのある言い方を残して、騎士は黙々と料理を口に運ぶ。

続きが気になるアスドーラは尋ねる。


「なにかあるんです?」


騎士は咀嚼しながら、言おうか言うまいかと逡巡していた。

けれどアスドーラの純真な眼差しには勝てず、口の中を空にした。


「いやあなあ、ジャックって知っているか?ピアスが目立つ奴なんだが」


「え?赤い髪の?同じクラスです」


「おお!知ってるか!」


「はい。寮の部屋も同じです。仲良くはないですけどねえ」


「ううむ、そうかあ」


そう言うと料理を口に運び、まただんまりを決め込んだ。

さきほどからなにか言いたげなのに、モゴモゴと上辺をなぞるだけ。

だんだんとじれったくなる。どうでもいい話だとしても、核心を聞くまで帰れない。

そう思ったアスドーラは、さらに突っ込んで質問した。


「知り合いなんです?」


「んまあ、そうだなあ」


「どういう知り合い?」


「……色々とあった仲というか、なんというか」


モゴモゴしすぎて、さっぱりだ。

腹の底を打ち明けるチャンスはいくらでもあったのに。

もはやアスドーラにはお手上げ寸前であったが、言葉が無理ならと行動を起こした。


表情を豊かに使い、催促するような顔つきで騎士を見つめたのだ。


そんなアスドーラに、騎士は困ったように笑顔を浮かべた。

そして、とうとう観念したのかスプーンを置く。


「アイツとも、友だちになってほしいなあ、と思ったんだ」


「どうして?」


「……内緒にしてくれるか?」


「うーん」


「おいおい大丈夫か?」


「うん、頑張るよ」


「……家族がいないんだ。故郷からも離れて、アイツは一人だ。だから、友だちがいたら……って思ったんだ」


「家族、いないんだあ」


「ああ。妹がいたんだが、まあよくある話だ。売り飛ばされてなあ」


「売るって、ジャックが?」


「あ、いや違う。まあそこは色々とあったんだ。色々とあって、妹が売られて、アイツは一人になって……だから、なんとか友だちになってやってほしいなと思っただけだ。

君みたいな良い子が友だちなら、きっと……」


「きっと?」


「……学校も楽しいだろ?」


「うむ、そうだねえ。僕にかかればねえ」


良い子だと言われ、アスドーラはまんざらでもなかった。



「笑えよ!」


見送りに出てくれた店主が手を振りながら、アスドーラに声をかけた。


「ごちそうさまでしたッ!」


アスドーラは店主に礼をすると、騎士にもペコリと頭を下げた。


「ありがとうございます!ご馳走になりました」


「ああ。一応念を押しとくが、さっきのは内緒だぞ?それから……ジャックを頼むな!」


そう言って騎士は帰って行った。


アスドーラの心境に、大きな変化はなかったけれど、騎士の言うことには大いに助けになったようで、帰り道はスタスタと歩く。


寂しいものは寂しい。


だから明日は笑って会おう。

短い人生に、暗い時間は少ない方が良いだろうから。

僕が笑顔にさせなければ。


くよくよしてても仕方がない。

くよくよしちゃうのだったら、別のことて気を紛らわそう。


丁度いい!頼まれ事を解決しようじゃないか。

僕のお悩みをスパッと両断してくれて、お食事の恩義まであるのだ。


「一丁頼まれたッ!」


アスドーラは寮へと向かうのであった。




バタムッ!

乱暴に扉が開かれ、足音荒くジャックへ近づく者がいた。


「僕は知ってるんだ!」


そう言われて面食らっていたジャックだったが、鋭い睨みは健在だ。


「は?」


「一度拐われたことがあるから知ってる!誘拐犯が仲良くしている家を!」


ジャックは本を閉じて体を起こした。

無言のまま睨み続けるが、アスドーラは一歩も引かない。


ノピーはと言えば、部屋の奥の机に向かっていたが、突然騒がしくなり、それどころではなくなった。

椅子を引いて、胡乱な目で二人のやり取りを静観していた。


「ラプタって人拐いが言ってた!貴族の娘が最近来て、まだ生きてるって!」


アスドーラの言葉を聞くと、ジャックはベッドから飛び降りて、胸ぐらを掴み上げた。


「さっきから何の話をしてる」


「妹が売られたんでしょ!助けに行こう!」


ズガンッ!

