第7話 剣の師匠

「お、おはよう…二人共」


「……」


「おはようございます父上に母上、昨夜はお楽しみのようでしたね」


「お楽しみ?」


「テオは知らなくていいコトだから気にしなくていい」



 俺は隣に座るテオの頭を撫でながら父上と母上の顔を見た。よかった、あのあとなんとかなったようだし。俺に関しては大声を出すこと自体が少なすぎて喉が多少痛い。なんで俺だけダメージを受けてるんだ。


 二人も席について4人で朝食を食べ始める。リオンの記憶でも4人で食べることなんて一回もなかったな。



「二人共、心配かけたな…」


「んーん!二人が仲良しならボクはそれでいいよ」


「テオドール…」


「え?」



 え、テオの本名ってテオドールだったのか?ずっとテオとしか呼んでなかったからテオが名前だと思ってた。原作でもテオの名前出てなかったから知らなかった…。俺は目をそらしながらスープを飲む。ごめん、もう覚えた。なんで記憶になかったんだよ俺!



「全員にも心配をかけた、これからはもっと帰ってくるようにする。3月…いや2月に1回は帰って来る」


「やった!嬉しいね兄しゃま!」


「そうだな、これで改善しないのであればまた殴り込みに行くところだった」


「リオン…?」


「冗談ですよ父上」



 俺が笑って父上を見ると父上の頬が引きつっている。おや、普通に笑っただけなんだけどな〜。まぁ八割は本気だったけど。



「ご、ごほん!リオン、そろそろお前も剣術を扱えるようになってもらう。ウィンタリアに生まれた者なら生きていくためには必要なことだ」


「え、兄しゃまがやるならボクもやる!」


「テオドール、お前にはまだ早いからあと2年待ってくれ」


「えー、兄しゃまだめぇ?」


「…父上の意向だ、それにお前はまだ小さい。大怪我されても困る」



 そんな甘えたような声で俺に言わないでくれ、心苦しい。い、今は我慢してくれ。俺だって一緒にテオとやりたいけど。当主っていう立場の父上に逆らうのもなぁ。殴ろうとはしていたけど流石にこれはちゃんと従わないと。あと剣はちゃんと覚えたいし。



「うぅ…」


「さて、リオン。お前に剣を指示してくれるのは王都の第一騎士団の団長を務めている人物だ。しっかり彼の技術を覚えてこい」


「はい父上。それと、一つお願いがあるのですが」


「なんだ、言ってみろ」


「実は弓も習得したいと思っていまして…弓の指南役が欲しいのです」


「なるほど…お前からお願いされることなんて珍しい。許可しよう。指南役も私の方で探しておく」


「ありがとうございます父上」



 俺は父上にお礼を伝えて俺は早速修練場に向かった。それにしても王国騎士団の第一騎士団とかエリート中のエリートだし、しかもその団長ってなると原作の中でも最強クラスになるんじゃないか?でも作中に出てきたことはないから気になる。


 修練場は屋敷から外に出なければいけないが、こんな寒さが厳しい土地で外で戦えるように慣れておかないといけないので外に修練場がある。修練場の扉を開けると中央に人が立っていた。


 俺と同じ銀髪で黒いコートを着た青年が立っていた。その手には黒くて大きな両手剣を持っている。こっちに気づいたのか青年は俺の方を向いて近くまで歩いてきた。うわ、イケメンだ…リオンも成長したらイケメンだけどイケメンにも種類がある。リオンは近寄りがたい美人系とイケメンだけど青年は儚い感じで振れたら消えてしまいそうな感じのイケメン。



「君がリオン?」


「そうだ、あ…そうです…はじめまして、リオン・ウィンタリアと申します」


「君が話しやすい話し方で構わないよ。私はグラキエス、王国騎士団第一騎士団長をしています。出身はウィンタリア領で当主様に拾われた身です。兄と思って接してくれてもいいですよ」



 へぇ、確かにウィンタリア出身の人は銀髪や白髪が多いって言われてるから納得だ。それに目の色は俺とはまた違った水色だ。俺は薄い氷みたいだけどグラキエスの目は前世で見た氷河の隙間に出来た水たまりみたいな色をしている。



