第13話 封印

「いたたた・・・兄様大丈夫?」


「クマァ・・・」


「クマゾーも大丈夫?」


「クマ!」


「良かった・・・でも兄様起きないね」


「ん、起きてる・・・」


「兄様!怪我はない⁉︎」


「頭を少し打っただけだから心配するな」



 雪崩から間一髪で逃れた俺等は門で閉ざされていた洞窟にいる。俺は逃げるときに壁に打ち付けた額を抑えながら起き上がって落ちている両剣を背負う。



「に、兄様頭から血が!」


「クマァァ!」


「少し切っただけだしもう止まってる」



 テオが腰に抱きついてくる。どうにか、雪崩で死ぬことは回避できた。そのことだけで目頭が熱くなる。俺はテオを抱きしめた、ちょっと柄じゃないけどそれくらい嬉しかった。原作で、テオが死ぬ未来を変えれたことが。



「兄様?苦しい、です」


「良かった・・・守れた」


「兄、様・・・?」


「いや、怪我がないようで安心した。それに、ここは」



 周りを見ると洞窟の中にクリスタルみたいな氷の様なものが発光していて明るい。入り口は完全に雪で閉ざされていてここから出るのも難しいだろな。掘れるには掘れるけど。


 反対を向けば洞窟が奥に続いている。奥に進む価値はあるか。



「ここにいてもしょうがないから奥に進むぞ」


「行くの?」


「こっちからの脱出は一旦諦める。奥の方から風が流れ込んでくるのを感じるから外に繋がるかもしれないからな」


「クマッ!」


「クマゾーは何か起きたらテオを守ってくれ。できるか?」


「クマクマ」


「頼んだ、それじゃあ行くぞ」



 俺らは洞窟の奥に向かって歩き始めた。洞窟内にはさっき見た氷の様なクリスタルの様な石みたいなものがそこら中に生成されている。ゲームでも見たことないものだ。


 あれ、待てよ・・・。


 今思い出したけど記憶が蘇って3.4日目に読んだ「氷龍について」にさっきの門が書かれてたよな。それにあの門には、一瞬しか見れなかったけどウィンタリア家の家紋があった気がする。


 それに周りの位置やこの洞窟が門で閉ざされていて、しかもウィンタリアの家紋がある…?



「ここに、氷龍が封印されているのか・・・?」


「氷、龍?」


「クマクマクマ!マァ!」



 あ、そういえばテオは知らないんだったな。氷龍のことは隠されてきたみたいだし。流石にこれから起きるかも知らないことだし話しておくか。



「テオ、王国ができた話や賢者と竜の話は知ってるよな」


「うん、知ってる!ウチのご先祖様の話でしょ?」


「そうだ、四賢者と契約してシーン王国建国に大きく貢献して四大公爵家の守護竜となった竜のことを総称で『四季の龍』と呼ぶ。本来の呼び方は春の龍、夏のティンニーン、秋のドラゴン、冬のロンって言うらしい」


「龙?」


「まぁ、今は置いておいて。テオも知ってるだろうけどスプリア、サマナ、オータにはそれぞれ竜がいるな」


「うん、いるって聞いたことある」


「だけどおかしいだろ、同じ四大公爵家なのにウィンタリアウチにいないのは」


「確かに…でも封印って?」


「…初代賢者、ウチの初代が他の賢者と一緒に氷龍を、氷牙を封印したらしい。契約を無視したから」


「そんな…氷龍かわいそう…」


「だから俺は氷龍の封印を解く。そして、初代が悔やんでいた謝罪の言葉を伝える」


「すごい、かっこいい…僕も兄様と一緒に封印解いてごめんなさいする!」


「そうだな、一緒に謝ろう」


「クマァ〜」



 クマゾーも返事をして一緒に謝ると言ってるように聞こえた。またしばらく歩いていると突き当りにやってきたのか広い空間に出てきた。


 空間はかなり広いのか音が反響してくる。空間には先ほどと比べ物にならないクリスタルが生えている。かなり大きく、この空間を支えているようにも見える。だけどさっきの雪崩のせいなのか少しヒビが入っているのが目に付く。早く氷龍の封印を解いてこの空間から出ていかないとだな。


