第4話 氷の影

「俺復活!」



 昨日の頭痛やダルさが嘘のように無い。あの薬凄いなぁ、苦かっただけあるわ。


 それに今日からまた教育が始まるのか。



「リオン様、今日は歴史について勉強しますよ!」


「・・・」



 なんだこのケバいおばさんは。化粧濃いし、香水臭いし、可愛くねぇし。これで授業が下手だったらクビにするか。ウィンタリア家の立場があれば大体なんとかなるだろ。



「違います!ここは、こうです!」


「・・・はぁ」



「そこはここを見てください!」


「・・・」



「これくらい分からないなどあり得ません‼︎」


「・・・」



 よし、コイツクビだ。


 なんだ、ただ問題を解かせて間違いを指摘するだけで歴史の背景など一切無視。これで教師とかふざけるな。中学の理科の先生をしてるカナちゃん先生(28)の方がもっと教え方うまかったぞ。



 前からあのおばさんは記憶の中の「リオン」のストレスの原因だった。おばさんが帰るのを見てすぐにじいやに言った。



「アイツ、今までも思ってたけど教え方がクソ下手だ。覚えるものも覚えられない。クビにしろ」


「!そうでしたか・・・クビにして明日には新しい家庭教師を手配しましょう」


「頼む、次はなんだ?」


「次はダンスになります」



 ダンスか、貴族なら当たり前だよな。


 少し気は乗らないがリオンは真面目にやってたし、原作を壊さない程度には完璧でいたい。むしろ、俺が今はリオンなのだからちゃんとやらなければいけない。


 ただ、俺はこの時ダンスを甘く見ていた。ここから先地獄しか待っていないのを。



 ◆

「ダンスは2度としたくない・・・」


「お坊ちゃま、ダンスの授業の後はいつも言っておりますよ」


「仕方ないだろ、ダンスの種類は多いわ、テンポも振りも全て覚えるのだけでも大変だ」


「貴族の務めです、慣れていきましょう」


「・・・」



 貴族ってめんどくせー。


 本当に面倒の一言だろこれ。いや、ラノベとか転生もののやつってこういうの中々見ないから自分で体感すると凄い大変だわ。まぁ、俺が読んでいたものには少なかっただけで世に溢れる転生ものにはあったかもしれないけど。



「この後は?」


「この後は特にありませんからご自由にお過ごしください」


「嗚呼」



 外を見るとまだ日は高い。俺はあることを調べるために、書庫へ向かった。


 四大公爵家にはそれぞれ役割がある。東の春を司るスプリアン家は「芸」、南の夏を司るサマナ家は「商」、西の秋を司るオータ家は「創」、そして北の冬を司るウィンタリア家は「武」。


 俺の実家は「武」を司るが故に領民も戦士や猟師が多い。元々の環境が過酷であるからかウィンタリア領に住んでいる人間は男女共に屈強な人間が多い。それに、一年中作物の育たない環境なので食べ物は農業が盛んなオータ領から分けてもらうか自ら動物を狩るかしか無い。


 俺は書庫に着いてウィンタリア領に関する歴史書や文献、とにかくウィンタリア領について詳しく書かれている本や資料を全て集めて読み始める。


 なんでこんなことをしているかと言うと、ウィンタリア領については俺も詳しく知らないからだ。原作やゲームで多くは語られていない。原作では「雪と冷気で過酷な環境に置かれる戦士の地」と言われているだけ。ゲームだとレベリングのために周回するような土地であまり探索要素が無い。


 リオンの記憶自体にもあまり残っていないから今から知らないと自分が自立した時や、テオを守る時に動けないかも知れない。なのでウィンタリア領について知ろうとしているのだ。



「これも、俺の平穏な生活のためだ」



 俺は一つ一つ読み進めていく。


「ウィンタリアの全て」、「戦士の地の基礎」、「ウィンタリア領の始まり」、「改訂版・新版ウィンタリア領地図」、「雪原の土地にいる動物・魔物」、「四大公爵家のすゝめ〜北編〜」、「氷龍について」



「・・・氷龍?」



 俺はある本に目がいった。


 シーン王国は5体の竜が初代国王と4人の賢者に力を合わせてできた国だ。原作でも竜については語られている。そして登場もしているんだ、3体だけ。


 その中に「氷龍」なんていなかった、いや、いるはずだけど登場しなかった。登場したのはウィンタリア家を除く四大公爵家のみ。もう一体の存在は王族のみに明かされているとか言われていた。


 竜は賢者と同じくそれぞれの季節を司っている。だがウィンタリア家にはその存在はいないとされていたはず。原作のリオンも主人公に聞かれていたけど、怒鳴っていたな。



「・・・原作のリオンも『氷龍』の存在が実在するのか知らなかった?」



 他の公爵家が「竜」の存在がいるのに、ウィンタリア家にはいない?



「あれ、ならこの本は・・・」



 俺はボロボロで少し虫食いが見られる「氷龍について」と表紙に書かれている本を読み始める。




『氷龍


 その存在は我らウィンタリア家の守護龍であり、冬を司る龍。


 氷龍はシーン王国からずっと北東にある大陸「亜東大陸」の「   国」の雪深い山脈で出会った。


 氷龍は初代国王と契約し、シーン王国建国に助力した。


 しかし、氷龍は契約を破りシーン王国    

 くなろうとした。


 だから私は、私たちは氷龍を封印した。


 恨まれることはわかっているが、いなくなられると困る。


 氷龍は最後のページに書いてある地図の洞窟の奥に封印している。


 もし、封印を解いたらまず私の代わりに謝罪をしてほしい。


 あの後、封印しなければ良かったとひどく後悔した。


 だが私には解けなかった、解けない。


 だから、この本を見つけた子孫よ。


 私の最後の願いとして、彼を、氷牙に謝罪をしてほしい。


 もしものために、この本には氷龍のこと全てを書いておきました。



 私の最後の後悔を、任せてしまうことを許してください。



 冬の賢者  ディン・ウィンタリア』




「・・・国の陰謀かもしや?」



 これ見なかったことにできないかな?


 いや、でも正直な話をさせてほしい。普通に最悪だろこれ。氷龍可哀想。途中虫食いで読めないところもあるけどニュアンスだけで読めば氷龍は逃げようとしたのか帰ろうとしたのかの2択だよね?契約を破るのはダメだとしても封印は酷くない?


 よっしゃ、封印解いたろ。



「これに関しては原作とは違うけど、なるべく平穏に生きれるように俺が調節すればいいだろ」



 甘い考えだと思ったが、確かにかなり甘すぎた。クリームたっぷりのショートケーキ並みに甘かった。

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