ラブソングに居場所がない

 ラブソングに居場所がない。

 誰と付き合った、とかあの人との別れがこんなにも辛いとか、二人でいることの幸せみたいな、ささやかでありふれた情景みたいなものへの馴染みが全くない。

 というのも、私はそれに近しい感情を味わったことはあれどこと「恋愛」というラベリングされた出来事には、悉く縁がなかったからだ。ほんの些細なきっかけで友人と仲違いした、とか友人と過ごす時間の幸福なんかは理解できる。私は自分を愛を知らない人間だとは思わないし、それなりに感情に振り回される日々を送っている。

 恋愛を知らない人間は冷たいとか、人間的な欠陥を抱えているとか、何か過去に酷いトラウマがあって『できなくなって』しまった、とかまだ出会っていないだけとか、その手の話は飽きるほど聞いてきた。

 まだ出会っていないから、という言葉はまさしく悪魔の証明だ。悪魔がいないことを証明する術はなく、私は『恋愛感情がない』ことを証明し続けることを強いられている。死ぬまで、そう言われ続けるのだろう。うんざりする。

 

 ラブソングは私にとって手軽に恋愛を勉強するための教科書みたいなものだった。こういうふうに他者を思ったり、心乱されたり、エモーションに歌われるそれらを、音に乗せて言葉にされたものを、咀嚼するための材料だった。共感する、というよりはこんなものかという確認作業に近かったような気がする。

 私が唯一共感できたのは片思いの曲だけだった。思いが実らない辛さ、思っても報われるとは限らないという事実は、恋愛に限らずさまざまな場面であることだろう。

 残念ながら私は子供の頃思い描いたような大人にはなれていないし、子供の頃はわからなくても大人になれば理解できるのだと思っていたことの半分も理解できないし、納得もしていない。

 大好きなバンドの大好きな曲も、一生他人事で絵空事のままだ。共感と理解からは程遠く、居場所はなくとも、私はそれを好きでいる。

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