 俺等はさらに奥に向かって歩いていく。さすがは異世界というのか、本当に現実じゃありえないくらいキレイだなここ。



「兄様、あそこに人いる…」


「人…?いや、人じゃない」



 最奥にそろそろ着くとテオがクリスタルの上の方を指さした。俺もその方向を見ると確かに中学生くらいの人がクリスタルの中で眠っていた。正確には人の形をしているが、耳はとんがってるし、あそこにあるはずのものがない。性器がなかった。それに視力がいいから分かったけど、体の所々に鱗が浮き出てる。



「もしかして、あれが氷龍?」


「クマ!クマ!」


「あ、兄様ここに文字が書かれてる!」


「文字?」



 今度はクマゾーが見つけたのをテオが教えてくれた。舌を向くと確かに文字が彫られている。だけどこの字体は・・・。



「旧国文字だ・・・」



 旧国文字とは、シーン王国建国から1000年前まで使われていた文字のことだ。「氷龍について」の本は今の新国文字で読めていたからあれは魔法か何かがかかっていたから新国文字で読めたのだろう。だけど魔法も何もかかってない旧国文字を読むのは無理だ。



「兄様、僕読めるよ」


「よ、読めるのか?」


「うん、確か兄様がグラキエスと訓練してて暇だった時に書庫でこの文字で書かれた本があったから、旧国文字の辞典見つけて翻訳?してみた!」


「・・・もしかして俺の弟は天才なのか?」


「クーマ」


「えへへ」



 可愛さも兼ね備えてるとか最強だろ俺の弟。マジで天使。ホーンベアーの天才代表のクマゾーも認めてる天才だぞ。流石俺の弟、愛してるわ本当に、こんなリオンスペックに頼ってばかりのバカな兄ちゃんでごめんな。



「じゃあ声に出して読めるか?」


「うん!えっとね、

『始まりの龍、その身を封ずる


 これは、罰であり救済でもある


 汝は氷の祖であり、原初でもある


 雪は全てを隠し自然の闇


 原初の光も隠す闇


 汝、雪を纏いし龍の祖よ


 再び目覚め、その身と力を我に捧げよ』」



 テオが読み終えると氷龍を封じていたクリスタルにヒビが入る。あの本には封印が解ける時に周りに影響はほとんどないって書かれてたけど油断はできない。



「‼︎グルルルル・・・」


「クマゾー⁉︎」


「兄様、なんか全体的に揺れてる⁉︎」


「‼︎封印を解いたからか?いや、上から・・・?雪崩か!」



 タイミングが悪かったのかまた雪崩が起きて山の下にあるこの空間も全体的に揺れていた。それもかなり大きい雪崩みたいだ。本当に不味いな。



「クマゾー!テオを守れ!」


「グマァ‼︎」



 俺は両剣を抜いて落ちてきたクリスタルを凌ぐ。



「刃が欠けた?」



 クリスタルを両剣で弾いただけなのに刃こぼれした。手入れはちゃんとしてるし、専門の人にもよく見てもらってるし門を切った時は綺麗だったのに。それにこの剣はそんなすぐ刃こぼれするような素材でできてるわけじゃないのに。当たったら不味い。


 俺は精一杯クマゾーを含めてクリスタルが当たるのを両剣で凌いでいく。掠っただけで俺の腕や頬に赤い線が出来ていく。本当に不味いな、逃げたいけど後は既に崩れてクリスタルで帰り道が塞がれてる。



 そのときだった



「兄様後ろ!!!!」



 テオの声がして振り向くと、後ろのクリスタルが割れて中から氷龍が出てきた。だけど割れた反動でクリスタルの破片が飛んできた。テオとクマゾーを庇うように両剣を突き立てた。


 テオと、仲良くなったばっかだけどクマゾーを守れれば…。



「兄様!!!!!!!!!」

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