第6話 問題夫婦にお灸

 しばらく、変わり映えのない日が続いた。だけど変わったところはいくつかある。


 一つは母上が部屋から出てきて食事をとるようになったこと。骨ばって細かった指に肉がつき始めて体温も温かくなった。とりあえずなるべく一緒にいる時間を多くとることで心の健康と体の健康を良くした。


 もう一つが先生を変えたことで勉強がかなり捗っている。最初から全て勉強し直しているが前よりもしっかりと身についた感覚がある。リオンの元の吸収力がいいってのもあるけどな。



 そして今日、王都から父上が戻ってくる。俺らは正装で出迎えることになっている。白いチャイナ服に白の羽織を着ている。母上もちゃんと髪を結ってるしメイクもしていた。やっぱ当主が帰ってくるとなると一大イベントみたいになってくるなぁ。



「兄しゃま、首苦しい・・・」


「次は少し緩いものを準備してもらおう。今は我慢してくれテオ」


「はぁい兄しゃま」



 俺はテオの頭を撫でながら母上をチラッと見る。かなりソワソワした様子で待っている。乙女かっ!

 しばらく待っていると外から騒がしい音や声が聞こえてきた。そして扉が開いた。

 俺は右手の拳を手のひらに合わせて頭を下げる。ウィンタリア流の目上の人に対してする挨拶だ。あれだ、よく見る中華もののアニメとかでやるやつ。



「挨拶はいい、しばらく戻れなくてすまなかった」


「おかえりなさい、あなた」


「お待ちしておりました旦那様、お疲れでしょう。このあとのことは我々がやりましょう」


「助かる」



 俺は自室に向かう父上の背中を見ながらため息を少し付いた。おい、自分の妻になにかアクションせんかい!母上の顔見てみろよ、ショックすぎて顔面蒼白だぞ。崩れかける母上を支えながらとりあえずぶん殴ることが決定した。

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「父上仕事中に失礼しますね、とりあえずぶん殴らせてもらってもいいですか?」


「は?」



 俺は母上を部屋に送ってから父上の書斎に乗り込んで話しながら父上の机の上に乗って上から父上を見下ろした。女を泣かせる男なぞ滅んだほうがいい。だが父親なのでお灸を据えるだけにとどめておく。

 俺は手を拳にして不器用ながら笑顔になる。自分の顔が今どんな顔をしているのかは知らないけど父上の顔を見る限りかなり酷い表情なのだと思う。



「ま、待てリオン!お前いつからそんな性格になった!?」


「別にいつも通りですが、ただ女を泣かせるような人から生まれたとは思いたくないからこんな風になっているだけです。とりあえず歯食いしばれ」


「お坊ちゃま流石に鍛えてはいないとしても旦那様に拳を向けてはいけません!」


「離せじいや、ようやく元気が出てきたと思ったらこのザマだ。父上には一発殴らないと気がすまない」


「お気持ちはわかりますが暴力に走ってはいけません!」



 俺を押さえつけるじいやに離すように言うが離す気配がない。父上に関しては話が見えてないようだが知らん。お前が悪いんだ。



「じいや、どうしてリオンはこんなに怒っているんだ?」


「なんでじいやに聞くんですか?俺に直接聞けばいいものを態々父上はじいやに聞くんですか?」


「お坊ちゃま!落ち着いてください!」


「落ち着いていられるか、母上のあの表情を見てもそれを言えるのか?お前の我が家の忠誠はその程度か」


「そんな訳ありません!ですが…」


「なら離せじいや、俺は父上に一度しっかりと教育しないと気がすまない」


「リオン、なんで怒っているんだ?」


「父上、家に帰ってきてまず何をしましたか?」


「…シャワーを浴びた?」



 コイツ…本当に何も分かってないな。俺は大声で怒鳴った。原作のリオンならこんなことしないだろうけど「俺」が許せなかった。



「自分の妻に対してただいまくらい言え!!!!」


「は?」


「は?じゃない!父上が母上に何も言わずに通り過ぎたときの母上の顔、顔面蒼白!それに父上がなかなか帰ってこないから母上の体調がかなり悪くなった!ここ最近ようやく元気になったところなのに!父上は母上のことが好きだから結婚したんじゃないのか!?妻が大事ならちゃんと言葉を交わせ!俺とテオに迷惑と心配をかけるな!」


「……ユエが?体調を崩していた?」


「そうだよ!母上はずっとやつれてて部屋にずっと引きこもってて!なのに父上のせいでまた体調を崩したらどうするんだ!!」


「ユエはどこにいる?」


「自室にいるから!今日は仕事のことは一度頭から置いておいて母上のご機嫌取りに行って!!」


「教えてくれて助かった、リオン」



 父上はそう行って走って母上のところに向かった。なんだ、ちゃんと母上のこと愛しているじゃん。心配して損した。あと、自分の妻にしたからにはちゃんと責任持って愛せよ。


 だけどそろそろか



「じいや、苦しいから降ろしてくれ…」


「はっ、申し訳ありませんお坊ちゃま」



 じいやの腕の中からようやう開放された俺は床に四つん這いになりながら息を整える。じいや、細いのに筋肉がつまりすぎてる。もしかして服とか破けてムキムキマッチョのイケオジになったりとかしないよな?じいやならワンチャンそうなりそうで怖いんだけど。



「それにしてもお坊ちゃまがこんなことをするとは思いませんでした。少し前ならすぐに勉強に戻っていたのに」


「…少し考え方が変わっただけだ。今日は父上も母上も自室から出てこなさそうだし、食事は俺とテオの分だけ用意してくれ」


「かしこまりました、しかしお坊っちゃまもかなりお変わりになられましたね」


「家族が仲良くしたほうが、お前らもやりやすいだろ。俺は自室で読書でもしているから用があったら来てくれ」



 起き上がって父上の書斎から出る前にじいやに言伝をしておく。多分、テオが暇になるだろうからいつでも遊びに来てもいいという意味で先に伝えておく。




 しかし予想外にテオは俺の部屋に遊びに来ることはなく夕飯まで俺は一人読書をすることになった。



「子供って難しいなぁ…とほほ」

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