振り抜いたジャックの拳が頬にめり込み、アスドーラはベッドサイドへと倒れ込む。


静観を決め込んでいたノピーは、慌てて立ち上がった。


「ちょ、ちょっと二人共落ち着いて」


にじり寄るジャックの足を止めようと、肩を掴んだ。けれどまったくもって、意味をなさない。


「ソーチャルめ。喋りやがったなあのクソがッ!」


そう言うと、倒れ込むアスドーラに跨って、胸ぐらを掴み上げた。


「二度と妹のことは――」


つばを飛ばしながら怒鳴るが、アスドーラは言葉を遮る。


「生きてるのに会わないのはバカだ!お前は本当にバカだッ!バカ!」


アスドーラは珍しく声を荒らげる。

だがジャックは怯まない。

むしろ火に油を注いだようで、胸ぐらから手を放すと、両手を拳に変えて振り下ろした。


ガスッガスッ!


ただやられるアスドーラではない。

3発目の拳を掴み、流れで振り下ろされた4発目も掴んだ。


あの重たい石材を素手で運ぶアスドーラだ。

必死に引き抜こうとするジャックの力など、及ぶべくもない。


互いに睨み合う中、ノピーは涙目で「やめてよー」と言うのだが、届くはずもなく。


両者膠着する中、ジャックが叫んだ。


「妹は死んだんだ!」


するとアスドーラも、負けじと叫び返す。


「意地を張るなよバカ!本当は会いたいんだろ!今から探しに行くんだッ!」


これだけ騒げば、他の部屋にも響くのは当然で、部屋を覗き込む野次馬まで現れ始める。


「もう止めようよ。どこに行く気か分からないけど、とにかく落ち着いて。明日じっくり話し合おう。ね?」


ノピーはそう言ったが、アスドーラは怪訝な表情を浮かべた。


「何言ってるの!ノピーも行くんだよ!『転移コンコルタ!』」


アスドーラが転移先として指定したのは、ネネと一緒に売られた、あの豪華な家のエントランスだった……のだが。

明かりがなく、辺りは真っ暗で何も見えない。


「……どこだよ、ここ」


狼狽えたジャックの声が、不気味に響く。


「いい加減離れてッ!探ぐぁ――」


「黙れバカ。ここはどこだ?」


加減なく大きな声を出すアスドーラの口を、ジャックの手が塞いだ。

努めて小さな声で尋ねると、アスドーラも小声で答える。


「だから言ったじゃん。誘拐犯が仲良くしてる家だって」


「仲良くしてる……意味不明だが、取り敢えず静かにしろ。バレちゃマズイだろ」


「……あ、そっか」


至極真っ当な指摘に、アスドーラは素直に納得した。

ジャックも喧嘩どころではなくなり、手を振り払って立ち上がった。


人気ひとけが無い。少し探ってみるから静かにしてね」


ノピーはそう言うと呪文を唱えた。


全ての音を拾えヴェンオムニノスフェレント


薄い魔力がノピーの耳にへばりつき、この屋敷全体の音が流れ込む。


スッと目を閉じて、さらに耳を傾けて暫く。


魔力がふっと消えた。


「誰もいないみたいだよ。『光よルクス』」


ポワッと現れた光の玉は、ふわりふわりと漂う。

そしてノピーの視線の先を照らし出す。


それに倣って二人も明かりをつけた。


光よルクス


『……光よルクス!』


アスドーラは見様見真似で、初めての口頭式を唱えた。魔法がちゃんと発動して少しだけはにかむが、ジャックの視線を察知して、すんっと真顔に戻る。


「……金持ちの家だな。お前が言いたかったのは、要するに顧客ってことだな?」


ジャックはエントランスを見回して「仲良くしてる」の意味をなんとなく思いつき、アスドーラへと尋ねた。


「そうだよ!そうそう顧客!」


「……なるほどな」


場違いにも嬉しそうにするアスドーラから視線を逸らすと、ちょうどそこに何かを見つけたようだ。


「これは、足跡だ」


屈み込むと、輪郭をなぞるように指を滑らせる。

ぐるりとなぞってみても、すぐに一周できるほどに、小さな足跡。

それが点々と続いていたのだ。


ジャラリ!


重たい音が響く。

ノピーは引き攣った顔で、金属の手枷を揺らしていた。


「……初めて見たよ。手枷だ」


「あ!それ僕もつけたなあ。確か、こっちには牢屋があるんだあ。大した事ないけどねえ」


アスドーラは、懐かしい故郷の風景でも語るように、地下へ続く扉を開けてみせた。


「……本当だったんだ」


嘘とは思っていなかった。

けれど現実味がないのも事実で、心のどこかに「まさか」という3文字があった。


(アスドーラ君……無理してるんだね)


