恋に落ちる時

お土産を選んでいる間に辺りは暗くなり始めていた。

予約の時間も迫っていた為、僕と奏さんはレストランに向かう事にした。

奏さんと手を繋いで駅前まで戻ると予約したレストランに向かった。


店に入ると予約をしていたので、すぐ席に案内された。

白い壁に椅子やテーブルもシンプルで店内はとても落ち着いた雰囲気だった。


「ここはピザとパスタと両方美味しそうだからシェアしない?」


僕は頷くと、奏さんとメニュー表を見てマルゲリータと蟹のトマトクリームスパゲッティに決めて注文をした。


注文を済ませると、奏さんが口を開いた。


「このお店、落ち着いていて、とても雰囲気が良いよね。透君、予約をしてくれてありがとう」


「僕は予約をしただけですから。このお店を選んだのは奏さんなので、感謝をするのは僕の方ですよ」


「このお店を教えてくれたのは友達だから、それなら私は友達に感謝をしなくちゃだね」


そう言うと奏さんはニコリと笑った。

そうな話をしていると注文していたマルゲリータと蟹のトマトクリームパスタが運ばれて来た。


「美味しそう」と笑顔を見せる奏さんと手を合わせ、「いただきます」と言って、食事を始めた。


「奏さん、ピザとパスタ、どちらから食べますか?」


僕の質問に奏さんは腕を組んで考えると、「パスタから食べようかな」と答えた。


その言葉を聞いて、僕はパスタを小皿に取り分けると、「どうぞ」と言って奏さんの目の前に置いた。


「ありがとう、透君。気が利くね」


「こういった時は年下の僕が積極的に動かないといけないと思っただけですよ」


「今はデートだから、そんな事を気にしなくて良いのに」


「……そうしたらエスコートの一環です」


僕の言葉を聞いた奏さんは微笑んで頷いた。


「うん、それなら良し!」


僕は自分の分のパスタも取り分け一口食べた。


「美味しいですね」


その声に奏さんが頷く。


「うん、ピザも美味しいよ」


そうして楽しく食事を終えたのだった。


食事を終えて、僕と奏さんは近くの公園のベンチで休憩をしていた。


「透君、今日はありがとう! プレゼントもくれて、嬉しかったよ」


奏さんはそう言ってパンダのぬいぐるみを抱き締めた。


「僕の方こそとても楽しかったです」


そこまで言って、「また、どこかへ行きましょう」と誘って良いのか、とても迷った。

軽い気持ちで誘っても良いのかもしれない。

しかし、今の僕からすると、次の約束をするという事は奏さんとの関係を一歩進める事になるのではないかと感じていた。

それが今なのか、それともまだなのか、僕には判断しかねていた。


黙り込んだ僕を見て奏さんが口を開いた。


「透君、次はどこへいこうか?」


奏さんはすごい、と思った。

僕が言えなかった言葉を簡単に言葉にする。

もしかしたら深く考えていなかったのかもしれない。

しかし、奏さんから言ってくれた事が情けないけど、僕はとても嬉しかった。

その時、奏さんの事が無性に愛おしくなって抱き締めたいと急に思った。

僕は慌てて首を振ってその気持ちを追い払ったが、何かストンと腑に落ちた気がした。


「また後で考えましょうか」


僕はそう言って奏さんの顔を見た。


僕は奏さんが好きなんだ。

今、僕は恋に落ちたんだ、そう思った。

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