第9話 選定

 基礎体力を作るトレーニングを続けて2ヶ月



「体力も増えて体幹も良くなりましたし、筋肉もかなりついてきました。そろそろ剣術を教えてもいいですね」


「ほ、本当か?」


「ええ、剣を握るのにはその人の土台がしっかりしていないといけませんから。それに扱う剣も剣士が特に使いやすいものを選ばないといけません」



 グラキエスの手に持っていた鍵同士がぶつかり、チャリという音がした。そのままウィンタリア家が所有する武器庫に向かった。


 武器庫はウィンタリア家が所有し、管理をしているところだ。申請をすれば領民の戦士に武器を貸し出すことも可能だ。中には危険な武器や、常人が触ってはいけないような剣も存在する。


 2人でその武器庫の鍵を開けて中に入る。その瞬間、俺は目を見開いた。



 片手剣、大剣、短剣、弓、杖、大鎌、斧、鉄槌とか、見たことない武器もある。ぐるりと見回すと鈍色の鉄の刃だらけだ。



「すごい・・・」


「ウィンタリア領の武器庫は国の中でもかなり大きい方で中には触れちゃいけないものも存在するから下手に動かないでくださいね」


「うん」



 俺はグラキエスの後ろをついて行きながら武器を見る。たまに装飾が煌びやかなものがあるしそれが触ってはいけないものなんだろう。



「ここです」


「剣だ」


「はい、ここには様々な重さや形に異なる材質で作られた剣があります。なので全て試しましょうか」


「え、全て?」


「はい全てです、頑張りましょうねリオン」


「は、はい…」



 こうして、俺に最適な剣を見つけるため一つ一つ持ってみたり試したりするような前世から繰り返し作業が苦手な飽き性の俺にはそこそこ厳しいことが始まった。



「まずは一番軽いものからにしましょうか」


「…軽すぎる」


「取り敢えず自分が思うように振ってみてください」



 俺は言われた通り剣を振ると手に持っていた剣がどこかに消えた。周りを見渡すとグラキエスの首の横、壁に突き刺さっていた。



「あ…」


「どうやら軽すぎたようですね」


「すまないエス義兄さん、次はしっかり握るようにする」


「そうしてください」



 次はそこそこ重量のありそうなものを渡された。しっかりと握って剣を振る。



「・・・」


「エス義兄さん、どうだ?」


「もっと重くしてもいいでしょうね、むしろ軽すぎるくらいです」


「理由は?」


「音ですよ、リオンが剣を振った時の音があまりにも軽すぎるんです。なので重いものでもいいと思ったんです」


「音・・・」



 流石は騎士団長、音だけで判断できるなんて。でもこれ以上重いって大きさも普通の片手剣じゃ無いよな?いや、あるのか?だとしても俺の体で持てるのか?



「ではこちらを持ってください」


「・・・それ、エス義兄さんの剣じゃ?」


「はい、この剣は少し特別製で見た目ほど重くは無いんで片手で持てるんですよ。もしかしたらリオンなら、と思いまして」


「何かあったら、殴るからな」



 俺はグラキエスの差し出してきた黒い大剣を持った。確かに見た目よりかはずっと軽いが重いものは重い。持てるし振れるがさっきの物とは全然違う。すごい、普通にそう思った。



「・・・まだ、軽いですね」


「は?」


「実際、もう少し重くてもいけると思ってますよね?」


「いけるが・・・逆にそんな重くしていいものなのか?」


「むしろ重い方がいいんです」


「え?」


「私が教える流派、『氷砕流』は一つ一つの攻撃に重みがある流派で重い片手剣や両手剣の方がやりやすいんです」


「それで・・・」


「でも、予想以上にリオンの腕力と握力が強いしとりあえず重い武器を持たせて戦わせたい、半分私の好奇心です」


「エス義兄さん・・・」



 俺は少し呆れながらグラキエスに剣を返すとその代わりにさっきのとは違う剣を渡された。持った瞬間、重さでガクンと下に崩れかけた。すぐに腕に力を込めた持ち上げた。でも、さっきよりしっくりくる重さだ。両手で振ってみたり片手で振ってみる。



「・・・」


「これが1番良さそうですね。しかしまさか、この世で1番重い鉱石で作られた両手剣を片手で軽々と振られるとは思いませんでしたけど」


「え?」


「その剣は『鈍剛白鉱』というシーン王国の特に魔素が強いところに製成される鉱物で造られた剣です。リオンの身長くらいの鈍剛白鉱になると平民の家を物理的に潰すことが可能な重さになりますね」


「・・・」


「その剣で岩をぶっ叩けば普通に砕けます。それを片手で持てるリオンもある意味怖いですね」


「もう少し軽いのにしないか?」


「安心してください、別に鈍剛白鉱を使った武器を使ってる騎士や戦士は少なく無いですよ」


「そ、そうか、なら」


「筋骨隆々の脳内まで筋肉で出来てるような人でも両手で振り回していますがね。片手で振り回してる人は見たことないです」



 俺は無言で剣をグラキエスに向けて振るが普通に避けられる。リオンってそんな怪力キャラだっけ?やべぇな、そんな腕力強かったのかよ。



「では、次に剣の形も粗方決めておきましょうか」


「それも決めるのか?」


「はい、なので今日は別の意味で全力でやるので覚悟しておいてくださいね」



 俺は本当にグラキエスが師匠で良いのか悩み始めた。


 そしてまた、俺に合う剣を探すことになる。

 ◆



 ◆



 ◆



 ◆

「これが1番合いそうですね」


「・・・・・・大きすぎる」



 結果は俺の身長の3倍ある両剣になった。


 説明しよう、両剣とは柄の両端に刃が2本の剣が両手持ち状態の剣で前世でもめちゃくちゃレアな武器だ。かなり重いけど両端の刃の重さでバランスが取れているから扱いやすくはある。



「さて、これからは筋力トレーニングと両立して両剣を教えていきますので」


「…分かりました、お願いしますエス義兄さん」



 俺は手に持っている両剣を握り直してまた明日から始まるであろう地獄を覚悟した。

 エス義兄さんの笑っている顔がどこか怖く感じた。

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