第24話 調査

 本降りになる前に洞窟についた俺らはソリごと洞窟の中に入った。クマゾーにつけていたハーネスを外して5年ぶりに来た洞窟を見回す。あの時と同じ入り口で、多分奥もあまり変わった様子は見られないだろうな。



「リオン、これが氷龍を封印していた封魔氷かい?」


「氷牙が言ってたが、素手で触ると自分でも知らないうちに何かが封印されるから触るなよ」


「分かってる、調査するならちゃんと手袋はつけるよ」



 前みたいに雪崩の心配はないだろうし、あの時上から大量に落ちてきた封魔氷が落ちてくることはないからかなり安全だろうけど。正直、今中がどうなってるか分からない。



「おお洞窟が封魔氷で覆い尽くされてるね、こんなところに封印されてたのか」


「殿下、あまり危険ではないとはいえ無闇に動かないでください」


「・・・・・・」



 俺は先を歩く二人の背中を見ながら隣にいるテオに声をかける。



「怖いか?」


「平気!僕は大丈夫だから早く殿下とエス義兄さんのところ行こう!」


「・・・無理だけはするなよ」




 少し暗い顔をしたテオに声をかけたが大丈夫と言われて前にいる二人を追いかけてしまった。正直、俺はここに来たくはなかった。だけど、一番来たくなかったのはテオだと思う。



「連れてこない方が、良かったかもな」



 そう溢し、俺は追いかけた。



「すごいね、ここ。自然生成らしいけどこんなに封魔氷の純度が高いなんて」


「アラン殿下、楽しそうですね」


「楽しいさ!シーン王国の魔法や魔素はすごい興味深いし、この国の外にある国の魔法や魔素、魔物も僕は気になるんだ。できれば王になる前に外を見て回りたいものだ」


「いいですね、私は応援しますよ」


「ありがとうグラキエス団長」



 二人が封魔氷の調査をしているのを俺は眺めたり、魔術書を読みながら魔術を試したりしていた。テオは今のところクマゾーと遊んでるから大丈夫そうだけど。



「リオン、ここだけ何故か赤い液体があるけど」


「赤い、液体?」


「そう、この氷についてる傷に少し流れ込んでて固まってないんだ」


「そこは…」



 アランが指さした場所は五年前、俺が剣を突き立ててテオとクマゾーを守ったところだ。そして、なんでか固まっておらず液体のままその場に残っているのは間違いなく俺の血だ。


 俺はすぐにテオの方を見た。もし、ここを見たら間違いなくフラッシュバックするかもしれない。テオはすでにこっちを見ており、その表情は見たことないほど真っ青だった。



「に・・・さま」


「テオ!」



 俺は気絶して崩れ落ちるテオを慌てて抱える。やっぱ連れてこなきゃよかった・・・。俺はそのまま洞窟の出入り口まで走ってソリに乗る。持ってきていた毛布に包ませて頭を太腿にのせる。男の膝で申し訳ないが枕になるものがない。テオの頭を撫でて、少しでも楽になればと優しく撫で続けた。



「テオ、ごめん。俺が連れてこなければよかった。あんな怖い思いさせたのに・・・俺は、兄失格だ」



 ただ、俺が生き残ることに必死だった。前はまだ他人のことも考えられる余裕があったけど最近は自分のことばっかだった。


 苦しい、なんで俺がリオンなんだよ。



 転生するならもっと、普通の人が良かった。




「ん・・・にい、さま?」


「テオ⁉︎ごめん、俺が連れてきたばっかに・・・」


「大丈夫、だよ。兄様、お顔見せて」


「いくらでも見ていい」


「ありがとう・・・兄様、目も潰れてないし血まみれじゃない」


「怪我は一切してない、目も魔眼のお陰で見えてるから心配いらない」


「うん、いつもの兄様だ」



 テオは俺の頬を触りながら確認している。五年前、俺の目が潰れて死にかけていたのがフラッシュバックしたみたいだけど、起きてパニックにならなくてよかった。



「ごめんなテオ、俺が連れてきたばっかりに。怖い思いさせたよな」


「うん、兄様が苦しそうに叫んで血を流してなくて安心した。僕、あの時何もできなかったから」


「俺はテオにも助けられたぞ」


「え?」


「あの時俺が迷ってたら失明してたし最悪死んでた。だからテオのお陰で今の俺がいる。だから俺はテオに助けられて今があるんだ。ありがとう、テオ」


「・・・うん!兄様、大好き!僕ずっと大好きだから、離れないでね」


「勿論だ、俺も大好きだぞテオ」



 テオは起き上がって俺に抱きついてきた。俺もテオの体を抱きしめる。大好きって言われて久々に抱きつかれて俺はかなり浮かれていた。


 でも、流石に今日はこれ以上運動させるのは怖いのでソリで二人を待つことにした。



「ねぇ兄様、兄様の体冷たいけどなんで?昔は温かかったけど」


「そうなのか?俺は分からないが多分魔眼の影響だろうな。帰ったら氷牙に聞いてみるか」


「うん!あと兄様、この間魔法の練習にスライムができたんですけど遊びませんか?」


「・・・スライムはピンクの方になる可能性があるからやめておこう。あと今後氷牙の指示がない限りスライムは作るなよ」


「?はーい」



 待っている間、二人で話をする。最近はゆっくり二人で話すことがあまりできなかったけど今日くらいしっかり話しておかないと学園国家ノアに行った時に悲しくなりそうだからできれば今のうちにいろいろと話しておきたい。


 あとスライムはダメだ、触手もダメだ。エロ同人みたいになっちゃうから。精神中学生の俺には厳しいものがある。あと弟がスライムと触手でヌルヌルされる姿なぞ普通に見たくない。もし、そんなことにでもなったら氷漬けにしてやるわ。あと邪な目で見る人間も氷漬けにしたやる・・・。



「兄様、お願いがあるんだけどいい?」


「俺にできることならいいぞ」


「まず、家に帰ったらご飯を食べさせて欲しい。それで一緒にお風呂入って、少しだけ魔術も教えて欲しくて、それでまた一緒のベッドで寝たい!」


「分かった、全部やろう」


「いいの?」


「今日は怖い思いしたもんな、テオがそれで元気になるならな」


「兄様、本当に大好き!僕と結婚して!」


「兄弟は結婚できないぞ。それに、俺は婚約者がいるからもっと無理だ」


「婚約者・・・女狐め、絶対に許さない」


「テオ?女狐なんて言葉どこで知った?」


「氷牙が教えてくれたよ」


「アイツ・・・」



 俺はアイツにあったらテオに変なこと教えるなとキツく言わないとだ。これでテオが暴言ばかり言う大人に成長したら卒倒するぞ、主に俺が。


 テオをまたの間に座らせて二人が戻ってきた後もしばらく話した。


 帰った後もテオの要望に応えて二人でベッドに横になって少しだけ魔法を見せてゆっくりと眠った。

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