数を数える

 朝、目を覚ますと、見知らぬような知ってるような天井が目に入ってきた。黒い鉄製のシャンデリア風シーリングライトと、深緋色のカーテン。壁にはよく分からない呪符みたいなものとか映画のポスターとかが貼られている。

 寝ぼけた頭でぼーっと考えて、ああ、ここはユキちゃんの家だと思い出す。賃貸なのにこんなに魔改造していいのかな、と思うくらいユキちゃんのこだわりの詰まった部屋は、全体的に赤と黒の家具やグッズでまとめられている。

 ほとんど僕の家に入り浸りなんだから、もう引っ越しておいでって言ってるのに、「キヨくんちは狭いし、プライベート空間は大事」と謎のこだわりをそこでも見せる。いや、ほら、だってさあ。そこはもう少し広いところに引っ越せば良くない?

 でもおかしいな。昨日は卒業した大学の先輩と飲みに行ったから、会えないって言ったはずなんだけど。就活とか会社の話とか、社会人としての心構えなんかを聞いてたところまでは覚えている。特に興味ないけど先輩の彼女の話とかもちゃんと聞いてた。

 それになんだかやけにあったかくて、いい匂いがするし、すごく気持ちがいい。と思ったら、僕の腕の中に背中を向けたユキちゃんがすっぽり収まって寝ていた。ありゃ、抱き枕みたいにしてた。ぎゅうぎゅうだ。ユキちゃんは寝ながらちょっと苦しそうに唸っている。

 僕は赤いシーツの中をちらっと覗いてみた。うん、服着てないね。おまけにユキちゃんの白い体中に色んな跡がついている。ユキちゃんは色が白いから、ほくろが結構あるんだけど、そのほくろ一つ一つにしっかり跡が残っているし、首とか肩に歯型とかもついてる。

 僕は青ざめながら昨日の記憶を必死で探る。何があったんだっけ。酒弱いからそんなに飲まなかったはずなんだけど、記憶が飛んでる。怒られるかもしれないけど、ここはユキちゃんが起きるのを待って聞いてみよう。

 と、思った途端、腕の中でユキちゃんがもぞもぞと寝返りを打った。


「あ、おはよ……」


 僕が起きているのに気づいたユキちゃんが、ふにゃっと笑う。機嫌は悪くないみたいだけど、声が掠れて出しづらそう。


「おはよう。あー、えーと、まことに聞きづらいのですが、昨日何があったんですか?」


 何したんだほんとに。確か先輩の彼女の話を聞いていたら、なんだかユキちゃんに会いたくなったところまではぼんやり思い出した。


「昨日、先輩が送ってきて、その後は……ほくろの数を数えてた」


 ユキちゃんはそれだけ言うと、顔も首筋も肩も真っ赤に染めて目を逸らした。ふーん。そっか。そうか。だいたい察した。


「どうもすみませんでした」

「まあ、酔っ払いのキヨくん、可愛かったからいいけど……。あんまり人前で飲まない方がいいよ」


 はい、そうします。それにしても……記憶がないのが悔やまれる。今度はお酒が入ってない時にじっくり数えさせてもらおう。

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