第32話 熱帯の夜
「・・・」
「悪いなリオン!俺らじゃ手に負えない魔物が出て実力者を呼ばなきゃいけなくなってさ」
「・・・」
「そこでリオンの名前があったから知り合いだったしちょうど良いなって思って」
「・・・・・・気か?」
「なんか言ったか?」
「殺す気か?俺をこんな暑いところに呼ぶって」
「え、これくらい普通じゃないか?」
「これが普通ならウィンタリアの雪は全部水に変わってるぞ。暑いのしんどい、休みたい・・・」
「確かにウィンタリアよりずっと暑いもんな!魔物は夜に出てくるしウチで休んでて良いぜ」
「なら夜に呼べよ」
俺は暑さで溶けそうな雪だるまの感情はこんなんだろうなと思っていた。熱砂と商業の領地、サマナ領。シーン王国の商業や貿易を一手担う外交の主要地でもある。俺はインナーとズボンのみのかなり薄手の格好でサマナ領の港町『シルク港』にやってきたが海が見えてここだけ南国だなと同じ国に見えない。
王城並みに豪華なサマナ家の屋敷の中にいるが豪華すぎて落ち着かない。それにウチとは比べ物にならないくらい使用人が多い。こんなに必要なもんなのか?それで下を見てみるときれいな町並みが広がる。少し離れているのに人の声や雑踏が聞こえる。商業と外交の中心でもあるので国外の人も見える。
「どうだリオン、この港はシーン王国の物流なんだぜ。ウィンタリアじゃ見られない景色だろ?」
「そうだな…一面雪景色しかないからここじゃないと見れないな」
「だろ?あ、そういえば依頼の話を詳しく話してなかったよな?」
「そうだな、なるべく種類と場所、どう処理してほしいのか詳しく話してくれ」
俺等は仕事の話となると急に真剣な空気になる。マタラの声色的にかなり被害が出てるみたいだな。
「丁度港町と他の村や街を繋ぐ主要街道の付近、この地図のこの辺りにレットスコーピオンの特殊個体が出たんだ」
「特殊個体?」
レットスコーピオンとは、ゲームでも出てきた鋼のように硬い甲殻を持った体長三メートルの毒蠍だ。そして特殊個体とは稀に生まれる通常の能力に加えて別の何かを持ってる魔物のことを言う。例えば魔法を使ってきたり、翼が刃になってたりなど色々ある。レットスコーピオンの特殊個体ってどんなのだ?
「砂漠に蟻地獄を作ってるみたいなんだ。それがかなり広範囲で何人もの行商人と商品が持ってかれてな。普通の戦士じゃ無理だと思ってたらリオンの名前があったから指名したんだ」
「そういうことか…レットスコーピオンの外殻は魔法を弾くから物理で殴るしか無いんだが、生憎俺の武器が壊れていて魔法と弓しか仕えないんだ」
「え、それかなり不味いんじゃ?」
「本来はな…だが俺も戦士だ。依頼はちゃんと完遂する。レットスコーピオンは普通に殺せばいいのか?」
「おう!商売の邪魔じゃなくなればなんだっていい。それに損害も結構出てるし貿易にも影響してくるからな」
「確かに、この国はサマナ家の貿易や商売によって支えられているしお前もそれを支えてる。同じ後継者なら協力は必要だろ」
俺が言うとマタラは俺の肩を掴んで目を輝かせた。え、急に何だコイツ。
「リオンって頼れる兄ちゃんって感じだな!」
「は?」
「俺さ、弟と妹しかいないからなんか兄ちゃんとか憧れるんだよな〜。四大公爵家だから友達もいないし。サマナってだけでめっちゃ暗殺されそうにもなるし。リオンって友達みたいな兄ちゃんって感じでほんとに頼りになるよな!」
友達みたいな兄ちゃんか…俺は少しだけ驚いたが悪くないと思ってマタラの頭を撫でた。
「リオン?」
「お前と同い年の弟によくやってとねだられるからやってみたけど、嫌だったか?」
「いや、なんというか本当に兄ちゃんって感じだな。これから兄ちゃんって呼んでも良いか?」
「呼ぶな、俺の弟はテオだけだ。ただ、何か褒めて欲しいことがあれば褒めてやる」
俺は雑に撫ででマタラの髪の毛をぐちゃぐちゃにしてから手を離した。
「さて、どう殺すか・・・」
思考は既に魔物を殺す算段を立てることに集中していた。
◆
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夜、日中の暑さが嘘の様に冷え切っていてウィンタリアよりかはまだ温かいが風が冷たく感じる。今日は満月のため月明かりが砂漠を照らしておりかなり明るく上からでも討伐対象がよく見えた。
「デカいな、五メートルくらいあるぞ」
「実際に見るとデカいなぁ、いつもあんなの相手にしてんのか?」
「そんなもんだが、もっと強い魔物の討伐もある。・・・でもあれらより強い人間の化け物とはいつも戦ってるな」
「えー・・・」
マタラが引いてるが人間の化け物って言ってるのはグラキエスのことを言っている。正直、今でも勝てるイメージが湧かないし俺だって強くなってるはずなのにいつもその上にいる。本当に、届かないと思うと悔しい。
だから、俺は俺の独壇場で実力を上げるだけだ。
「さて、マタラが魔法の絨毯に乗らせてくれたからできる作戦だ。本来ならもう数日は依頼を受けられないはずなんだけどな」
「ごめんって武器が壊れてるとは思わなかったし」
「まぁ、ちゃんと殺すから安心しろ」
俺が手を前に出すと青い魔法陣が現れて水の玉ができ始める。水の玉はかなり広範囲まで大きくしていく。そして水をサソリの上から降り注がせた。そして背をっていた弓を構えて魔法で氷の矢を三本作り出す。
「さて、どんなもんだろうな」
最大限まで引いた弦を話して矢を放つ。矢は地面とサソリに当たると濡れたところから凍り始めた。これで逃げられない。予備で持ってきていた大剣を握りしめて俺は魔法の絨毯から飛び降りた。
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