パンダのぬいぐるみ

ペンギンを見た後、僕と奏さんはお土産を売っているお店に足を運んでいた。


「色々な種類があるんだね」


店内にはお菓子やぬいぐるみ等、様々な商品が並んでいた。

少し奥に行くと奏さんが声を上げた。


「あっ、パンダのぬいぐるみだ!」


奏さんはパンダのぬいぐるみを手に取ると頭を撫で始めた。


「モフモフだ! 気持ち良い〜」


奏さんがパンダのぬいぐるみを抱き締めている姿はとても可愛らしい。

僕は温かい気持ちになり、その様子を眺めていた。

パンダのぬいぐるみは中々大きく、先程の女の子とのやり取りも相まって、奏さんが抱っこをしていると、まるで赤子を抱いている様な想像をしてしまう。

奏さんはどんな母親になるのだろうか、先程の女の子の時のように優しくやり取りする姿や男の子と沢山体を動かして遊んでいる姿も容易に想像する事が出来た。

とにかく、良い母親になるのだろうな、と思うのと同時にその時に奏さんの隣にいる男性はどんな人なのだろうと変な想像をしてしまった。

慌ててそんな想像を振り払うように頭を振った僕を奏さんは不思議そうな顔で見ていた。


「透君、どうしたの? 虫でもいた?」


「いや、なんでもないです」と僕が答えると、奏さんは、「そっかー」と言って、パンダのぬいぐるみの頭を再び撫で始めた。


僕は撫でられているパンダのぬいぐるみに、お前のせいで変な想像をしてしまったぞ、と念を送る。

しかし、すぐにしょうもない事をしている事をしている事に気付き、溜め息をついた。

どうも調子が狂う。


やがて満足したのか、パンダのぬいぐるみを置こうとした奏さんの手を僕は止めた。

不思議そうな顔をしている奏さんからパンダのぬいぐるみを預かり、そのままレジに持っていき、会計を済ませた。


驚いた表情の奏さんと共に店を出た僕は、「プレゼントです」とパンダのぬいぐるみを奏さんに渡した。


奏さんは慌てて、「でも、高かったでしょ?」と言って財布を出そうとした。


僕は手でそれを制して、「奏さんがパンダのぬいぐるみを抱き締めているのが、似合っていたというか、その、可愛かったから勝手に買っただけです」と、後で振り返ったら絶対に恥ずかしくなるだろう、と思うような言葉を伝えると、奏さんはキョトンとした顔をした後、微笑んだ。


「透君が急にプレゼントをくれるなんて思わなかったから驚いちゃった。でも可愛いって言ってくれて嬉しい。正直、買おうかどうか迷っていたし。だから、ありがとう!」


奏さんはパンダのぬいぐるみに向かって、「一緒にお家に行けるって。良かったね」と話しかけていた。

その可愛らしい姿を見ていると、パンダのぬいぐるみと目があった。

お前のせいで変な想像をしてしまったけど、お陰で奏さんが喜んでくれたから許してやる、と念を送った。

すると、次の瞬間、パンダのぬいぐるみを抱っこしていた奏さんが向きを変え、パンダのぬいぐるみが横に動いた。

それはまるでプイッとそっぽを向いているように見え、やっぱり今、僕は調子が狂っているみたいだ、と思った。


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