だがどうだろう。

トラウマになるはずの体験を、こんなにも朗らかに語る者がいるのだろうか。

それが逆に、ノピーの心を締め付けたようだ。

雰囲気を悪くしないよう、繕っているのだと。


互いにキラキラした視線を交錯させる中、ジャックはひとり階段を上っていた。


「ど、どこ行くの?3人でいようよ」


ノピーがそう言うと、ジャックは睨みながら言葉を返す。


「誰もいねえんだろ?」


するとノピーは、首を大きく振って手枷をぶん投げた。


「みんなでまとまっててくれないと怖いんだよッ!」


ノピーはキレた。

どうやら精神的な水かさが最高潮まで達していたらしい。

突然の大喧嘩、突然の誘拐体験談、突然の転移に、突然の暗闇。

手枷も不気味だし、地下へ続く階段も薄気味悪い。

全部が全部丁寧に処理したいことなのに、一気に押し寄せてしまったから、もう満タンになっていた。


いつも温厚で、内向的なノピーがキレた。

それを茶化すほど、二人もバカじゃない。

ノピーの気持ちを汲み取って大人しく従った。


3人寄り添いあって、階段を上る。

出てきたのは左右に広がる廊下であった。


見覚えのあるアスドーラは、また思い出を語る。


「あっちは寝室だったねえ。ネネと交尾しようとしてたから、おちんちんをちょん切ったんだあ」


「アスドーラ君……大変だったんだね」


「……じゃあこっち行こうぜ」


広々とした暗い屋敷。

転がっていた手枷と、地下牢への階段。

そして小さな足跡と、ちょん切られたブツ。


ノピーがキレた理由が、ようやく分かってきたジャック。

行こうぜと言った手前、先頭を歩くわけだが、背後に二人がいるかチラチラ見ながら先へ進んだ。


そうして部屋へ入ると、皆で捜査を始める。


「慌てて出てったみたいだ。書類も帳簿も……高そうなお酒も、たくさん手がかりが残されてるね」


意外にも、ノピーは進んで捜査に取り組む。

引き出しを乱暴に開けては、戸棚をバタムッと閉めたり。椅子を引いては、机の下に潜り込み、何やら探し回ってみたりと、誰よりも自在に動き回っていた。


「ほぉお」


ノピーに負けず劣らず、ジャックも気合を入れて捜査を続けていたが、アスドーラに関しては、もはや田舎から上京したての芋小僧で、見つけた物にいちいち興奮して、役に立ちそうもない。


