第30話 武器職人③

「大体の材料は決まりましたね」


「いやぁ、ここまで高級なものを使うなんて贅沢な坊主だなぁ」


「姉上が調子に乗ったからでしょう。まぁ、ここに全てあるものですからね」


「・・・改めて見ると豪華」



 俺は注文書と必要材料を見ながらかなり引いていた。壊れた両剣に使われていた鈍剛白鉱と追加で純度の高いもの、コカトリスの卵の殻、アダマンタイトゴーレムの核、毒竜林檎の芯、そして竜の鱗。高級品ばっかだ。お値段だけでも普通に泣くぞ。



「さて、あの子のところに向かうよ」


「あの子?」


「リオン殿も一度会いましたよ。オータ家の守護竜でありシーン王国の鍛治を広めたアンフィのところですよ」


「材料の竜の鱗はアンフィのを使うからな!多分いつものところにいるはずだしすぐに行くぞ」



 フェフィーは工房のドアを開けて外に出る。え、上半身サラシのまま行くの?上は着ないの?



「リオン殿、姉上はどこに行くにもあの格好なので気にしないで良いですよ。公爵家と言っても姉上は爵位を放棄したいって口癖の様に言ってる人なんで」


「弟としては?」


「上着くらいはせめて羽織って欲しいですけどすぐに脱ぐので諦めてます」



 なるほど、確かに諦めが肝心な時もあるがジェニエの口ぶりからしてかなり粘ったがどうしようも出来なかったのだろうな。アンフィのところに向かっているとジェニエが話し出した。



「そういえばリオン殿は僕と姉上が似てないって聞きませんよね?」


「似てない?」


「え、今のいままで気づかなかったんかい?」



 俺は2人の顔をよく見てみるが肌の色が違うだけとしか思わなかった。言われてみれば確かに髪色と目の色も違うな。



「言われてみれば」


「本当に気づいてなかったんですか」


「気にしてなかったの方が正しいけど、何かあるのか?」


「坊主は娼館って分かるかい?」


「娼館?ウィンタリアでいう妓楼のことか」


「そうそう、アタシの母親は娼館の娼婦でさ。当主が遊びに来た時に相手して出来たのがアタシなんだよ。だからジェニエとは血は半分しか繋がってないんだよ」


「だから気にしてたのか」


「そうそう、半分はサマナの女性だから肌の色も黒いんだよ」


「僕らが姉弟だと言うと本当かと聞いてくるのが大半でしたから気になってたんです」



 成程、半分しか血が繋がってないしフェフィーは娼婦の娘で・・・いや、別に何もなくね?腹違いでも血は繋がってるしちゃんと姉弟じゃん。



「腹違いでも姉弟は姉弟だろ。俺とテオはエス義兄さんとは一切血の繋がりはないが兄弟だと思ってるが」


「え⁉︎」


「あ、アンタら血繋がってないの⁉︎うっそー、すごい似てるのに」


「エス義兄さんは俺が一才の頃に両親に拾われてウィンタリア家の一員になったんだ。エス義兄さんは確かに家族だけど、あの人はどこか俺等と線引をしてる。それでも俺はちゃんと家族だと思ってるしいつかちゃんと俺の兄として接してほしいとも思ってる」


「……」


「別に娼婦の娘とか、腹違いとか貴族社会でなら結構当たり前だから気にしてない。それに、二人はかなり似てると思うしちゃんと姉弟だとおもうが」


「「え?」」



 二人は目を見合わせて驚いて声を漏らした。本当に俺からしたら武器のことで話し合って熱中していた二人は地の繋がった姉弟なんだなと思った。


 黙ってしまった二人と一緒に目的の場所に向かうと何故かそこだけ雪が積もっていた。え、なんでオータで雪降ってんの?基本的にシーン王国ではその領地が司る季節にしかならないのになんでここが?オータ領の中心だよな?雪の発生源だと思われる方向を見ると氷牙とアンフィが素手で戦っていた。



「何してるんですか!?」


「守護竜同士でバトってんのか、いいね〜」


「……」



 俺はそこら辺に降り積もった雪を手のひらいっぱいにすくい上げて雪玉にする。少し土が混ざってるくらいがちょうどいい。ちょっと茶色い雪玉を狙いを定めて氷牙に向けて投げつけた。



「あむ」


「え?」


「は?」


「狙い通り」



 ここで言っておくと氷牙の好物は氷菓、かき氷やアイスなどが好物で何故かよく雪玉を食べてるのはこれが理由だ。まあ雪玉があれば食いつくことは知っていたので土を混ぜたのは…



「グエエエ!リオン、土を混ぜたな!?」


「好きなものほど毒に気をつけろって教えたのはお前だろ。反射で食べたお前が悪い」


「うっ、さすが我の契約者アル。段々とバレていく」


「よっすアンフィ、ちょっとお願いがあるんだけどさ」


「ん、なに?」


「アンフィの鱗、この坊主の新しい武器に使いたくてね。分けてもらえないかな?」


「鱗?」


「あ、そういえばリオンの壊れた武器を作りに来てたんだったアルね」



 おい、今回の目的忘れてたなコイツ。いや、まぁ氷牙の目的はアンフィに会いに行くことだったし別にいいか。ため息をつきそうになったとき、いつの間にかアンフィが俺の前にいた。


 手を伸ばされたとき、得体のしれない感覚が身体を駆け巡った。俺の中で「警報」が鳴った。咄嗟に手が俺に触れないように後ろに飛び退いた。嫌な汗が頬を伝う。氷牙といい、なんでこうも四季の竜は化け物揃いなんだよ。



「……凄いね、氷牙この子凄い」


「本能的だろうがな」


「リオン殿、何かあったんですか?」


「いや、分からない…けど触られたら危険って思って」


「アタシにもわからなかったけどアンフィがなにかしたって事か?」


「いや、何もしてない。してないけど、死ぬかと思った」



 自分で何言ってるかわからないがそれでもかなりやばいってことだけは分かった。



「…いいね、名前なに?」


「リオン…リオン・ウィンタリアだ」


「ねぇリオン、僕と結婚しない?」


「え?」


「は?」


「マジで?」


「プフッ」

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