第14話 氷龍
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ"あ"あ"あ"」
「兄様!兄様!」
痛い、何がおきた…左目が、見えない、痛い、苦しい、熱い…
「やだ、兄様!血、止まらない…やだ、兄様死なないで!」
「クマァ!!!!」
「なんで、なんで止まらないの!兄様…リオン兄様…」
テオが、泣いてる…苦しい、喉も痛い、息が荒い、まさか、ここで死ぬのか。また、あの日みたいに泣かせた。離れたくないって泣いてたテオが。右目も涙で何も見えない。
「てお、どこ」
「兄様!僕、ここだよ!ここに、いるよぉ…」
テオの手が、俺の手を握る。温かいな…あーでも、もしかしてここで死ぬのか俺?やだな、また早く死ぬのは。でも、しんどい…。
「しにたく、ない」
「なら、我が助けてやろうか?」
「氷、龍?」
「封印が解かれたと思ったら死にかけの童がいたからな、ここで見捨てたら悪夢に出そうだからの。まだ生きたいなら、我と契約しろ」
「契約?なら僕がするから兄様を助けて!」
「んー本来なら願いを叶える人間と契約するのが筋ってもんだけど我は悪魔ではないからな。本人の了承が得られたらの話だが」
「いや、俺で、いい…テオが、まだ…」
俺が守らなきゃいけないのにテオに責任を負わせたくない。だから、俺が。
「やだ!僕が、僕があんな提案しなきゃ…」
「あー最近の人間の絆は硬いの…なら二人で契約すればいいだろ。それくらいなら許すぞ」
「半分こ?ならそれでお願い氷龍!」
「は、テオ、まっ…」
「なら、契約成立だな」
俺の静止は聞き入れられずに契約が決まってしまった。氷龍は俺に近づくと手を俺に近づけた。多分左目を覆われてる。
「封魔氷に目を潰されるとは災難だな。我の力でも流石に再生できんな…仕方ない、新しい目をお前に入れる。ただ、拒絶反応で死ぬほど痛くなるだろうししばらく寝込む。それが嫌なら死ぬだけだがどうする」
氷龍、こんな時まで選択肢を出してくれるなんて。俺の中でもう答えは決まってる。
「死ぬ、のはもう嫌、だ・・・」
「まるで死んだことある様な口ぶりだな。いいだろう、助けてやる」
俺はそこで家屋が無くなった。覚えてるのは、どうしようもないほどの苦痛と、喉が枯れるくらい声を上げたこと、それとテオに握られた左手の暖かさだけだった。
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「・・・体いてぇ」
目が覚めたら俺の部屋で寝ていた。が、体がとてつもなく痛いし左目が見えない。左目が見えないのかデカいが生きてるだけマシかぁ・・・。体を起こして窓の外を見る。どれくらい寝てたんだろう俺。
「兄様?」
「……テオ」
「兄様!?起きたの!?」
「おはよ……」
「うん、おはよぉ兄様!」
テオが抱きついて泣くのをなんとか動かせた手で頭を撫でる。かなり悲しませちゃっただろうな。
「テオ、俺はどれくらい寝てた?」
「2週間も寝てたよ…よかった、もう起きないかと思ってたぁ…」
「心配かけたな…」
「あ、父上と母上とあとじいやとかにも起きたって言わなきゃ!」
テオは勢いよく離れて走って部屋から出ていった。
そのあと起きたことを知った両親やじいや、あとあの洞窟の調査に行っていたグラキエスもやってきてかなり騒ぎになってしまった。騒ぎも落ち着いた頃、父上にあのことを聞いた。
「父上、氷龍…氷牙はどこにいますか?」
「!……連れて来る」
父上は見たこともないような険しい表情をして部屋から出ていく。よく周りを見ていると俺以外全員険しかったり困っていたりしていた。最初は理由がわからなかったが氷牙を連れてきたことにより俺は更に混乱を極めた。
「やぁ、童」
「!父上、なんで氷牙が拘束されているんですか!?」
「…お前を傷つけたことが原因だ」
「は?俺の目が潰れたからですか?それとも、2週間も目覚めなかったからですか?」
「…リオンそんな声を出すとまた」
「母上は黙ってろ!!」
「っ!」
「父上、氷牙は命の恩人です。俺の目が潰れたのは完全に事故で俺の不注意でもあります。それに俺は、氷牙に謝罪をしなくてはいけないんです!!」
「謝罪…?」
「へぇ、謝罪ね」
「エス義兄さん、書庫のある棚の奥にある本を持ってきてほしいんですけど」
「書庫?いいですけど」
「書庫に入って右の一番奥の棚の下から2段目にある古い本で色は黒いです。表紙に氷龍についてと書かれてる本があるのでそれを持ってきてください」
「分かりました、すぐに持ってきますね」
グラキエスが部屋から出ていくのを見てから再び氷牙の方を向いた。幸いにも拷問をされたような跡はついていなかった。俺はまだ動けないので頭だけ下げる。
「改めてリオン・ウィンタリアと申します。氷牙、先祖が大変失礼なことをし、さらに封印をしたことを代表して謝罪します。申し訳ありませんでした」
「なっ、リオン!?」
「…なかなか出来た子だなディンの子孫」
氷龍は自らの力を使って拘束を壊して、俺の顎を掴んで目を合わせてくる。顎クイだけど見た目は男同士だし別にキュンとはならない。
「それにしても、何故謝罪を?」
「ディン・ウィンタリアが貴方を封印したことを酷く後悔していたこと、そして謝罪したかったと書いてありました」
「ディンが!ほぉ、してその書かれていたものは?」
「リオン、持ってきましたよ」
タイミングよくグラキエスが本を持ってきたのでそれを受け取ってディンの後悔が書かれているページを開いて氷牙に見せる。氷牙はそれを受け取ると本を読み始めた。
しばらくして氷牙は本を閉じて俺の方を向いた。
「ははっ、リオンと言ったな」
「はい」
「その謝罪、受け入れよう」
「本当、ですか?」
「嗚呼勿論、最初はこの家ごとぶっ壊そうと思っていだがな。気が変わった、それにあのディンが後悔してるなんてとても愉快だし!最後の顔なんて自ら封印したくせに……それも、遠い昔のようだけどな」
父上と母上もディンの後悔が綴られた本を読んで氷牙に無礼を働いたことを謝罪した。それも氷牙は許した。
「さて、改めてウィンタリア家の守護龍である氷龍の氷牙だ。封魔氷に封印されていて記憶がかなりぶっ飛んでおるがこれからはそこのリオンとテオ?と契約したからには色々やるからよろしくな」
氷牙は目を狐のように細めて笑った。
こうして1年前から計画していた氷龍の封印を解くこと、そしてテオを雪崩から救うことも達成できた。
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