第19話 王都

「あっつ・・・」



 カーテンを閉めた暗い馬車の中、俺は寝そべりながら暑さで溶けていた。


 12歳にして俺は初めてウィンタリア領を出て、王都に来ていた。



 いや暑いな!なんだここ!



 何故王都に来ているのか、事の発端は一枚の手紙からだった。



「は?王城に招集?」


「10才になった四大公爵家の後継者が王位継承権第一位に呼びだされる。俺もお前くらいの頃に現国王に呼び出された」


「俺12歳だけど」


「細かくは、後継者が全員10歳以上になったらって意味だ。確かサマナ家の嫡男が先日10歳になったからな」


「そういうこと・・・これって強制?」


「つべこべ言わず行ってこい」



 という感じだ。それで初めてウィンタリア領から王都にやってきたのだが・・・暑すぎる。一年中寒いところにいたせいかそこまで気温が高くなくても俺にとっては暑く感じる。今日の正装、羽織の下がノースリーブタイプで良かった。いつものだったら多分原型を留めていなかった。


 扱い慣れた氷源の魔眼で氷を生成して口に放り込んではクールダウンをして馬車の中から外を見る。


 ゲームでも王都は探索したけど、転生してこうして直接見るほうが賑やかさがかなり伝わってくる。その中でも、あるところに目が止まった。



「じいや、止まってくれ」


「どうかしましたか?」


「買いたいものを見つけた」



 俺は馬車から降りて、一直線に目的のところに向かう。


 出店でアクセサリーを売っているのだ。リオンになったからには多少自分好みのアクセサリーとか付けてみたかったんだよな。どれも似合いそうだし。



「おや、ウィンタリア領の人か。いらっしゃい」


「店主、少し見させてもらう」



 俺は断りを入れてアクセサリーを見る。それぞれの領で作られたであろうアクセサリー見ては久々の買い物で結構楽しい。色々見て一つ、気に入ったものを手に持った。



「これをいただきたい」


「おや、そんな地味なのでいいのですか?その装い、貴族でもかなり高貴なご身分では?」


「俺は地味でもデザインや形が好みであればそれを買う。いくらだ」


「銀貨2枚と銅貨1枚になります」



 俺は皮袋から銀貨と銅貨を取り出して店主の手にのせる。まいど、という声を背に馬車に再び乗り込む。


 俺は台紙から買ってきたピアスを取り外して、ちょっと前に開けたピアスホールにつける。


 ピアスはシンプルなシルバーの円柱に斜めに模様が入ってるものを選んだ。俺は御者台煮で馬を操っているじいやに声をかける。



「じいや、さっき買ったピアスを付けてみたがどうだ?」


「おや、随分似合っておりますぞ。しかもお坊ちゃまが自ら着飾るとは思いませんでしたな」


「今から殿下や他の公爵家とも会うんだ、多少見た目には気を使わないとだろ」


「ご立派になられて、じいや感激で泣きそうでありますぞ」



 じいやはおよよと言いながら泣き始めた。流石に泣きながらの運転はまずいので、ドアから出て御者台に素早く移動して手綱を奪って馬を止めた。


 およよと泣き始めてしばらく慰めていると、ようやく落ち着いたのか涙を止めたじいやは再び馬を走らせる。俺は馬車の中に戻ったが、日向のせいでせっかく冷えた体がまた熱って溶けた。氷魔法を使ってなんとか体を冷やして城に着くまで大人しく待った。



「それでも暑い・・・」

 ◆



 ◆



 ◆



 ◆



 ◆



 ◆

「お坊っちゃま、城に着きましたぞ」


「行きたくない・・・ウィンタリア領に帰らせろ」


「それは予定を終えてからです。私はこれから買い付けがあるので早く出てください」



 じいやに無理やり馬車から降ろされた俺は遠くなっていく馬車を眺めながら氷魔法と風魔法を組み合わせて冷気を手のひらから出す。あーこの冷たさ、地元を彷彿させるわぁ〜。


 しばらくしてそこそこに体が冷えたので王城に仕えているメイドに案内される。案内されたところは庭園だった。色とりどりの庭園は、白銀しか見たことない俺の目にはかなり新鮮だった。赤・黄・桃・紫・橙をした植物がこうして生えてるのを見るのは、転生してから一度もなかった。



「・・・外に出るのもいいものだな」



 出来ればテオやサティアにも見せてあげたいものだ。帰りに花屋があればそこで花を買って持ち帰るのもありか。だけど育てるのはウィンタリアの環境的に無理があるし花束の方がいいよな。


 よし、帰りに花屋やってもらお。あ、でもいっそのこと屋敷中に花飾りたいしいっぱい買うか。金なら魔物の討伐(報奨金)でいっぱいあるし。使い所もなかったから丁度いいだろ。



 しばらく歩いているとガゼボに人がいるのが見えた。人数は3人、服装から見るに俺以外の四大公爵家の後継者だろうな。俺がガゼボに近づくとへ1人は俺に気づいたのか俺に声をかけてきた。



「あら、ウィンタリア家の人かしら?」


「嗚呼、俺以外は全員いるみたいだな」


「まだ王子が来てないですから全員ではないよ」



 俺は目線だけ少し向けてから空いているところに座った。


 ここでようやく邂逅か、原作の第二部主要人物たち。そして、主人公サイドとしてリオンと敵対することになる3人。


 俺は持ってきた読みかけの魔術書を読みながら3人を観察する。5年で魔法は完璧にマスター出来たから次は魔術を覚えているのだがこれがかなり難しい。大気中の魔素が少しでも使いたい魔術とズレていたら暴発する恐れすらあるらしいからな。今のうちから対策やそうならない様に気をつけなければならない。



「なぁ、ウィンタリアのとこの・・・名前何?」


「リオン・・・あと近いぞ」


「悪りぃ悪りぃ!あ、突然で悪いんだけど今度親父がウィンタリア家の当主と話したいって言ってたんだ!多分ウィンタリア領の特産品の話だから伝えといてくれねぇか?」


「・・・伝えておく」


「助かる!初対面で仕事の話をして悪いな!」


「構わない、仕事の話ならいずれ俺にも関係する話だ」


「へぇ、既に後継者としての自覚があるようですねウィンタリア」


「ご立派ですね」


「世間話はここまでだ。俺らの使えるべき御人がいらっしゃったぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る