第13話『植物市の魔物』

 亜久郎(あくど)と鼠奈(そな)は南銀座を歩いていた。表通りは避けての移動であった。なるべく人の通りが少ない道を選び、裏通りを進む。先程の一件の後、鼠奈(そな)はまだふて腐れたままだった。

 魔木を扱う店が出ているのを眺める。南銀座は大宮でもあまり治安がよくない場所である。表通りには昼間なのに営業している飲み屋や、いかがわしい酒場が賑わっていた。裏通りも、街路を徘徊すると奇妙な店ばかりである。変な薬を売っている店が多く見受けられて、不安になったのか、鼠奈(そな)が重い口を開いた。


「ねえ亜久郎(あくど)、あんた埼玉には詳しいの?」

「全然。詳しくないけど、浦和に知り合いがいるから話に聞いたことがあるものとかはあるだけ」

「そうなんだ……」

「植物市とか水祭り? とかね」

「顔広いんだね」

「まあな」


 いつも出ている闇市を前にして、亜久郎(あくど)は立ち止まった。もうすぐ大宮の治安がいい辺りで植物市が開催になる。それと並行して規模の大きい闇市を出す話を、間借りしていた酒場で聞いていた亜久郎(あくど)だったが、その準備なのか妙にひとの出入りがあった。

 亜久郎(あくど)としては植物市の開催などはどうでもよかった。鼠奈(そな)を歌わせて金を取れる場所がほしいだけだったのだ。都合のいい店先を探して、亜久郎(あくど)は首を巡らせる。鼠奈(そな)が並んでいる店を示して、小さな声で尋ねてきた。


「これって闇市かな」

「そうだろな」


 小さな闇市には、植物を扱っている露天商がいた。普通に植物を扱っている者とは違って、何処となく風貌が悪い者ばかりだった。亜久郎(あくど)は何気なくその男たちの方を見た。店先を貸してくれそうな店を知っていそうな顔を探していたのである。柄の悪そうな露天商は、金額が書いてあるタグが引っかかっている木を出店に並べている。亜久郎(あくど)も鼠奈(そな)も植物に興味がなかったので、タグに書かれた金額が闇値なのか相場なのかが分からなかった。

 亜久郎(あくど)がじっと露天商を見ていると、視線に気づいた露天商が声を掛けてきた。


「煙草、どうだ?」

「いいの? ちょうだい」


 煙草を勧められた亜久郎(あくど)は、差し出された紙巻き煙草の箱から一本、煙草を取った。火を貸してもらって、一服する。その煙草を吸っても亜久郎(あくど)の身体に何も起こらなかったので、露天商はそれきり何も言わなかった。鼠奈(そな)は怪訝そうに亜久郎(あくど)と露天商を見たが、亜久郎(あくど)は親切心で煙草をもらったとばかりに思っているようだった。

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