第10話 婚約破棄したい

「雪が冷たい」


「倒れないでください、まだまだ対面形式での動きがなっていません。これではウィンタリアの戦士の名折れですよ」


「分かってる、けど流石に疲れた…」



 両剣を使い始めてから半年が経った。勉強と両剣の訓練、そこに弓の訓練まで加わってかなり多忙を極めていた。弓の方は元々適正があったのかそれともリオンの完璧補正がかかったのか普通に動いてる的にも命中できるくらいうまくなったので今は独学で学んでいる。


 エス義兄さんは元々仕事人間だからかずっと王都に滞在していただけで仕事がないからかずっといる。時々3日だったり1週間家だったり、1ヶ月いないこともあるが笑顔で戻ってきてはこうして稽古をつけてくれる。



「もうすぐ誕生日ですね」


「それ、戦ってるときに、言う、こと、なのか」


「義弟であり弟子でもあるリオンに贈り物を渡したいですからね、欲しいものとかありますか?」


「今、は、無い!」


「そうですか…では私の方で候補を決めてそれをお渡ししますね」


「ガッ!」



 力負けした反動でそのまま後方に飛ばされた、木にぶつかった。頭をぶつけないようにしたけどかなり痛いところに入った。そのままうずくまると足音が聞こえた。顔だけ上げるとグラキエスが俺を見下ろしていた。



「もう立てませんか?」


「まだ、まだやる…」


「うん、いいね。それでいいですよ」



 悪役みたいなセリフ言うなぁ…本来の悪役は俺なのにな、なんか主人公みたいな感じになってるんだろ俺。



 俺は立ち上がって剣を構えた。

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「兄様、おかえり!」


「ただいまテオ…」


「今日は一緒に遊べる?」


「あー…ごめん、今日は父上に呼ばれてるからこのあと行かないとだ…遊び相手がほしいなら俺を甚振ってニコニコ笑ってた体力の有り余ってるエス義兄さんに遊んでもらって…」


「はーい…へぇ〜、兄様のこと甚振ったんだぁ〜。なら僕といーっぱい遊んでよエス義兄さん?」


「ふふふ、そんな子供らしくない顔で私のことを義兄さんと呼ばないでくださいよ。義弟ならもっと可愛い顔して言ってください」


「二人共、仲良くしてくれ……」



 俺はフラフラした足取りで父上の部屋に向かう。あの二人、未だに犬猿の仲だしそろそろ仲良く出来ないかなー。仲裁する俺の身にもなってほしいよ。


 屋敷を歩きながら少し周りを見渡す、半年以上前はかなり寂れた感じだったけど今は家族仲も良好だし、父上も頻繁に戻ってきている、母上の体調も前よりもずっといいしよく薪割りをしている。素手で。「素手」でだ。元々母上は武闘家だったらしく、俺の腕力や握力が強いのも母上の家系に起因しているらしい。父上、基ウィンタリア家は素早かったり魔力が多かったりする特徴があるとか。


 俺は父上の書斎に入ると真剣な顔をした父上とその横に同じく真剣な顔をした母上が立っていた。俺は右手を拳にして左手で包みこむ拱手をする。



「リオン、ただいま参りました」


「早速で悪いがリオン、お前に婚約の話が来ている」


「婚約?」



 原作のリオンには婚約者は存在していないはず?あるとしたらウィンタリア領に住むウチより位が低い貴族か、または四大公爵家の後継者以外の兄弟とかだ。公式設定でそんな事が書かれていたはずだけど…。



