第28話 武器職人①
「今日こそはリオンの新しい両剣を作りに向かいましょうか」
「あい」
「楽しみだね兄様」
「また地獄が始まる・・・」
グラキエスに怪我させて三日、かなり回復したグラキエスが早く買いに行こうというので今日はオータ領にいるグラキエスおすすめの武器職人に会いに行くことになった。
「いやぁ、楽しみアルね〜」
「何でお前がいるんだよ氷牙」
「釣れないこと言うなよリオン、我だってたまには遠出したいんだよ。それにアンフィに会いに来いって言われてるからな」
「氷牙、アンフィってオータ家の守護竜の?」
「そうだよ、アンフィは昔から我によく懐いていていてな。そのせいか早く遊びに来ないかって催促状が山の様に来ておって」
「あの紙屑の山って全て手紙でしたのですか。思わず暖炉の燃料にしてやろうかと思っていましたよ」
「グラキエス、お前中々に鬼畜だな?そんなんじゃ女の子にモテないぞ」
「モテなくても結構ですよ、私には弟がいれば十分ですから」
「重いの〜。ま、三人が行くのならついでに我もついてくのもありだと思ってな。それに、オータ領がどうなってるのか気になっておったからの」
氷牙は自分の手から生み出した雪玉をムシャムシャと食べる。雪玉を食べるとかコイツイカれてるよなぁ。
「兄様、領の外に出るのは初めてなので楽しみです」
「そういえばテオは初めてでしたね」
「今日は俺の付き合いだけど楽しめよ」
「はい!オータは武器作りと農作物が有名でしたよね」
「そうですよ、シーン王国で流通している武器や野菜を作っている多くはオータ領産の物が多いですね」
「じゃあ問題だテオ、ウィンタリアがシーン王国に流通させているものは?」
「それは分かりますよ、毛皮や獣肉、骨にと戦士の戦力だよね?」
「正解です、よく勉強してますね」
「えへへ」
「ウィンタリアの土地柄、作物は育たないが他の土地に比べて魔物や動物が多い。過酷な環境で育った人間もそうだが動物も他の土地に比べると明らかに強さが違う。そんな中生きてきた魔物や動物の毛皮や肉は一般のものから高級品までランク分けされる。そして、優秀な戦士はウィンタリア家が管理し、他の領地から魔物討伐の要請があれば戦士を派遣する。テオもウィンタリアの戦士なら覚えておかないといけないことだな」
「うん、やっぱ兄様は頭がいいですね。先生と同じくらい詳しく話してますし」
「脳筋かと思ったら普通に頭もいいですからね」
「あんなクソ重両剣を片手で振り回すガキが脳筋じゃないなんて普通思わないアルよ」
「テオ以外氷漬けをご所望みたいだな」
「ふふ、冗談ですよ」
「ほとんど筋肉出て来てるのは変わらんだろ」
俺は魔法で雪玉を氷牙の顔面目掛けて発射したがよそ見しながらその雪玉を難なくキャッチして食べ始める。ムカつくなぁコイツ・・・!
◆
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しばらく馬車で談笑していたらいつの間にかオータ領に着いていた。目的のところまでは馬車では移動できないのでオータ家が運営している街『リヴィウの街』の入り口で降りた。
流石は秋を司る家、木は紅葉で赤や黄色の葉で埋め尽くされていて建物もレンガ造りの西洋風な建物だ。王都とはまた違う建築様式で景色だけで楽しめる。
「兄様!エス義兄さん!すごい!ウィンタリアの外はこうなってるんだ!」
「落ち着けテオ、興奮するのはわかるが俺らはいちよ貴族だ。周りの目は気にしておけ」
「あ、ごめんなさい兄様」
「少しくらいはしゃいでも構わないですよテオ。リオンが少しお堅いだけですから」
「二人とも、テオが困っておるぞー」
「あはは」
話しながら歩いていると前から見知った顔が歩いて来た。向こうも気づいたのかそのまま近づいて来た。
「アラン王子に呼ばれて以来ですねリオン殿」
「ジェニエか、護衛や従僕もつけずに街で歩いていて平気なのか?」
「ええ、ここは治安がいいところですので護衛をつけずに歩いても問題ないんですよ。もし襲われた時も身代わりになるアイテムも持っているんでね」
「そうか」
「兄様の知り合い?」
「テオは初対面か。オータ家の後継者だ」
「初めまして、ジェニエ・オータと申します。オータのことなら全て知っておりますので何かあればぜひ、僕にお任せください」
「は、初めまして!テオドール・ウィンタリアです!リオン兄様の弟です、よろしくお願いします・・・」
「初めましてですね、シーン王国第一騎士団団長をしております。グラキエス・ウィンタリアと申します」
「テオドール殿とグラキエス団長殿、よろしくお願いいたします。それでリオン殿はどの用でオータ領に?」
「…武器が壊れたから新しく作りに来たんだ」
「武器ですか、因みにどちらまで?」
「フェフィーの鍛冶工房ですよ」
「!姉上の工房ですか…」
え、ジェニエって姉いたのか?また原作に出てないキャラの名前だし、やっぱ完結する前に転生したことが悔やまれるな〜。するとグラキエスが何かに気づいたように話した。
「まぁ、あの方の性格を考えると領地経営や面倒な人間関係は好きではなさそうですし弟に任せるのも納得いきますね」
「よく分かっていらっしゃいますね。僕も姉上の工房に用があったので一緒にいきましょう」
ジェニエも加わり、俺等はそのままフェフィーの工房へと向かった。工房はレンガ造りだが他とは違い平屋で中から金属が金属を叩く音が聞こえる。ジェニエは断りも入れずにドアを思いっきり開けた。
「姉上!お客様ですよ!!!!」
「あーあとちょっとだけ待って。これの形を整えたら相手するから」
「はぁ、こんな人なんで少しお待ち下さい」
いや、原作のお前も大概武器に関しての説明が長くて小説なのにスキップ機能がほしいと言われてるくらい面倒なキャラだったけどな?心のなかでツッコミを入れながら工房の中を見る。剣や両手剣など一般的によく使われているものからボウガン、メイスもある。これだけ見たら武器屋みたいに思える。
「リオン殿、びっくりしましたか?」
「まぁ、こんなにいろいろな種類があるとは思わなかったな。見ただけでも質の良い武器だと思う」
「そこに関しては同意します。ただ、武器のことになると面倒なのは呆れますけど」
いや、将来はお前もこうだぞ?顔と声には出さないように必死になっていると水が蒸発する音がした。熱波を感じる方を向くととてもきれいな刀身が見えた。
「すごいな…」
「お、坊主。気になるか?」
「かなり、ウィンタリアの武器庫でそれなりの武器を見てきたのでその刀身だけでもかなりの価値あるものだと思います」
「いいねいいね」
フェフィーは俺に近づいて見下ろしてくる。オータ領特有の白人っぽい人ではなくサマナ領特有の褐色肌にさらしだけ巻いた上半身と作業着のようなズボンを履いた快活な女性。初めて会うタイプの人だ。
「アタシはフェフィー・オータ、武器を愛する武器職人だよ。よろしく坊主!」
俺の新しい両剣は、この人の手で作られるんだなと改めて実感した。
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