「私の顔に何かついてますか?」


「いえ、目の色が俺の目の色とはまた別の色できれいだと思ってジッと見てしまいました」


「そ、そうだったのですか…恥ずかしいですね」


「グラキエスは長いから・・・エス義兄さん、まず何から…え」



 俺は顔を見ながらまず何をするか聞いてみようとしたら突然グラキエスが崩れ落ちた。俺は混乱して近づこうとしたら剣を持っていない手を前に出された。大丈夫なのかこれ…。しばらく待っていると復活したのかフラフラと立ち上がってきた。



「申し訳ありません、思ったより破壊力があったので」


「あー…」



 なんだろう、俺がテオに対して過保護オタクお兄ちゃんしてる時みたい。たしかに今の俺はリオンの見た目だし幼いからまだ可愛さもある。


 深くは考えないほうがいいな。原作くらい大きくなったら多分崩れ落ちないと思うから俺が大きくなるまで待っていてくれ。



「エス義兄さんって呼ばないほうがいいか?」


「いえ、そのままでお願いします。むしろ義兄さんって呼ばれていたいです」


「ならそのまま呼ぶが…俺に剣を指導してくれるのがエス義兄さんって聞いてたけど何からするんだ?」


「ええその通りです。しかし、同じ騎士団の騎士たちでも逃げるほど私の訓練は厳しいですがそれでも指導を受けますか?」



 厳しい?そんなの上等だ、俺はリオンに転生してからこの先のことを知ってる。俺の目標は「死なずに平穏に生きる」ことだ。死亡フラグをぶち折って、テオを守って、氷龍を復活させて、そんで寿命まで生きる!



「受ける、厳しくたっていい。俺はいづれこのウィンタリアの上に立つ人間であり、国を支える人物でもあるからな。早いか遅いかの違いだ」


「いい心がけです、6才とは思えないほどしっかりしていらっしゃる。では始めましょうか」



 グラキエスは笑って剣を構えた。俺、何も持ってないけど?



「それでは、まずは私の攻撃から避けてください。使えるものは使っていいですので」


「は?」


「油断してると本当に死にますよ」



 俺はすぐに立っていた場所から後ろに逃げる。するとその場所に剣が振り下ろされた。


 剣が俺の立っていた場所に深く突き刺さる。死ぬかと思った、いやあれは死ぬ。突然突きつけられた『死ぬかもしれない』、グラキエスは本気だ。本気で逃げなきゃ死ぬ。


 俺は必死に修練場の中を駆け回った。避けきれなくて掠ったりもした。子供だからか、それとも普通に俺が頭に弱いのかすごく痛い。冷たい空気に触れるだけでも泣きたくなるくらい痛い。



「そんな避けてるだけではダメですよ」


「くっ!」


「私はそんな姿を見たいわけではありません」



 避けるだけじゃダメ?じゃあどうすんだよ!俺は頭の中で考えを巡らせる。一つは魔法を使うこと、だけどまだ俺は使い方を知らないから一歩間違えたら暴走する。もう一つは、真っ向勝負に出る。ただ、武器らしい武器は無いから殴るしか手段がない。まだ小さい分懐に入れる隙はあるかもしれない。けど向こうは現役の騎士団長、隙なんて感じられない。


 もしかしたら降参って言った方がいいのかもしれない。だって向こうは現役で俺なんか経験なんて一つもない。


 だけど、原作のリオンなら逃げる選択肢は取らない。それに俺も、こんなところで死にたくなんかない!!!



 俺は急ブレーキをかけてそのままUターンをしてグラキエスに向かって走る。剣がすれすれのところを通る。怖い、怖いけど、何もせずに死ぬほうがよっぽど怖い。

 あと一歩のところで腹に衝撃が走る。体に浮遊感を感じた後、落ちた。



「カヒュ…!ゲホッ、エ゙ホッ!」


「も、申し訳ありません!大丈夫なわけないですね、すぐに回復魔術をかけるので」



 痛すぎて声も出ないし涙が出てくる。


 俺って、リオンだけどやっぱ弱いなぁ…。雪が降ってきた曇り空を見上げながら俺は涙を流しながら目を閉じた。

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