第20話 邂逅

「世間話はここまでだ。俺らの使えるべき御人がいらっしゃったぞ」



 俺は魔導書を閉じて、立ち上がって頭を下げて拱手をする。気づいた他の奴らも同様に頭を下げた。全員、それぞれの様式で頭を下げてるので統一感は見られない。



「頭を上げてくれ、公式の場じゃないからそう畏まらずに座ってよ」



 すっと耳に入る透き通るような声。不思議と心地がいい。頭を上げて、言う通りに同じように座ると他も座り始めた。



「まず最初に今日は集まってくれてありがとう、オレはこの王国の第一王子であり王位継承権第一位アラン・シーン=ドラコニアだ。よろしく頼むよオレの賢者たち」



 薄い金糸のような繊細な髪の毛に前世で見た真夏の海みたいな蒼い瞳。


 主人公に初対面から優しく、リオンのストッパーであり良き友人、アラン・シーン=ドラゴニア。直接見るとやっぱ幼いながら風格があるし神聖な雰囲気すら感じられる。原作ではメインヒーローと呼ばれるだけある。


 メイドが淹れる紅茶を飲んでいる姿さえ絵画みたいだ。ここにもイケメンがいる。



「初対面だしやっぱ直接顔と名前を把握したいから自己紹介してくれると嬉しいな」


「では私から、スプリア家長女の緋扇・スプリアと申します。私は生まれつき目が見えないのですが魔力感知が人一倍強いので何が起きてるのか周りを把握することはできますがご迷惑をお掛けするかもしれませんが、何卒宜しくお願いいたします」


「迷惑だなんて思わないよ緋扇、むしろここまで来てくれてありがとう。何かあれば遠慮なく頼ってくれ」


「勿体なきお言葉です」



 緋扇・スプリア、春を司る賢者の子孫でスプリア家の姫。目が生まれつき見えないが魔力感知に長けているので周りを把握することができる。魔法や呪術に関してはトップレベル。ゲーム版では魔法での遠距離攻撃や呪術によるデバフはお手のものだったが近距離に打たれ弱かったな。


 スプリア家の先祖は日本をモデルにした島国たである「櫻魔帝国」出身らしいのでスプリア領には日本家屋が沢山あったり、私服が着物である。



「あー春から始まったなら順番的に俺か。俺はサマナ家嫡男のマタラ・サマナ!殿下のためならいくらでも金は用意するし欲しいものがあればなんでも取り寄せるからな!」


「ははっ、そこまでしなくてもいいよ。よろしく頼むマタラ」



 次にマタラ・サマナ、サマナ家の嫡男で親しみやすいがこの世の中は金で解決できると思っている御曹司でシーン王国の商売の中枢を担っているサマナ家の商売の半分はマタラの助言が大きいと言われるくらい商売上手。戦闘こそあまり得意とは言えないが状態異常に強く、バッファーとしても優秀。


 あとちょっとだけ俺苦手かもな。最初っから馴れ馴れしいし、慣れたらなんとも思わなくなるけど今は慣れない。



「僕はオータ家現当主、ポッセ・オータの息子のジェニエ・オータと申します。アラン王子の為とあれば、食材から家具、武器まで最高位の職人に作らせますので何なりとお申し付けください」


「宜しくジェニエ。城の家具は全てオータ領産のでや本当に使いやすいよ。それに食材もとてもいいものだし、城の使用人や王族もオータ領にはとても感謝してる」


「そ、そこまで言われるとは・・・とても光栄でございます」



 最後にオータ家嫡男のジェニエ・オータ。工業と農業を全て担うオータ領はウチのウィンタリア領も戦士の武器や食糧なのでかなりお世話になっている。ジェニエ自身も武器造りの天賦に恵まれていてかなり高品質な武器を作ってくれる。戦闘こそ参加しないがゲームでは武器を使ったり鉱石採掘にはもってこいの人物だったな。



 そんなことを考えていたが最後は俺になってしまったので自己紹介をする。最近はリオンみたいに話すのも板についてきた。



「お初目お目にかかります殿下、ウィンタリア家のリオン・ウィンタリアと申します。ウィンタリア家次期当主としてではなく、一人のウィンタリアの戦士として殿下の剣となり盾となることを誓います」



 自分で言ってて恥ずかしいけど、でもこれもまた俺の平穏な生活のため。アランとはなるべく密接な関係を作っておいてもし冤罪をかけられた時の後ろ盾になってもらう。悪く思うなよアラン!俺は死にたくないんだ!



「実力は王城にも届いてるよリオン。あのグラキエス団長が一番弟子と認めてるくらいだからね」


「ありがたいですが、まだまだ義兄さ・・・師匠には及びません」


「なら、これからもっと強くなる可能性があるってことだ。期待してるよ」



 アランの言葉にはい、と短く返事をする。もう終わりであって欲しいんだけどな。そろそろ、暑さでバテる。



「僕、みんなで集まれたら言おうとしていたことがあるんだ」


「なんでしょうかアラン王子?」


「近い未来、竜の巫女が現れるかもしれない」


「巫女様が?」


「それ本当か殿下!?」


「ああ、城専属のまじない師が占った結果だよ。まだ一部の王族とその関係者、あと聞かされているのは四大公爵家の当主たちくらいだよ」


「竜の巫女…」



 へぇ、数年後に竜の巫女が現れるってのはこのときに周知させていたのか。


 俺よ、ひとまずこの世界について確認してみよう。ラノベ「竜の巫女と平和の鐘」は突然シーン王国に召喚された主人公が竜の巫女として特別な竜を見つけるまでの物語だ。まだ絶賛連載中で俺も最後はどうなったかは全然知らないからなんとも言えない。とりあえず俺が知っていることをまとめる。竜の巫女は、特別な竜と意思疎通ができる力を持った少女のことを言う。その特別な竜は原作でも実際は出てきてないが描写はされている最後の一体「聖竜ルクス」。氷牙と違って完全に姿を消した竜だ。竜の巫女は夢の中でルクスと会話をできるのだ。


 夢の中で会話…?



「椿と同じ……」


「どうしたのリオン?」


「申し訳ありません殿下、ただの独り言です」



 しまった、声に出してしまった。よく考えたら椿もルクスも夢の中で出会って、会話している。竜の巫女も自分の意志でルクスと会話できていたわけじゃない。そうなると、ルクスは椿と同じで夢境の中で生きている?


 俺は少し息を吐いて紅茶を飲む。一つ、謎が溶けた。謎は解けてもまた一つ謎が増えたが。




 これ、結構長い道のりじゃね?てかこの集まりも早く終われよ!

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