「あっ!」


声を上げたノピーは、丁寧に綴られた書類からジャックに視線を滑らせた。


「ジャック君の家族名は?」


「……デラベルク」


「見て!」


部屋の反対側にいたジャックへ駆け寄り、強引に書類を手渡した。


苦い顔で書類を受け取り、促されるまま目を通すと、ジャックの表情はみるみる変わっていく。


「どうしたの?」


アスドーラも書類を覗き込むが、文字が読めない。そこでジャックに尋ねたのだが、彼には答える余裕がなさそうだ。


唇を噛み締めて、穴が空くほど書類を見つめて、間違いないがないかと何度も確認する。


事細かに記載された、個人情報。

身長体重、年齢性別、出身地や身分、そして……諸々のこと。

その中にあった。

ジャックと同じ家族名の、女の子の名前が。

まさにジャックの妹である。


ジャックは、ようやく本気になった。

まさかそんなわけはないと、アスドーラを疑いながら捜査をしていたが、もうハッキリした。


間違いなく、この屋敷の者が妹を買った。


であれば、もしかするかもしれない。

アスドーラの言葉をすべて信じるならば……。

「貴族の娘が最近来て、まだ生きてるって」


生きている。


書類からノピーへ視線を向け、静かに頷いた。


「ほらね!早く手掛かりを探そう!」


アスドーラの一声で、捜査が再開されるのだが、すぐにノピーから集合の合図が掛かった。


「図案作成費だとか建材費だとか書かれているから、建築工事の内訳明細書だと思うんだ。

これだけの大きい金額が動いているなら、間違いなくギルドが絡んでる。情報を開示してもらうよう交渉に行くっていうのはどうかな?」


「闇雲に手がかりを探すよりも、そっちのほうが早そうだな」


ノピーの提案にジャックが賛同すると、アスドーラは親指を立てて言った。


「それなら行こうッ!『転移コンコルタ』」


早速ギルドの前へ転移した一行。

夜も更けて暗い時間だが、ギルドは明るく周囲を照らしている。


「よぉし!」


アスドーラは意気揚々と歩き出すが、ジャックの視線が突き刺さって耐えられなくなる。


「なに?また文句?」


するとジャックは、遠慮気味に尋ねた。


「いや、お前、大丈夫なのか?」


「……うん。なにが?」


「転移の魔法は相当な魔力を使うって話だ。だから普通は、刻印術で転移するのが一般的だと、本で読んだ……けど」


ジャックは意見を求めるようにノピーに視線を移した。


ノピーは気後れしながら、モゴモゴと答える。


「そ、そうだね。空間魔法の上位に分類されてるぐらいだから、ね」


チラチラと挙動不審な視線が向けられて、アスドーラもなんとなく察した。


人前でポンポン使っていいヤツじゃないんだ――。


アスドーラはさっと目を逸らした。


自然と無言になる3人。


先頭を行くアスドーラの背中を追って、ジャックは目を細めていたが、結局何も言うことはなかった。


夜のギルドは閑散としていた。

そのせいか受付に座るのは一人だけで、暇そうにしている。


「こんにちはッ!この建物知ってますか!?」


アスドーラは明細書を手渡し直球で尋ねると、受付の男性は明細書とアスドーラを交互に見やる。


「これはどこから?」


明らかに警戒されているようで、キリッとした疑いの目がアスドーラに焦点を絞った。


すると、アスドーラを押しのけて割り込む者があった。


「……パウペリス家だ。多くは語れないが、察しはつくだろ?」


パウペリス家――。

ラハールの町で生まれた新興の貴族であり、爵位は男爵。

清廉潔白、質実剛健で名高い家であった。


受付の男は、矯めつ眇めつジャックの全身を見やると、ひとつ頷いた。


「ふむ、少々お待ちを」


そう言い残して裏に引っ込むと、1枚の書類を手に戻ってきた。


「中央区入ってすぐにある、建設中の新築家屋の明細でした。

スクムという男からの依頼のようですね」


「居場所は?」


「中央区の……セントラルグランドホテル。今日からそちらに泊まると聞いております」


「そうか助かる」


踵を返しスタスタとギルドを去っていく一行。

背後からの視線にヒヤヒヤしたが、特に呼び止められることもなく、煌々とした中央区へと入った。


「場所分かるの?」


「ああ、何度か泊まったこともある」


ジャックの案内で、一行は民家の陰に隠れていた。

チラリと顔を覗かせると、煌めく建築物がデンとそびえ、アスドーラとノピーは度肝を抜かれる。


ちなみに、一行が隠れている民家も、2区や3区の民家とは比べ物にならない邸宅で、商業ギルドのような佇まいである。


「あ、あそこにいるんだね」


「スクムめえ。お金持ちか」


萎縮するノピーと嫉妬にかられるアスドーラ。

その背後では、ジャックが冷静に状況を見極めていた。


「お前らありがとな。帰り道は分かるだろ?」


セントラルグランドホテルの前には、常駐のボーイが4名と馬車の世話係が2名。

入口の前には、身綺麗にした冒険が直立している。


どうやったって、子ども3人が呑気に入っていける雰囲気じゃない。


ならば……。

自分一人で裏口から侵入できないか。

最悪捕まっても、ただのイタズラで済むだろう。


それに、コイツらに迷惑は掛けたくない。


ジャックは極まった決意で、民家の影から飛び出そうとした。


隠ぷアディルタティ……ごぉぇ』


だがしかし、そうは問屋が卸さない。

首根っこを引っ掴まれ、ジャックはバランスを崩した。


「帰るわけないよ!こんなにワクワクするんだから、僕も行くッ!」


「……僕も行くよジャック君。ワ、ワクワクはしてないよ?ただ3人で行った方が、成功しやすいでしょ?」


ジャックは、二人を見上げてため息をつく。


家族の問題に他人を巻き込むはずがないだろう。

何かあったら責任を取れない。だから頼る気はない。

俺はひとりでやらなきゃならねえんだ。


もうこれ以上、恨みたくないから。


「帰れ。戦えない足手まといは困――」


「しっ!」


アスドーラがジャックの口を塞ぐ。


ピカッ!


どうやら、ジャックを引きずり倒した音が響いたらしく、ホテルの方から光が伸びた。


「すみません、見てきてもらっていいですか?」


「んああ。仕事だからなぁ」


ボーイの頼みを受けて、入口前にいた冒険者は、アスドーラたちが隠れる民家の影へと迫る。



ザッザッ――。


足音は着実に近づく。さらには警告のおまけまでつけて。


「今出てきたら無傷で帰すぞー、さっさと出てこーい」


窮地に追い込まれたアスドーラたちは、必死に息を殺し難が過ぎ去るのを待つが、どうにもその予兆はない。


ザッザッ――。


「おーい」


一歩また一歩。


そうしてついに、民家の陰に手が伸びた。






――――作者より――――

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