「相手は?」


「…シーン王国、王家ドラコニア家の第三王女殿下との婚約だ」


「…お断りしても?」


「頼む!我がウィンタリア家のためにも!」


「嫌です…王族とか荷が重い…」


「リオン、これは名誉なことですよ!相手は王女様なんて夢があるわよ!」


「母上はなんで楽観的なんですか。それに俺は婚約などする気はありません」


「そこを何とか!」


「まずなんで俺が第三王女と?会ったことありませんよね?」


「この人が家族写真をたまたま落として、それを拾った第三王女殿下がリオンに一目惚れしたのよ」


「・・・父上が戦犯でしたか、殴っていいですか?」


「何故すぐに父親を殴ろうとする!」


「リオン、やっていいわよ」


「ユエまで⁉︎」



 流石に今の俺の腕力じゃイケメンな顔が原型を留めてない見れないものになってしまいそうだったので殴らないでおいた。


 しかしな、まさか家族写真を見られて一目惚れとは・・・第三王女ってミーハーなのか?俺としては原作のリオンに婚約者がいないのだからいない方がいいのだが・・・。



「王も俺の息子ならと言って引かなくてな」


「はぁ、なら俺の言う条件を受け入れてくれるなら婚約してもいいです」


「本当か⁉︎」


「本当は嫌だけど・・・一つ、俺が許可するまで会わないこと」


「リオン?」


「二つ、連絡をしない。三つ、世間に公表しない。四つ、婚約破棄したくなったすぐに破棄する。これを守ってくれるなら婚約してもいいです」


「リオン、流石にこれは・・・」


「なら婚約は無しで、俺も暇では無いので」



 俺が退室しようとすると父上の焦った声を出したり、母上の引き止める声が聞こえたが原作のリオンならこれくらい言うだろうな。あと普通に婚約したく無い!独り身で結構!



「分かった!向こうが条件を飲んだら婚約だな⁉︎」


「そうですけど・・・飲めなかったら婚約の話は白紙でお願いしますよ」



 俺はため息をついてから退室した。あー、無駄に疲れたしお腹も減ったからじいやに早めに夕飯出してもらお。それかシェフにおやつを作ってもらうのもありだな。


 途中、まだ喧嘩していたテオとグラキエスに巻き込まれ、俺は空腹で死にそうになりながら2人のいがみ合いを遠い目で眺めた。

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「リオン、この間の話だが婚約が決定した」


「は?」


「え?」


「うっ、げほっげほ!え?今なんて?」


「リオンの婚約が決まった」


「に、に、にに兄様が、どこぞの女と、婚約?ぼ、僕は夢を見てるのですか?」


「今回だけはテオドールに同意見です・・・リオンが、婚約・・・⁉︎」


「なんでテオとエスがそんなショックを受けてるの?」


「父上、俺が言うのもなんですけどあの条件は絶対受け入れないと思って言ったのですけど」


「そうだと思ってはいたが・・・」


「父上!兄様の婚約者って誰なんですか⁉︎野蛮な女ならこの手で・・・」



 なんだろう、5才の弟がすごい変な方向に拗れてる気がする。愛情たっぷり込めて育てたはずなのに、なんでそんなことに。あとで甘やかすか。



「お相手はこの国の第三王女であるフラン・シーン=ドラゴニア王女殿下だ」


「テオドール、諦めなさい。流石の私でもこの剣を抜くことはできない相手です」


「グラキエスも何かするつもりだったのか・・・」


「当たり前でしょう、可愛い義弟がよく分からない女に渡るくらいなら私のお嫁さんにするくらい覚悟はありますよ」


「グラキエス?」


「冗談です」


「貴方の冗談は冗談じゃ無い時があるから怖いのよ」



 なんだこの会話、俺はついていけなくなりながら小籠包みたいな肉の包みを食べる。中の汁が熱くて火傷しそうだけど美味しい。



「話を戻すが、フラン王女殿下が予想外にも諦めの悪い方で条件を飲んだ。なんなら受けて立つとまで言ってる」


「はぁ、根性だけは認めますけど」


「条件を撤廃することは今からでも遅く無いがどうする?」


「しませんよ、俺は婚約したかったわけじゃないし。そのうち飽きますよ」



 そんな感じで俺に婚約者が出来た。直接会ったことない第三王女に一目惚れされての婚約。無理難題を条件にしたのに婚約された俺はその粘り強さに負けることになるとは梅雨知らず、夕食に舌鼓をうっていた。

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