第11話 誕生会

「おはよう兄様!誕生日おめでとう!」


「おはようテオ、感謝する」



 隣に寝ていたテオが笑顔でおめでとうと抱きついてきた。そういや昨日テオが一緒に寝たいって言ってきて寝たんだっけ。


 俺は起きて伸びをしてからベッドから出る。テオも俺の後に続いてベッドから出る。はぁ、今日かー。



「兄様、今日社交界デビューですね」


「そう言ってもウィンタリア領に住む貴族との会食みたいなものだ。テオはまだだからな」


「僕も兄様のお祝い、したかったです」


「・・・なら明日予定がないからその時に祝えばいい。エス義兄さんも許してくれるだろ」


「うん、なら明日約束ね!」



 本当はテオと過ごしたかったけど、これも貴族としての務めだ。我慢しかなくちゃいけない。



「おはようございますリオンお坊ちゃま、身支度の方を」


「分かった」


「兄様、頑張ってください」


「テオも、いい子にしてるんだぞ」



 じいやと一緒に部屋を出て、身支度をしに行く。正装ではあるもののいつもと違う型の藍色のチャイナ服に袖を通す。チャイナ服の上って確かアオザイって言うとか聞いたことあるな。


 髪を整えられてから軽く化粧をされる。化粧なんて前世でもされたことないから少しむず痒い。



「終わりましたぞ」


「ありがとうじいや、まだ時間ってあるのか?」


「ええ、まだありますがどうなさいましたか?」


「ホットミルクが飲みたいから持ってきてくれるか?」


「承知いたしました、すぐお持ちします」



 じいやが部屋から出ていくのを見てからため息をついた。


 リオンは注目されることや圧力が苦手だ。俺が大丈夫だとしても体の方で拒絶反応が出る。だからかなり緊張している。



「大丈夫、俺は強い・・・」



 拳を握りしめて荒くなる息を整える。じいやが戻ってくる前に何とかしないと。やっぱ緊張さるとダメなんだなぁ・・・。



「お坊ちゃま⁉︎」


「じ、いや・・・」


「もしや体調が・・・すぐに医者を」


「いい!少し、呼吸が荒いだけだ・・・少し落ち着けば治る」


「ですが・・・」


「俺の命令が聞けないのかじいや!」


「も、申し訳ありませんお坊ちゃま」



 息を深く吸って吐いてを繰り返してようやく息が整い始めた。じいやは俺が前みたいに圧力や期待に押し潰されて引きこもらないか心配だろうな。ずっと近くで見てきたから。



「大丈夫ですかお坊ちゃま」


「もう大丈夫だ、心配かけたな」


「いえ・・・お坊ちゃまは昔から人の期待が苦手なのは承知しております」


「確かに俺は人の期待が怖い、失望されるのが怖い。テオやエス義兄さん、父上や母上にじいやにも見捨てられたらと思うと泣きたくなる」


「お坊ちゃま、皆さんその様なことは決してしないと思われます」


「分かってる、分かっているが怖いものは怖い・・・だが俺はもう大丈夫だ」



 俺は立ち上がってまだ湯気が立っているホットミルクを飲む。


 心細くなった時はいつもホットミルクを飲んでたからリオンになって飲んでも落ち着くもんだな。



「もし、俺がまずい状況ならじいやが判断しろ。苦言を言われても俺が許すし説得する。いつも俺を支えてくれたじいやに任せる」



 俺はじいやの顔を見ながら言う。リオンと自覚する前からじいやはずっと俺の側にいて支えてくれた。苦しい時もずっと見守ってくれた。だからじいやのことは信頼している。



「分かりました、リオンお坊ちゃまに何かありましたらわたくしの判断で動かせていただきます」


「頼むよじいや」



 じいやと共に控室から出て広間に向かう。社交界に出て初めて俺は初めてウィンタリア家次期当主リオン・ウィンタリアとして認められる。



「俺はリオンなんだ…悪役だったとしても立ち向かう勇気くらいある」



 俺は父上と母上、そしてウィンタリア領に住む貴族と対面するために大広間に入った。

 ◆



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「リオン、大丈夫…?」


「まだ、大丈夫です…やれます」



 本当は結構キツイ。俺は貴族たち一人ひとりと挨拶しながら頭痛と心臓の痛みをなんとか我慢して挨拶をこなしていた。


 なんとか白湯を飲みながら我慢していた。とにかく、挨拶だけでも終わらせてから退場したい。



「はー…母上あとどれくらいですか」


「あと3組挨拶したら終わりだけど…本当に大丈夫なの?」


「大丈夫です、挨拶が終わったら抜けます…が、なるべく手短にお願いしたいです」


「リオン、無理ならもう抜けていいのだぞ」


「いえ、せめて挨拶だけはやらせてください」



 俺は一気に白湯を飲んで我慢する。あー手の先が冷たいし、少し寒気もする。


 1人、また1人俺を勝手な理想を押し付けていくのが嫌だ。原作のリオンも理想を押し付けられて、努力して、壊れたんだろうな。自分を抑えつけて、気持ちを隠して、辛かっただろうな。


 あーそんな事を考えてたら視界が少しぼやけてきた。それにしてもこのジジイ話長いな…こっちのこと気にしてないだろ。



「挨拶の途中で申し訳ありませんがリオンお坊っちゃまの体調がすぐれないようですのでこれにて失礼させていただきます」


「じいや…」


「まだ挨拶が終わってないので私共の挨拶が終わっておりませんが、それにリオン様ともお話が」


「こんな顔色がすぐれないのにですか?」


「それはリオン様の体調管理不足では…」


「黙れ!リオンを愚弄するなら、我がウィンタリアを侮辱したことにもなるぞ」


「父上…」


「私が許可する、リオンも無理をするな」


「申し訳ありません父上…これにて失礼させていただきます」



 俺はじいやに支えられながら大広間から出た。その瞬間、緊張が一気に抜けたのか体に力が入らず倒れる。



「お坊っちゃま!」


「あり、が、と…じいや」



 俺は激しい頭痛と胸の痛みで気絶した。

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 目が冷めたら自室のベッドで寝ていた。起き上がると外はすでに暗く、時計を見ると19時を回っていた。あー見事に失敗したなー。



「腹減った」



 頭痛も胸の痛みもなくなってるから治ったのか。じいやには申し訳なかったなー…。窓の外を見ていると部屋の戸が開く音がした。



「お目覚めになられましたかリオンお坊っちゃま!」


「今起きた」


「気を失ったときはどうなるかと思いましたが…生きていて良かった…」


「心配かけて本当にごめん、だが体調はもう大丈夫だ。それより腹が減ったから何か食べるものが欲しい」


「・・・体調が悪い時でも食欲があるのは相変わらずですな。すぐに持って参ります」



 じいやはそう言って部屋から出ていった。やっぱ、リオンは人前が苦手なんだな。これは予想に過ぎないけど、リオンは主人公が人前でも堂々としている姿に嫉妬を抱いていたのかもしれないな。こんなの予想なだけだけど。



「明日には回復してないとな〜テオとの約束もあるし」

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