第12話 雪崩
「兄様!こっちです!」
「そんな慌てて走ると転ぶぞ」
「兄様に見せたいところがあるんです!」
背中に両剣を背負いながら雪道を歩く。昨日の社交界デビューは気絶エンドだったが今日はウィンタリアでは珍しく快晴でテオとの約束で領地の絶景スポットに行くということになった。
それにしても、一年でテオも成長したな。しかも2人だけで外に出ることになるなんて。だけど油断出来ない、今日もしかしたら雪崩に遭うかもしれないからだ。それに最近魔物も増えているらしいから念の為両剣を持ってきた。
「ねぇ兄様、こうして2人でいるのって久々だね!」
「確かにそうだな、一緒に寝たり風呂に入ることはあるけど出かけるのは初めてだし」
「僕、昨日お祝い出来なかったから今日楽しみなんだー、それに今から行くところって母上が父上と出会った場所なんだよ!」
「そうか、それは楽しみだな」
テオと手を繋ぎながら歩いていると目の前に額からツノが生えたシロクマが出てきた。
「あ、ホーンベアーだ」
「・・・テオ、俺の後ろに隠れろ」
ホーンベアーはウィンタリア領内ではよく見られる魔物の種類で満腹であればおだやかだが空腹だと食べ物だと認識する生き物は殺して食べる様な残酷な魔物で年に数人はホーンベアーの餌食になっている。
俺は両剣を構えながらホーンベアーと向き合う。
「・・・」
「クマ?」
「兄様、なんかホーンベアーの顔可愛いね?」
「それは俺も思ったが・・・襲ってこないな、満腹なのか?」
「クマッ」
「あ、近づいてきた」
ホーンベアーはノソノソと俺らに近づいてきた。俺は殺意はなるべく抑えて両剣を構える。ホーンベアーは俺らの目の前で止まると足を伸ばしてその場に座った。
「・・・・・・?」
「兄様、もしかして触ってもいいってことかな?」
「テオ、この世には可愛い顔していても恐ろしい性格をしている生き物がいる。だから・・・」
「わっ、モフモフだ!」
「テオ⁉︎」
「兄様も触りなよ、フワフワだよ!」
「うー・・・その、触ってもいいか?」
「クーマッ」
恐る恐る手を伸ばすと、ホーンベアーが俺の手を掴んで自分の体に触らせてきた。いいのかそれで⁉︎あ、でもフワフワのモフモフだ。
あの、ゲームでも体力が無駄に多かったホーンベアーが今はマスコットみたいに思える。
「・・・よし、お前は今日からクマゾーと呼ぶ」
「クマゾー?かわいいね!」
「クマァ?クマクマァ」
気に入ったのか俺とテオを抱きしめてくる。思いっきり内臓が出るまで締め付けられるかと思ったが丁度いいくらいの力で抱き締められた。やだ、俺の中のモフモフ大好きが爆発しちゃうでしょ!
「クマゾー、これから兄様の誕生日を祝うんだけど一緒に行く?」
「クマ!クママ!」
「ね、兄様!クマゾーも兄様のことお祝いしたいから一緒に連れて行ってもいい?お願い!」
「そうだな、ホーンベアーが人に懐くことなんて滅多に無いし父上と母上もびっくりするだろうから連れて行くか」
「やったー!」
《クマゾーが手持ちに入った!》
はっ、いかんいかん。某モンスターゲームの新しく仲間を手持ちに入れた時のことを思い出してしまった。正直、あれの続きめっちゃやりたい。まだストーリー残ってるのに。
それにしてもクマゾーはなんでこんな可愛い顔してるんだ?原作の設定やゲーム、アニメでもかなり厳つい顔してたのになんでクマゾーだけはこんな「クマッ?」っていう感じの顔してるんだ。それとかなりでかいし2メートルくらいはあるから成体ではあるはずだ。子供ならまだしも成体なら凶暴なはずなのにな。どういうことなんだ?
歩きながらそんなことを考えていると山側の遠くから音が響いて聞こえてきた。
「クマッ⁉︎クママァ‼︎‼︎」
「ど、どうしたのクマゾー⁉︎」
「・・・!クマゾー、テオを背中に乗せてやれるか⁉︎」
「クマ‼︎‼︎」
「え、わぁ!」
「テオ、クマゾーの背にしがみついて絶対落ちないようにしろ!」
「兄様⁉︎何が起きてるの⁉︎」
「雪崩だ!すぐに安全なところに向かうぞ‼︎」
「クマッ」
俺とクマゾーは同時に走り出す。多分クマゾーなら安全な場所を知ってるはず。野生の勘だけど外のことなら外に住んでる魔物について行けばいい。俺はクマゾーとテオのすぐ後ろを走りながら山の方を見る。雪が大量に滑り落ちてくる様子と轟音が。
これが、原作でテオが死ぬことになった原因。絶対にテオは俺が守る!
しばらく必死に走っているとすぐそこまで雪崩が来ていた。
「兄様!あそこの洞窟に門がある!」
「門⁉︎って鍵と鎖がかかって!」
「く、クマぁ‼︎」
「クソ!何か封印されてんのか立ち入り禁止なのかわかんねぇけどぶった斬る!」
背負っていた両剣を掴んで構えた後、グラキエスに教えてもらった構えなんか考えず、ただ力だけ入れて振り下ろした。鎖と鍵だけ斬るつもりが門ごと切れてしまったがそんなことを考えるだけ無駄だと思って洞窟の中に2人と1匹で駆け込んだ。
その後すぐ、俺らのいたところは重量のある雪によって塞がれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます