第10話 「この乱世において、善なる心など無力に等しいですな」 評伝 ロイヤルブラッド(PC88他・光栄・SLG)
<はじめに>
この作品は今は昔、光栄が「信長の野望」「三国志」「ジンギスカン」という歴史三部作の後に世に出した、架空の世界イシュメリアを舞台としたファンタジー系国取りSLGです。
ゲームの出来としては、三部作に比しても非常にシンプルな作りであり、誰でも気軽に楽しめる反面「歯ごたえの無さ」「物足りなさ」を感じる面もありました。
しかしながら… その作りこまれた設定の数々は実に興味深く、一旦「世界」に入り込んでしまえれば、想像を広げつつ不思議と何度となくプレイしたくなるという、欠点を補って余りある魅力を持っていた作品とも言えました。
<バックストーリー>
人間が妖精・モンスター等と共に共存する、自然に恵まれた平和な島国・イシュメリア。
かつて神・巨人・竜などを交えて行われた壮絶な争いも最早伝説となったその地は、「ロイヤルブラッド」と呼ばれる強大な力を秘めた王冠を擁するランカシア王家の元、長きに渡り太平と繁栄を謳歌していた。
しかしながらその平和も、時の王エセルレッドが己の欲望の赴くままに王冠の強大な力を用い始めた事により、次第に暗雲が立ち込めていったのである…
聖暦909年。常日頃より父の乱業に心を痛めていた王女アヴェールが、神の啓示を受けてロイヤルブラッドに封じられた六個の宝石を解き放ち、激怒した父王に幽閉されるという事件が起き、事態は一気に動き出す。ロイヤルブラッドがその絶対的な力を失うと共に、各宝石に封印されし宝石魔術師達が、それぞれが見込んだ貴族の下へと赴いて決起を促した為である。
曰く、「最後の希望たるアヴェール姫が幽閉された今、我等六人の宝石魔術師とロイヤルブラッドを一つにまとめあげてイシュメリアを制覇する者こそ、新しい王となり囚われの王女とイシュメリアの平和を取り戻す者である」と…
かくして啓示を受けた六人の貴族達は、アヴェール姫救出とイシュメリアの制覇を目指して立ち上がる。
それが長きに渡る乱世、即ち「正しき秩序もち掲げし時正しく世を導き、邪心持ち掲げし時世を滅ぼす」と言い伝えられし、ロイヤルブラッドを巡る王冠戦争の始まりであった…
<内容>
本作では
1.「エランとレッドワルト」(戦乱開始直後。圧倒的な力を誇る王家と、辺境で挙兵した貴族達という状況)
2.「フェリアス家の危機」(1の五年後。王家は新たな離反者を出しつつも未だ圧倒的な力を誇り、各地では貴族間の抗争が激化している状況)
3.「ティリアンの戦い」(1の十年後。旧家の滅亡、新興勢力の勃興など戦乱が激しさを増していく中、王家に徐々に陰りが差し始めている状況)
4.「ロイヤルブラッド」(1の十五年後。群雄の中からブランシェ・ライル両家が抜け出す中、王家が完全に落日を迎えつつある状況)
という題の四つのシナリオが用意されており、登場人物達はその中で勢力を伸ばしたり、家ごと滅び去ったり、戦場に倒れたり、寝返ったりと多彩な遍歴を重ねているなど、全般的に「歴史の流れ」を感じさせる作りとなっておりました。
…まあそれだけに、「個別の家毎のイベントやエンディングが全く存在せず、殆どは断片的な情報による脳内補完頼り」というのは、実に残念だったのですが。
おそらく、この部分を許容し自力で「作品世界」に入り込めるかどうかが、この作品への評価に大きく影響するのではと思います。
また、本作は設定上モンスター・魔法・神などのファンタジー的要素が色濃くあり、戦場でもスケルトン部隊を動員したり雷を落としたりとらしさを味わえるのですが、「国を富まし、兵を蓄え、他国を攻め取る」という基本が最重要である為、それらは決して「主」では無くあくまで「従」の地位に留まっていたのが、SLGとしてのバランス状良い感じでした。
その他、印象的な事を幾つか挙げてみますと…
●第五部隊 ~功罪併せ持つ戦場の華~
本作で戦闘が勃発すると、攻撃・防御側とも自動的に兵力が四等分され、第一(騎馬)・第二(弓)・第三・第四(共に歩兵)隊に編成されるのですが、第五部隊はその員数外の補助兵力と言えます。
…まあ、状況や種類によっては一~四の一般部隊を圧倒さえ出来るものを「補助」と言うのが適当ならば、ですが。
そしてこの部隊は全部で二十三種に及びますが、大きく分けて二種類のケース、即ち
○条件を満たしていれば無報酬で使用可能だが、使用制限があるもの(8種)
ドラゴン(炎を操る最強の怪物)・ミーティア(隕石魔法を操る魔術師)・サンダラス(雷を自在に落とす魔術師)・フレイム(爆炎を操る魔術師)・マシェーティ(かまいたちを自在に起こす魔術師)・チル(全てを凍らす魔術師)・ポイズン(毒の霧を浴びせる魔術師)・パスハ(神に遣わされし強力無比の御使い)
○いつでも使えるが、雇うのに一定の名声が必要な上、季節ごとに少なからぬ報酬が必要なもの(15種)
スケルトン・オーク・オログハイ・ガーゴイル・バグベア・ファハン・オーガ・サラマンダー・ワイバーン(以上、魔物系)
パイクス・ピルムス・シューター・ガンナー・ランツクネヒツ・ハイランダース(以上、特殊傭兵隊)
に分けられており、国力や戦力、そして何より懐具合との兼ね合いが、なかなかに重要だったものでした。
なおこれらの中でも、ドラゴン・ハイランダースを筆頭とする一部の強力な部隊は、それこそ単独で戦況をひっくり返しかねぬ強大な力を持っていましたが、それでも「大兵力での平押し」という数の暴力で押しつぶす事も十分可能だったという点が、個人的には非常に良かったです。
●見つめる「神の眼」 ~「善政」への褒賞と、「悪政」への誅罰~
この世界の神は、日頃下界を見守りつつ、各領主の行動に対して「イベント」という間接的な形で干渉を行ってきます。それが、各地で頻繁に起こるラッキーモンスター及びイーヴルモンスターの出現です。その効果や影響は、パスハ降臨やバンシー出現など一部を除けば、概しておまけ程度の枠を出るものではなく
ラッキーモンスターは政治に励むと現れ、統治度・土地・食料・兵力・資金・名声・能力・パスハなどを得られる。
イーヴルモンスターは軍事にかまけると現れ、統治度・土地・資金・兵力に被害を与え、最悪の場合は家臣の命をも奪われる(バンシー)。
と、いった物でした。
如何にラッキーモンスターを呼び込み、イーヴルモンスターを防ぐか。左程難しい事でも無く、情勢によっては無視しても構わぬレベルの問題とも言えたのですが、一つのポイントではありました。
●特色ある助言者達
このゲームではシナリオ開始の際、民政家・元軍人・老賢者・道化師といった四人の人物から一人の相談役を選び、任意の時に助言を得ることが出来ました。まあ助言と言っても、例えば「三国志」(光栄)での軍師の様にコマンド毎に成否を判断してくれる様なものではなく、「○○国が手薄だ」「民政(あるいは傭兵・資金などなど)は大事だ」といった、ワンポイントアドバイス的なものが殆どでしたが…
よって、指名しただけで一度も助言を仰がずとも、プレイ自体には全く支障はありません。しかし、例えば同じ隣国の手薄さを進言する情報にしても、
民政家「○○国を見て! 今攻め込まれたら、ひとたまりも無いわ…」
元軍人「戦じゃ、戦じゃ! 第○○国は手薄と見たぞ! 攻めるは今ぞ!」
老賢者「○○国を攻めるなら、今が好機じゃな」
道化師「第○○国の林檎は、今が食べごろ落としごろ」
といった風に其々の性格が出ており、見ているとなかなか楽しいものがありました。
また、相談役の中でも道化師は一際独特であり、「民の富は王の富、王の富は王の富。民の怒りは王への怒り」「荒れた土地こそ良い土地だ。誰にも見向きもされないで、平和に暮らせる良い土地だ」と言った皮肉に満ちた物言いは、実に印象深かったものです。
●きめ細かい設定
本作は、前述した様にイベントの類は皆無であり、どのシナリオの誰でやろうと(特に中盤以降は)あまり変わり映えしない、という決して小さくない欠点を持っています。
しかし「ロイヤルブラッドハンドブック」(光栄)や人物一行評伝(PC98版)などを見ても判りますが、人物の相関関係からイシュメリア前史・風土・部隊やモンスターの概要など、実にきめ細かい設定が用意されていた為、それらを知っていさえすれば、勝手に脳内補完しつつ楽しむ、ということが可能ではありました。
無論折角秀逸な設定があっても、ゲームに余り反映されていない事自体は、決して褒められたものでは無いのですが…
<機種による違い>
本作はPC88版を皮切りに、PC98、FC、MD、SFCなどに移植されていました。私が実際にプレイした事があるのは、その中でも88・98・SFC版のみなのですが、それらには若干の違いが見受けられました。
以下、自分が気付いた点を思い出しつつ述べて見ますと…
○人物一行評伝の追加(PC98版)
98版にて人物情報にさり気無く追加されていた要素ですが、簡潔ながら実に想像力を働かせたくなる物が多い上、人物によってはハンドブック所載の解説文以上に詳細かつ重大なことが記されていたりと、ロイヤルブラッド世界を味わう上で、まさに欠かしたくない一品でした。
○新ラッキーモンスターの追加(SFC版)
極めて些細な事ですが、ラッキーモンスター達の中に、防災度を高めてくれる新モンスターが追加されていました。
○OPの変化(SFC版)
PC版とSFC版の最も大きな違い、それがOPと言えるでしょう。
SFC版の場合、家庭用という事を意識して判り易さでも狙ったのかも知れませんが、内容そのものが妙に簡素化されて味気なくなってしまっていたのは、「元」が好きだっただけに実に残念でした。
具体例としてOPの終盤、六人の宝石魔術師がそれぞれの見込んだ貴族の元へ行くシーンの一つを挙げてみますと…
「ブランシェ家のエラン殿… 彼には苦難の相が見える。だが、その瞳は決して輝きを失ってはおらぬ。彼こそ我が雷もて新王となすべきお方じゃ!」(PC版)
↓
「イシュメリア一の勇者、ブランシェ家のエラン殿こそ、民を導いてくれるお方じゃ」(SFC版)
…といった感じに変えられておりました。
もう一点の変化の方、即ち各シナリオの各家毎に独自のOPが加わっているというのは、例えそれが二言三言喋るだけの簡潔過ぎるものであろうとも喜ばしかったのですが、こちらは何とも…
<総評>
「設定は非常にしっかりしているが、余りゲームに反映されていない」
「気軽にプレイしやすいが、歯応えが無い」
しっかり料理されれば、どれだけうまくなるか判らない程の素晴らしい「素材」
評してみれば本作はそんな感じのゲームだったかと思っております。
名のみⅡながら、システム・設定とも面影が無さそうな続編(未プレイ)を出した仕打ちにも恨み節をも込めて… 「惜しい作品」。ただその言葉を贈りたいです。
総合評価 … ★★★★(未だ色褪せぬ、名素材)
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